5話:お腹が空いてたまらない時はたとえ苦手なモノでも美味しく感じられそうでそうでもないよね?
流石は何でもできる我が妹。ちょっと教えるだけで一を十で覚えたその料理は一緒に居たここ三カ月で俺に並ぶレベルになっていた。というか、成長早すぎないかな!
「そりゃあその、食べて欲しい人がいれば当然だと思うけど」
「そうかな?そうかも?」
――そういえば俺も真理に美味いものを喰わせたいと思って料理修行したんだっけ、とふと思い出す。
折角海外に来てるんだし、美味いもの覚えないとね!と欧州やアジア各地の、評判の料理店などで雇ってもらった事がある。師匠から技を盗むことに定評のある俺は、ものの一月もしない内に各店の味をある程度マスターすることができたのだけれど、ある程度のところで本家の連中の邪魔が入る。うん、本当に滅べばいいのにと何度思った事か……。まぁ、滅んだけどね!ともあれ、お世話になったお店には俺のできる範囲のお礼はした筈だけど、本当に迷惑ばかりかけてしまっていたように思える。俺ってば、本当にはた迷惑な奴だな!
「ビオラちゃんの治癒で治ってはいるけど、まだ目は覚めない……か」
「うん、体じゃ無くて心が消耗してるんじゃないかって」
安らかな顔で眠る少女――葵は何故、襲われていたのだろうか?と、彼女のベッドの横に座ってふと考える。
商隊の売り物の中には各国で違法と呼ばれるモノも無く、彼女が護衛していた商人たちも大きな店を構えている商人達という訳でもない。至って普通の行商人たちだった。気になるのは一緒に居た冒険者たちが低ランクであった事くらい?だろうか彼女がBランクであるのに対してDランクの者たちばかり。低ランクの任務を受ける高ランクの勇者もいるのだからおかしなことではないのだけれど、これだけ普通が並べられた中では異質に感じるのは無理は無いだろう。
「でも、Bランクって割とすごい冒険者なのよね?なのにこんな風になるだなんて……」
「どんな強者でも圧倒的な数の差には勝てないこともあるし、対策を取られてしまえば力の差なんて――む」
そこまで言ってふと、気づく。
ならば、彼女は対策を取られていたのではなかろうか?襲撃者たちにこの子の対策を命じていたのだとするならば、力量差なんてあってないようなもの。たとえBランクであったとしてもCランク程度が寄ってたかれば一方的に嬲る事もできるだろう。
けれど、気になることもある。
「ユウシャってのは死んだら教会に戻るんだ。怪我もほとんど治った状態で。だとするならばあの場で殺せば、この子は普通に死に戻りするだけ。まさか、名声に傷をつけるためだけにあんなことをしたとは思いにくいけれど」
『捕らえさせてしまおうと考えていたのではありませんか?勇者とはいえ見女麗しい少女です。彼女を捕らえて欲しいと邪な考えを抱くものがいてもおかしくは無いかと』
頭の上にプニっと座った沙夜がうんうんと頷きながらそう言っている。こんな世界だ。そんなこともあり得ると思えてしまうのが辛いところだ。
「それは――恐らく、違う」
ふぅ、と息を大きく吐いて少女の――葵の口が開いた。
「ん、目が覚めたのかい?」
「ついさっき、な」
ゆっくりと体を起こし、彼女は優しく俺の手を握る。
「いや早迷惑をかけてしまったようで申し訳ない。本来ならばナニカお礼をしたい所なのだけれど、あいにく持ち合わせが無くってね。緊急に入ったクエストに知り合いがいてどうしても参加して欲しいと言うモノだから参加したらこれさ。いやはや本当に運が無いと言うか何と言うか。ああ済まない。私の名前だったな!私の名前は入町葵という。もしかすれば既にプレートとを見て知っているかもしれないが、あいさつと言うモノは時に重要な事になる。そう、名を互いに知る事は物語の始まりと云事にもなり得るのさ。それで君の名前を聞かせてはくれないかい、私を救ってくれた素敵なナイトくん?」
「あ、は、はい、みな――ごほん、ピーターです」
マシンガンのような彼女のトークと太陽のようなニッコリ笑顔に思わず本名を言いかけてしまった。危ういな、俺!
「なるほどなるほど、本名は明かせない、と。その怪しげな仮面はさておいて、あれ程までの戦闘能力は驚嘆に値する。あの時は私のチート、ラピッド・チキータを封じられてしまってな。装着展開を限定的にしてしまったのがいけなかった。走ることに関しては全力がモットーなのだが、どうしてもそれ以外が疎かになってしまう事が多くてな。なるべく早く、素早く、手早くと考えてしまう訳だ。まさかそこを逆手に取られるとは思わなかったが――やはり、彼らは私を狙ってきたのだろう」
怪しげな仮面と言わずに格好いい仮面、と言って欲しいところだけれど、まずは一つ質問をすることにする。
「――それは君がBランクだから、かい?」
「いいや違うさ。私が――反勇者教ギルド・シャングリラのメンバーだからだね」
そう言って、葵は肩を竦めてヤレヤレと首を振る。
ユウシャでありながら勇者教に所属していないモノはほとんど居ない。何せ、勇者教とはユウシャたちがユウシャの為に作り上げた組織だ。それぞれの神の教会を合一させたのは彼らであり、冒険者教会の実質的運営者は、勇者教だ。すべてはユウシャの為に作り上げられた。
だから、基本的には所属する。しない選択をするものは俺のような流れ者か、或いは――彼女のように反旗を翻した者くらいだろう。
「いやはや。私は死すれば即破滅でね。あそこで死んでいれば危ういところだった。うむ、とても助かった。この身を全て捧げてしまってもいいほどなのだが、残念ながらこの身を捧げる主がいるので、なんというか私の初めてで――」
「ああいえ、間に合ってます」
「即答!?というか、そんな断られ方は想定外だな!」
おかっぱ頭に両の手を当ててを葵は驚きの声を上げる。
だって仕方がない。何せまだ新婚初夜さえ順番待ちなのだ。それも五人も。そう、こんなところで俺の初めてを散らすわけにはいかないのだよ!!
今日も今日とて遅くなりm( ˘ω˘)スヤァ