8話:魚のすり身を練って作られたカマボコにチクワにって色んな料理に使えて万能食材と呼んでもいいモノだよね?
大聖堂に入るとステンドグラスが煌びやかに輝き、至る所に宝石が埋め込まれ豪華絢爛も度が過ぎていると言えるような内装であった。正直、アイリスちゃんとカトレアちゃんの実家の方が目に優しくておしゃれだった気がするんだよ!普通のお城だったしね!ヴァンパイア城なのに真っ白なお城だったけども!
中ほどまで進んだところでふと振り向くと、ライガーがいなかった。あれ?何でかなと探してみれば、入り口の所で止められていた。何かな?変なモノ持ち込もうとしたわけじゃないと思うけど、とトテトテと戻ってみる。
「ここは勇者の神殿。亜人如きが立ち入れる場所ではない!即刻、ここを立ち去れ!」
「ええと、ボクは呼ばれたから来たのだけど、それでも入れてもらえないのかい?」
「亜人を呼ぶわけが無いだろうが!」
門番の鎧姿のおっちゃん達が今にも手に持った槍をライガーに向けて振り下ろさんとしている。うん、これは危ない。そっと間に入ってライガーをお姫抱っこしてしまう。
「うちの子がご迷惑をお掛け致しました。ええ、入ってはいけないと知らなくって」
「お前がそいつの飼い主か!しっかりと縄につないどけ!」
「あはは、そうですね。それではそうさせていただきます」
みんなを一旦手招きして、馬車の所へと戻って行く。
「亜人、か。奴隷狩りとかクエストで出すくらいだから獣人に対する辺りは強いと思っていたけれど、ここまでとはね」
「なら、私たちも残った方が良さそうですね」
「姉さんは大丈夫だと思うけど、その、私は……」
確かにカトレアちゃんは魔石持ちのヴァンパイア。と言うか俺の頭に乗ってるフレアに公くんも連れて行くのはやめておいた方がいいだろう。
「それでは私もここに残りましょう。皆さんだけで残してしまうと何か……ありそうな気もしますので」
「確かに、シレーネさんが残ってもらえると助かるけど……」
「むしろ、私が憑いて行ってしまうと何か言われてしまうかもしれません。今の姿は元の姿からかけ離れてしまっていますから……」
言われてみれば確かにその通り。シレーネさんのこの黒髪巨乳の薄幸美人の姿はとある村の少女の姿と記憶を借りたモノ。中身そのものも元のシレーネさんとはかけ離れてしまっているから、正直突っ込まれると辛いところはあるだろう。
「シレーネさんの活躍はまた後日ということで」
「兄さん、ひと悶着起こすこと前提なんですね……」
呆れたような顔で真理がため息を付く。
正直、何事も無くサクラちゃんの魔石を手に入れて帰れるとは思っていない。勇者教側もサクラちゃんとナナちゃんの行方は探しているだろうし、俺のもう一つの探し物も見つかっていないしね!
そう言う訳で、大聖堂に行くメンバーは俺とビオラちゃん、真理にアイリスちゃんと相成った。残りのみんなは馬車でお留守番である。
「そういう訳でちょっと行ってくるとするよ」
「あ、あのな、真人」
「ん、何?」
「行くんならボクを下ろしていってからにしてくれないかな?そ、その、そろそろ恥ずかしい……」
消え入りそうな声で俺にお姫様抱っこをされたままのライガーが真っ赤な顔を両手で抑えてそう言う。おっとあんまりに軽いからすっかり忘れてたんだよ!ゆっくり降ろしてそっと頭を撫でてあげる。
「撫でるな、バカ」
むっとした顔はするものの、嬉しそうに尻尾を立ててされるがままになっている。ライガーが女の子と聞いてからしばらくたったけれど、何だかこういうスキンシップが増えて来たような気がする。女の子扱いと言うか妹みたいな扱いのような気がするけれど、ライガーはこれで良いんだろうか?気になるところではあるけれど、そろそろ本妹の視線が痛いので撫でるのはやめて、今度こそ大聖堂の中へと行くこととする。
改めて門をくぐり、趣味の悪い内装の廊下を進んで礼拝堂への扉を開く。
整然と並べられた長椅子のその先。様々な神々を象ったレリーフのその前に、フードを被った他のユウシャ達とともにその男はいた。
筋骨隆々としたその肉体にローブを纏い、片眼鏡をつけた青年――そう、彼こそがこの勇者教の最高幹部にして教皇である勇者、柳生恭司その人だった。
現状、世界最強のユウシャであると言われており、彼の指揮無くしては数々の魔王討伐は無しえなかったとも言われている。……いる、のだけれど、俺がその記録に並ぶほどに魔王を倒してしまったので、今回こうして教皇直々に俺たちのパーティーを呼び寄せたのだそうだ。ふふ、やっぱりちょっと頑張り過ぎちゃったかな!
「おお、待ちわびたぞ勇者諸君。君たちが噂のパーティーだね?」
大きく腕を広げて仰々しく勇者教皇がご機嫌な声を上げる。そりゃあそうだろう。俺たちの討伐した魔王達の魔石のほとんどはここに集約されているのだ。あれ程の量と質の魔石なんてそうそう手に入る筈もない。
「初にお目にかかります。私がこのパーティを取り仕切らせていただいておりますスミレ・グリフィンと申します。以後お見知りおきを」
「なるほど、若いうえに見女麗しいときた。それでいて快復と水魔法のエキスパートと来たものだ。ぜひともこれからの活躍も期待したいものだ。そして、その仮面の君は」
「申し遅れました。私はスミレ様の執事を務めさせておりますピーターと申します。親しみを込めてピーターと呼んでくだされば幸いです」
まぁ、偽名なんだけどね!と心の中で呟いて頭を下げて見せる勇者教皇の値踏みするような視線をにこやかに躱したかったのだけれど、何でかジックリねっとりと見られてしまった。俺にそんな趣味は無いからご遠慮願いたいんだけどな!
「噂はかねがねと聞いている。登録にない勇者とのことだが、なるほど記憶を失っていては登録の私用も無いか。神に訪ねても自分の名はわからないモノなのか?」
「残念ながら私の神様は復活したらさっさとこちらの世界へ送り返してくださりますので、会話を挟むこともままならない次第で……」
「なるほど、そういう神も少なからずいるからどうしようもないという訳か。しかしながら、君のチートとやらは報告されていないが、分身やその技がそうなのかな?」
そう言われても貰っていないのだから、無いものは無いのだけれど、それを言ってしまえばさらに面倒なことになりそうなのでそう言う事にしておく。まぁ、その方が分かりやすいと真理にも言われたしネ。
「なるほど、戦闘系のスキルか。ここまで能力の高いものは初めてだな。……是非に――いや、これはいずれで良いか。今日はご足労いただき感謝する。勇者教としては魔法学園の紹介状を持つSランク冒険者の君たちを、この勇者教の幹部として徴用したいと考えているのだが――どうだね?」
「前向きに検討をさせていただきたいと考えております。ですが、私たちは今までのパーティーで動かなければ今までと同等の実力を発揮できないと考えております」
「ふむ、小隊での活動が前提となるわけか。いや、勇者教に貢献してもらえるのであればそれでも構わんよ。だが――そうだな。着いて早々ではあるが、一つクエストを受けてはくれないか?」
「と、言いますと?」
ビオラちゃんが緊張で震える声を抑えながらそう尋ねる。頑張れビオラちゃんと応援することしかできないのが辛いところだ。
「なに、君たちならば簡単な事だ」
そう前置きをして勇者教皇――柳生恭司はニヤリと不敵に笑ってこう言った。
「この聖都ヴァルハラに巣くう反勇者教ギルドを君たちの手で潰して欲しい」
――と。
うん、何で面倒ごとを俺たちに押し付けるのかな!自分たちでやれよぅ!とは流石に言えないので、この件はお持ち帰りさせてくださいと流しておくことにする。明日に答えを持ってくる約束をして俺たちはみんな揃って大聖堂を後にしたのであった。
今日も今日とて遅くなりm( ˘ω˘)スヤァ