1話:綺麗に咲き誇る花々を見ると心が洗われる思いだけど百合とか薔薇と聞くと何だか警戒しちゃうよね?
深く、暗く、絶望した顔で私は神の前に、いた。
震える手を抑えると触れる金属とつるつるとした石の感触。
――ああ、間に合わなかった。
落胆と絶望に私はその場に崩れ落ちる。
『――ふむ。久々に見たと思えば暗い表情だね。ふふ、ここは神として相談に乗ってあげよう』
大きく白い玉座に座る神様はこの世ならざる様な絶世の美貌でニコニコといつも通りご機嫌そうな顔をしていた。いつ見ても何ともお気楽そうな神様である。
「いえ、大丈夫……です。私は、やっと見つけた居場所を私のせいで無くしてしまっただけですから……」
美しい赤紫色の宝石は指輪に綺麗に収まり、キラキラと美しい輝きを放っていた。まるで、彼女の魂の煌めきのようで、酷く、辛い。
「……神様。この中に閉じ込められた魔石を取り出すことはできますか?」
ポツリと震える声で目の前の神にそう尋ねる。期待なんてしていない。答えなんてわかり切っている。
『残念ながらできない。ああ、可能かどうかという意味ならば可能だ。けれども、神として魔王の魔石を開放することができないって事ね。まぁ、私は魔王の中にはかなり話が分かる奴もいるって知っているから、その気持ちもわからないでもないけど……』
「じゃあ、もう、私の友達を助ける事はできないんですか?」
『できる。簡単な事だ、その封印のチートを仕掛けた奴に封印を解いてもらえばいい』
無理だ。このクソッタレな封印を仕掛けたのは勇者教。それもそのトップの男――教皇を名乗る勇者だ。解いてもらえるわけがない。
「お願い、できなければ?」
『そうだね……後は――聖剣で切り裂くくらいかな?チートを切り裂く能力なんてそのくらいしか――いや、ふふ、そうだね。今のその聖剣の持ち主なら聖剣を使わなくてもできそう……うん、できるかな!すごいね彼、人間なのに人の技だけで神の域に踏み込んでるよ!』
「そんな……そんなのって……」
私が次に復活するで場所は勇者教の総本山――聖都ヴァルハラ。そこから、彼――水無瀬真人のいる魔王国アークルまで馬車で一月以上はかかる。ううん、それ以前に私がこの指輪を持って逃げれば指名手配は確実。と、言うよりも復活した瞬間にこの指輪を――サクラを取り上げられてしまう事もかんがえられる。そもそも、だ。私だけであの勇者だらけの勇者教の大聖堂から逃げられる気がしない。大聖堂から逃げられたとしても、ただでさえ聖都だ。その堅牢な外壁の中にいったい何人の勇者がいるか考えるだけでも頭が痛くなってくる。
「サクラ、ごめん。逃げられなかったら、ごめん……」
ギュッと指輪を握りしめると、はらはらと涙がこぼれてしまう。
恐らく――彼らは私が復活するのを今か今かと待ち受けている。私が逃げるそぶりを見せればたちまちに四肢を切り落とすだろう。それほどまでに教皇はサクラを――聖剣を欲している。
この数百年にも及ぶ大魔王との膠着状態を破り、世界をあるべき姿へ戻すためにどうしても聖剣が必要なのだ!と延々と聞かされたのを今でも覚えている。
だから、私が復活した瞬間こそが逃げ出す一番のチャンスであり、最悪のタイミングでもあるのだ。流石に二十四時間体制で私を大人数で待ち構えていないことを願うしかない。……ラグが無いのなら、私が復活するのはお昼ごろ。ふふ、一番人がいるタイミングじゃん!ダメじゃん!
『色々と思い悩むことがあるだろうけれど、頑張りたまえ勇者七竃撫子――そう、エクスシア・ハートよ!』
「頑張るけど、もう戻って来れないかも」
覚悟はもう、できた。復活の瞬間に変身し、全力全開の爆砕拳で突貫して外へ逃げだす。うん、次の瞬間には捕まって地下の魔石工場に堕とされる未来しか見えないけど!
――それでも、私はもう後悔なんてしたくない。
だって、この世界で初めてできた私の気の合う友達なんだから。絶対にサクラの大好きな人の元に返してあげたい。あの溢れんばかりのあの子の笑顔を取り戻してあげたい。
『ああ、なんて美しい友情なのだろうか!愛――そう、これぞ正しく愛だ!友愛!情愛!親愛!性愛!大いに結構!全ての愛は素晴らしいものなのだから!!』
「な、何か変なの混じってない!?」
『……いいかい、撫子ちゃん。愛とは互いに思い逢う心だ。だからこそ、想いが通じ合う。信じなさい。君の愛を。君たちの愛を――!』
「え、えと、サクラと私はそんな関係じゃ……」
『百合っていいよね!』
「咲いてないから!!神様の趣味なだけじゃないの!!」
ぐっと神様がサムズアップしている。この神様、前々から頭がぶっ飛んでると思っていたけれど、やっぱり理解できないよぅ!何で戦う系魔法少女好きの百合厨なの!!ああ、なんで私担当の神様ってこんなのなのかなぁ……。でもビオラちゃんもアークルにいた勇者三人もこの神様って言ってたっけ……。意外と手広いのかな?
『さて、目覚めの時だ。――勇者七竃撫子。エクスシア・ハート。友を信じなさい。さすれば、君だけの道が開かれる。ふふふ、君の活躍を楽しみにしているよ』
「まって、神様――!」
そう手を伸ばした瞬間、私は白い光に包まれてしまった。
こうなれば、やれるだけやるしかない。いつだってそうして来たんだ。やれるやれるできるできる!頑張れ、私!!
『――うん、大丈夫だよ。だって、私がついているんだもの』
どこかで、聞いたことがあるような声が――聞こえた、気がした。
今日も今日とて遅くなりm( ˘ω˘)スヤァ
9章も楽しんでいただければ幸いですOTL