45話:必殺って付けるだけで何でも必殺技になりそうで子供の頃よく叫んだモノだよね?
魔竜たちは歓喜の雄たけびを上げ、その牙をその爪をたった一人の俺へ向けて振り下ろす。
「ツイン!」「アクア!!」「く、クロス・シャドー!」「「「ブラスタああああああ!!!」」」
可愛らしい三人の叫び声と共に、強大な魔力と莫大な水と影の刃の奔流が辺りの魔物と共にその龍たちをも飲み込んでしまう。その数は数百はくだらないだろう。というかお願いしたの俺だけど威力凄すぎないかな!?
「間に合った!兄さん、行って!」「真人さん!」「が、頑張って、くださいっ」
真理とビオラちゃん、カトレアちゃんの声が聞こえる。ビオラちゃんの手には役目を終えた木札が握られていた。頑張ったな、俺。さっきまで俺だったけども!
崩れかけの建物を踏み場にしてプラトニアスへと肉薄する――が、突如地面から湧いて出でた巨大な腕がその行く手を邪魔してくれる。思わずそのまま切り伏せようと鼓草に手をかけた瞬間、その腕へと紅の影が牙を剥く。
『ここは己と――』「ちゅー!」「ボクらもいるぞ!」「ここはお任せをば」
フレアは噛みついた腕を勢いのままに振り回し、その化け物をくるんと地面へと叩きつける。倒れたところを白い閃光と黄色い稲妻がその体を切り裂き、その頭部へとシレーネさんが巨大な多腕を振りかざす。――サイクロプス。それは優に三十メートルを超える巨大な一つ目の化け物だった。魔石で言えば黄色相当。こんな奥の手を持っていたとは流石の俺も驚きだよ!まぁ、ほぼ一瞬で殲滅されちゃってけども。
だが、これで勝利の法則は見えた。
地脈からの助力が無くなったコイツにはこれで打ち止めらしい。それが証拠に魔物たちの出現も収まり、真理とビオラちゃんたちは殲滅戦に戦いを切り替えていた。よし、このまま押し切れば勝てる!
空を蹴り、再びプラトニアスに視線を移す――何だ、こいつ?
『あああああああああああああああああああ!!!!』
目の前にいるのは間違いなくプラトニアスの筈。しかし、姿が違う。その姿はまるで――
「極超音速機――?」
それは重力圏を脱出する第二宇宙速度を軽く超えるマッハ五を叩き出す高速戦闘機に似通った姿であった。
爆風が、巻き上がり――空へ向けてその機首をもたげる。
ああもう見ただけでわかる。
もしここでコイツを逃せは完全に見失う。どうあっても俺の全力であっても、たとえこの場に最速の魔王であるシルヴィアがいたとしても追いつくことは叶わないだろう。
これは戦いを捨てその総てを高速で飛ぶことだけに特化した化け物。これがプラトニアスの移動形態という奴なのだろう。本当に馬鹿だよ!誰だよこんなの開発した人!うん、今アレの頭部に収まってるおっちゃんだね!全部終わったら一発ぶん殴る!!
空を踏みしめる足に力が籠る。
――ならばこの一瞬で決めてしまえばいい。ここで決めねば勇者が廃る――!
ああ、そうだ。ジ・アンサー、聖剣であるお前の力を只人が再現しようだなんて馬鹿げた話だ。それも武器ではなくただの技で、だ。正直言ってあり得ない。馬鹿げているとも言っていい。
だが、それこそが俺の望む極致。
そこへ至ることが出来てこそ俺は俺の新たなる地平を見る事ができる。これこそが、俺の未来への道程――!
「おお、雄雄雄おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!!!」
風を識り、炎を識り、水を識り、土を識り、金を識り、人を識り、魔を識り、神を識り、魂を詠み解いてこの世界の理を紐解く――超高速にて繰り出すは人である俺の出せるその極致。
――無 限 流/ 人 技 / 奥 義 終 局 / 百 櫻 繚 乱 !!!
刃をキラリ煌めかせ、その一閃にて己が全てを集約させる。
瞬間、あれ程までに吹き荒れていた暴風は空に立ち込めていた暗雲と共に掻き消きえた。
――無音ともとれる静寂の中、斬りぬいたその先で俺は抜刀した鼓草を鞘へと納める。
『がぁ!?ぐぎゃあああああああああああああああああ!??』
断末魔とも聞こえる叫び声を上げながらプラトニアスの全身に余すことなく切れ込みが入り、血しぶきが吹き上がる。
頭部に収められていたビアス教授が、胸部の魔石に閉じ込められていた少女たちが光を帯びてその肉体を魂ごと解放され、分身の俺がギリギリに堕ちて行く彼らを受け止めては大地に降ろしたところで消えていく。
――そう、これぞ人智を超越せし俺の到達点。
目の前の事象を切り裂き、望むべき事象へと切り分つ人技の極限とも言える一撃。それこそが、奥義終局/百櫻繚乱。
ほんの欠片ほどしか残っていなくとも、その総ての存在として切り放ったのだ。
尚、この技は放った衝撃で俺は、ほぼ死ぬ!体中から血を噴き出しながら、俺はそのままふらりと空から墜ちる。ごめん、後頼むわ――
『ぐがぁあああああああああああああああああ!!!』
グズグズに成り果てたプラトニアスの怒りの咆哮が遠く、聞こえる。最早死に体ではあるが、最後の一撃を放つ力だけは残っているらしい。
ああ――もう、こいつ、往生際悪いなぁ……。
くるりくるりと墜ちながら、ぼんやりとそんな言葉が頭に浮かんだ。
――けれどももうどうすることもできない。
俺が死んでも俺たちの勝利に変わりはない。街も護れたし、目の前の守りたかった人たちも救えた。たとえ俺がこのまま死んでだとしてもそれが覆ることはもう、無い。これ以上ないほどの大勝利と言っていいだろう。
けれど、ここで死ねば復活するのは大魔王城。
戻ってくるまでにまた幾日かかることか……。その日数だけサクラちゃんに逢える日が遠のいてしまう。それだけが唯々心残りで――。
「――大丈夫っす。後はオイラが何とかするっす」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
ああ、光が――あふれ――
今日も今日とて遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ