3話:子供の頃にいつも叫んでいたバリアーってどうやっても壊れない強力無比のモノだったよね?
晴天の空を眺めつつ馬車に揺られながら、聖都を目指す。
ようやっと、あそこへ行くことができる。大手を振ってサクラちゃんを迎えに行くことができるという訳だ!
「……とか言いつつ何度潜入してるんだっけ?」
「ええーと、たぶん五十回くらい?」
「だったねぇ。潜入し過ぎだと思うんだけど、それでも見つからないって事は相当厳重に保管されてるか、あちら側が相当なポカをやらかして無くしているかだよな……」
俺と一緒に御者台に乗っているライガーがハァ、とため息交じりに肩を落とす。
数十回にも及ぶ潜入の結論は一つ。
“聖都の本部内にサクラちゃんの魔石は無い”と言うモノだ。
理由は単純。ナナちゃん――七竃撫子が勇者としての登録を除籍され、逃亡者として指名手配されていたからだ。
あの日、ナナちゃんがサクラちゃんを襲った日。グランシップティアーズで死んだナナちゃんは、聖都にて復活を果たした。サクラちゃんの魔石をその手に持って。
――けれども、ナナちゃんは勇者教の最重要物品をその場から持ち逃げした。
それが何かはユウシャたちに知らされてはいないが、勇者教の最重要物品と言われているものがサクラちゃんの魔石で確定と言っていいだろう。
「でも、あの子そんなに強くない筈なのによくユウシャたちの包囲を抜けられたよね」
「うーん。そこも気になるところなんだよね」
ナナちゃんの変身した姿――登録呼称、エクスシーア・ハートはビオラちゃんと真理のデュミナス・アクアよりも位階が低く、その能力も一段以上に劣る……らしい。勇者教にあった情報が事実とは限らないけれど、一緒に戦ってみた実感としても教会本部にいるユウシャ連中の隙をかいくぐるだけの能力は無いように思えた。
「何か他に能力を隠し持っていたとか?」
「あのナナちゃんが?うん、無いかな。だって、ナナちゃんって普段はツンツンして冷静ぶってるけど。戦いになると全力まっすぐストレートパンチ!って感じの子だし。やるんなら全力全開だし?」
だから、何かを隠して戦うなんて器用な事は出来ないと思う。というか、できていなかったしね!
「ともあれ、ナナちゃんは目下行方不明。だけど、恐らくはまだあの聖都の中のどこかにいるみたいなんだよね」
「結界だっけ?」
「そ。普通に出ようと思えばあの結界に阻まれる。正しくチートだよね!」
物理的、魔法的なモノを内外共に総て弾く結界であり、大聖堂を基点として聖都を丸ごと覆い尽くしている。簡単に言えば魔法学園に貼られている結界の強化版である。
「ここ数か月の間、その結界が破られたって記録は残っていなかったし、通行記録にもナナちゃんに似た人間の通行記録は残ってなかった。門番には真偽の目のチート持ちが交替で詰めてるからまず間違いないかな」
「地下とか抜け道は?」
「今の所見つかってないよ。潜ってみたけど、結界が地下にも張り巡らされてるみたいで百五十メートルくらい掘り進めれば抜けれるみたいだけど、そこまでの穴は無いみたいだしね」
上下水道も完備されているけれど、そのどちらも人が通れるほどの大きさではないし、どちらも浄水場か下水処理場に繋がっているから人が通り抜けれるはずもない。
つまるところ、まだ彼女はあの聖都に居る。いる筈なのだ。
「でも見つからないとなるともう捕まってるんじゃないのかい?」
「それなら指名手配も解除されてるさ。たぶん、匿ってる人がいる。いると思うんだけどね……」
聖都の広い城下町には正規の勇者ギルドとは違う隠しギルドがいくつか存在する。いわゆる犯罪ギルドと言うモノだ。恐らくはその中のどれかにいる、と思うのだけど見つからない。
「一つずつ潰して回れたら楽なんだけどね。それぞれに探知スキル持ちのユウシャがいるから中々に難しくって」
潰すわけにもいかず、潜入も中々に捗らない。だからこそ、これだけ時間がかかっているのだ。見つかる危険はできるだけなくしたい。最悪、俺が正式に聖都に入るまでは。
「つまるところ聖都での次の目的は七竃撫子の側索という訳か。やれやれ、魔王退治の次は人探しとはな」
「犯罪ギルドを潰しながらね。見つけられたら確保して即時撤退!すぐに帰るとするよ」
魔石を確保してしまえば何とかなる。魔王であるシルヴィアがいい例だ。完全保存の状態であれば記憶も完全な状態で復活させることができる。
「……なぁ、まだオウカ様はご無事なのか?」
「無事さ。まだちゃんと繋がっている」
それは俺とサクラちゃんを繋げる絆。サクラちゃんを探し出す道標。
近くに行けばすぐにでも分かると思っていたのだけど。悲しいかな、世の中そう上手く出来ていない。
「絶対に見つけてアークルに帰る。まだ、バカ親義父に孫の顔も見せてあげてないしね!」
「はぁ、本当にお前は――待て。血の匂いだ」
ライガーの指さす先。目を凝らしてみれば商隊が襲われたらしく、血まみれの人が何人も倒れている。戦っているのは既に一人だけ。女の子が男たち相手に華麗な足技で戦っていた。
けれども多勢に無勢。すでに体中ボロボロの傷まみれ、相手の男たちもその女の子を嬲っているようにも見える。
「ちょっと、行ってくる」
「はいはい、襲ってる側にはバレないようにな」
軽く手を振って馬車を飛び降り、風を纏う。
土煙を巻き上げて一瞬にして男たちの視界を奪い、モノのついでに意識を刈り取って縛り上げる。
「は、はぁ、はぁ。何が……一体……?あなた、は――?」
「通りすがりの勇者――って、大丈夫かな?」
キメ台詞を言い終わる前に少女はその場に崩れ落ちてしまった。地面に触れる前に抱きかかえられたけれど、少女は完全に気絶してしまっているようだった。ううん、できれば最後まで言わせてほしかったな!
今日も今日とて遅くなりm( ˘ω˘)スヤァ