挿話:魔法少女’sはお役に立ちたい!7
翌日。一宿一飯のお礼にと今朝の朝食は私が担当させてもらいました。昨晩は真人さんでしたから、今度は私が皆さんにごちそうする番です!
フライパンに熱を入れ、溶いた卵液を入れていきます。香ばしい香りと音が響く中、フライパンを覗きながら他の具材を切って行きます。今日の予定はサンドイッチ。真人さんがお仕事をしながら食べやすいようにと種類を色々と増やしているうちに私の料理の十八番になってしまったモノだったりします。ふふん、今日は真人さんからリクエストが多い卵焼きのサンドイッチがメインです!
焼き終えた卵焼きを冷ましつつ、調味料を焼き立ての食パンに塗ります。外から聞こえてくるのはアイリスちゃんの力強い声。朝早くから二人のお母さんに自分たちの特異な闇属性の魔法――それも実用的なモノを教わっているのだそうです。アイリスちゃんは夜のうちにお父さんに吸血鬼としての戦い方を復習させてもらっていたので、まだお寝坊しています。
そして、真理さんは真人さんに無限流――その中で無手で戦う技の練習を今日も又見てもらっていました。ライガさんはその相手役としてちょうどいいと連れ出されていましたがだ、大丈夫でしょうか?
……みんな、頑張っています。今以上に真人さんのお役に立ちたいからと、パーティを組んでから訓練ないし、戦術や魔法の勉強を欠かさずにやっているのです。もちろん私も。お母様から受け継いだチート――デュミナスアクアへの変身能力も、魔法の勉強をする事によりさらに効率的に使える事が分かり、精霊さん――ヤマタノオロチの皆さんと対話をしながら勉強中。私だって、真人さんのお役に立ちたいのですから!
そう言えば真人さんの世界では年端も行かない少女――それも魔法やそれに準ずる不思議な力で変身して戦う者の事を魔法少女と言うのだそうです。
だけど、魔法を使う少女と言うだけでも魔法少女と言う場合もあるから定義としてはあいまいなんだけどね!とは言っていました。現状を鑑みるに私もそのカテゴリに入るのだなと今更ながらに感じます。でも、確かにまだ私も少女ではありますが、結婚をしていても魔法少女と言ってしまってもいいものなのでしょうか?
『細かい事は気にしてはいかんぞ?』『然り。そう言うものだと割り切ればよい』『食わず嫌いはダメかなぁ』『そうそう悩み過ぎは健康に悪いからねー』『魔法少女……年齢を変える飴玉とか食べるのかのう……』『一体いつの時代の話!?』『女はね、いつまでたっても女の子なの。だから六十過ぎたおばあちゃんが変身しても魔法少女なのよ』『なるほど……なるほど?』
ぬいぐるみのような姿のヤマタノオロチなお姉さんたちがワチャワチャと話しているのを聞く限り、年齢を気にすることなく気持ちが少女なら魔法少女と名乗ってもいいらしいです。うん、まだ大きくなれると思いますし、魔法少女で良いですね!
「まだ、大きくなるつもり、なの!?」
「あれ、真理さん。もう訓練は大丈夫なんですか?」
「ああうん、案山子役のライガさんを兄さんが気絶させちゃったの。頑丈だからそのうち目覚めるからって兄さんは言ってたけど……」
「では、後で回復魔法をかけに行っておきますね」
「ありがとう、ビオラちゃん。すっごく助かる!」
パンと手を合わせて真理さんが手をあわせます。……そう言えば私と真理さん、年は変わらないくらいに見えますが、年齢は幾つなのでしょうか?
「ん?そう言えばお互いの年齢もまだ話して無かったっけ?私は今年で十四だよ?」
「そうなのですか?実は私も……」
「え、同い年なの!?おない、どし……?」
そう言う真理さんの視線は私の顔からスッとしたに下がります。あ、あんまり見ないでくださいね!また大きくなって、ブラジャーがもう逢合わなくなって来てて、苦しいくらいなんですから!
「大きくなってる、だとぅ?!目測、D……いや、E……?まさか、押し込められてこのサイズ……?は、はは、まさか、そんな、ありえない……」
ぷるぷると震えながら真理さんの視線が更に胸に集中します。だから、恥ずかしいんですって!作業する手を止めて無駄に大きくなってしまった胸を抱きかかえます。うう、旅に出る前に新調して来たはずなのに……。
「はぁぁぁ……。見てる分だけ分けてもらえたら嬉しいのに……。こう、ほんのちょびっとだけでもいいから。そしたら私だって、兄さんに女の子として見てもらえるかもしれないのに」
頬を膨らませて真理さんが机に突っ伏します。だけど、果たしてそうでしょうか?私からしてみれば、真理さんはまるでお人形さんのように綺麗で可愛いく思えます。スレンダーだと悩んでいますが、それを補って余りあるほどに無駄のない肉付きをしているのです。私なんて、鍛えてもぷにぷにしてますから!ぷにぷになんですよ!?
「どれどれ……沈み込む柔らかさ!」
「どこを触ってるんです!?」
ずむっと私の胸に真理さんが衝撃を受けた表情で固まります。うう、真人さんにもまだ触って貰えてないのに……。
「……ビオラちゃんはさ、兄さんのどんなところが好きなの?」
「ふぇ?んー……そうですね、私は真人さんの全部が好きです」
「全部って悪いところも含めて?」
「はい、全部です。優しいところもちょっと悪戯っ子っぽいところも、頑張り屋さんなところも、サクラさんの事を大好きなところも、もちろん、強くて格好いいところもですね」
逆に嫌いなところ、嫌な所は無いのかと言われてしまうと困ってしまいます。強いて言えば、頑張りすぎて体を大事にしてくれないところでしょうか?できる限りそんな真人さんを支えるのが妻の役目だと思っていますけど……。
「く、これまでにない程の惚気が……!私もそんなこと言いたい!というか、兄さんに頑張ったねって褒めてもらいたい!」
「ふふ、真理さんも真人さんの事、大好きなんですね」
「ええ、好き。兄さんとその他大勢の命を選べと言われたら兄さんを選ぶくらいに。まぁ、実際に選んでこっちに来ちゃったしね」
とんでもない事をさらりと言った気がしますが、真理さんは私が思う以上に真人さんの事を――恐らくは一人の男性として愛しているようでした。それなら、結婚してしまった私の事なんて嫌いなのでは……?
「え?無い無い。だって、兄さんの事を大事にしてくれて、愛してくれる人だよ?そんな人を私が嫌いになる訳が無いじゃない」
と、そう言って首をかしげます。それはいったいどういう――。
『私が説明いたしましょう』
「あ、沙夜。おはよー」
ポフンと人魂のようなぬいぐるみ姿の沙夜さんが真理さんの頭に乗っかります。
『真人様はあちらの――元の世界ではおおよそ人間らしく扱われていませんでした。人身御供、つまるところ、神に捧げられた生贄だったのです。それも、神は特に必要としていないと知りながら無理やりに押し付け、真人様の全てを――真人様の親しい人ができれば積極的に壊して来たのですから。尤も、鬼であった私には呪いが怖くて手が出せなかったようですが』
クスクスと可愛らしくも怪しげに笑う沙夜さんを真理さんがぷにぷにと突きます。真人さんの言うジト目です!
「まぁ、そういう訳だから兄さんの事をこんなに大事にしてくれる人を私は嫌いになれないの。だって、そんな人が沢山兄さんの周りにいてくれる方が、私は嬉しいんだもの」
優しく微笑む真理さんを見て私は思います。――ああ、この子も真人さんの全部が好きなのだ、と。
「真理さん、私。真理さんを応援します。だって、こんなに真人さんの事を想っているんですもの。サクラさんだって、フレアちゃんだって、ううん、シルヴィアさんも話を聞いたら絶対応援するに決まっています!」
フンス、と思わず鼻息荒く真理さんの手を両手で握ってしまいます。でも、こんなにも真人さんの事を大好きな人、放っては置けませんもの!
「うう、ビオラちゃん……ありがとおおお!」
「ひゃあ!?」
真理さんに抱き着かれて思わず声を上げてしまいます。――アークルに帰るまでに真理さんの気持ちにどうにか真人さんが気付いてくれるよう、私も頑張らないといけません。その為には……。
「真人さんにどうにかアピールをしなければいけませんね……」
「私が戦いでも役に立つところを見せれば少しは……?」
そういえば、真理さんも私と同じ変身魔法少女タイプ。それなら、先日の戦いのように力を合わせればもっと強くなれるのではないでしょうか?
「真理さん、特訓です!一緒に特訓しましょう!」
「え、急に熱血系!?でも特訓って何の?」
聞き返す真理さんに向かって私はこう言い切ったのでした。
「魔法少女の特訓です!あ、ユニット名っているのでしょうか?」
「何でユニット名!?」
ふふふ、何だかやる気が湧いてきました!ご飯の後の特訓が楽しみです!
今日も今日とてとっても遅くなりm( ˘ω˘)スヤァ
誤字報告ありがとうございます。とっても助かってます!