43話:ロリの定義が十八以下だと言われると首をひねらざるを得ないよね?
獣たちの咆哮が四方から木霊する。ガリガリガリと障壁へとへばり付き、その身をもってこじ開けんと躍起になっているようにも見える。
魔術師たちは交代制にて障壁へ代わる代わるに魔力を巡らせ、彼らの侵入を拒み続けていた。訓練された見事な連携であり、それこそ鼠の入る隙間もないと言えるだろう。
対策本部としておかれた中庭には多くの賢者たちが急遽建てられたテントへと集い、あれやこれやと話し合っていた。だけど、耳を傾けてみれば利権がどうだの今後どうするだの目の前の事から現実逃避しているような内容ばかりで頭が痛くなってくる。
「――んで、アレが何を求めてここを襲ってるのか君は何か知ってるんじゃないのかい?」
その話をテントの隅っこで聞いていた――可愛いゴスロリ衣装を見事に着飾る青みがかったショートボブの白髪が綺麗な小さな女の子に――ニコリとほほ笑みかける。
「此奴!不敬であろうこのお方は――」
「よい。我の客人である」
俺に食って掛かる白髪禿の学園長と呼ばれるおっちゃんを、その少女が止めてくれた。というか、俺の事完全にこの子にバレてるらしい。
そりゃあそうだ。彼女こそこの学園のトップであり、大賢者と呼ばれるその一人――であり、俺の知るこの学園の長アリア・アークライトさんである。うん、初めまして?
「しかし、我にも思う所はある。菜乃花からここに来たら真っ先に頼れと言われておったのではないのか?」
「アッハイ、すみません。なんというか、色々と立て込んでいてね」
頬をポリポリと書いて視線を泳がせる。実の所、田中にも言われていたのだけど、こちら側の人間に身バレすることを危惧してできる限り頼らないようにと考えていたわけだ。
「自分でできる事だからと、周りに頼らぬからこうなる」
……ぐうの音も出ない程にその通りである。
玲くんにもヴォルフの兄ちゃんにも――と言うかみんなによく言われていた。今まで誰かに頼るだなんてことをあんまり……ほとんど……ほぼ全くしていなかった俺にとって、割とハードルは高い。これほどまでに信頼できる誰かがそばに居てくれるだなんて今までなかったしね!これでも大分頼るようにしてるんだけど、どうやらまだまだ足りていないらしい。
「まさか、こいつがこうなった元凶――」
「否。撃鉄を落とした起因はあれど、大本は賢者ビアスである。履き違えるでない。遅かれ早かれこうなっていたことに違いはないからな」
立ち上がる賢者のおっちゃんをアリアちゃんが遮る。
彼女の見上げる先――魔獣プラトニアスは未だ俺と交戦中。その勢いは衰える事を知らず、戦いの中でも魔物たちを自動生成し続けていた。本当にチートすぎないかなコイツ!
「つまり、はビアス教授がアレを開発していることを知っていたと言う事だよね?」
「――違いない。あの地下研究室を作り上げたのは我だ。知らぬはずもあるまい」
「だったら――!」
「何だというのだ。世界の発展には犠牲はつきものだ。それが人であれ魔物であれ我にとっては最早変わらぬ。研究室内で起こることであれば我は検知せぬ」
それがこの魔法学園と言うモノだ――視線を外すことなくアリアちゃんはそう言ってのけた。
「それに、ある程度であれば我の力で直すこともできるからな」
彼女は古き時代に召喚されたユウシャの一人だと菜乃花さんは言っていた。気が遠くなるほどの永き時を生きたアリアちゃんにとって、個人でエリクサー並みの回復をさせる事も造作ない事らしい。
「が、アレはもう無理だ。魂が魔石と結合し引きはがすことなどできぬ。肉も最早――」
「いいや、できるさ」
できる。できないなんてことは絶対に無い。だって一度似たようなことはやったし?けれども時間が足りていない。だから何とかして欲しいのだけど!とお願いしてみる。うん、ダメカナ?
「――成程、菜乃花や田中が気に入る訳だ。お前は最早人の域を超えておる。7神授の技を持つ勇者ですら単独でお主に叶う者など最早おるまい」
そう可愛い女の子に褒めちぎられてしまうと照れるところではあるけど、それって俺が魔王みたいな言い草じゃないかな!俺ってどこからどう見ても普通の勇者だよ?
「それは……無いな。お前が普通であってたまるものか」
ジト目のアリアちゃんが手を横に振り、周りの賢者の皆さんがうんうんと頷いている。なんでさ!
「ともあれ、アレの目的はたった一つ――我の持つ魔石であろうな。己の持つ魔石と喰らったであろうダンジョンの魔石だけではまだ足りておらぬのだろう」
曰く、魔石とはただの電池としての役割だけでなく出力の制御回路の役割を持っているのだという。だから、あれ程の大出力のエネルギーを取り込む魔獣プラトニアスにとって、紫魔石はあればあるほどいいモノなのだそうだ。
「ビアスも二つでは足りぬと分かっていた筈。つまるところダンジョンを喰らい、ここを襲う事は必然であったのだろう」
なるほど遅かれ早かれと言うのはそういう理由だったのだろう。……あれ?俺悪く無くない?
「ああ、それに加えて飛び切り運がいい事にお前が最速ダンジョンアタックをしてくれたおかげでダンジョンには誰もおらず、被害はゼロだ。更に言ってしまえば、市民達の避難もしてくれたようでな。三千ほどいるこの町の市民は折らぬ。まぁ、冒険者には多少なりとも被害は出ておるが――どちらにせよと考えればむしろお前がトリガーを引いてくれてよかったとまで言えるだろう」
運が良すぎるとは思うが、とアリアちゃんに何だかものすごく睨まれているけれど、それはもう仕方の無い事だ。だってこっちにはそんな神様が憑いてくれているのだし。妹にだけど。まかり間違わない限りよく無い事が起きる筈も無い。妹がだけど!
「それで、お前はどうして欲しい?此方も少なからず借りはある」
アリアちゃんがチラリと見た視線の先には眼鏡をかけた綺麗な賢者さんが深々と頭を下げていた。そういえばここに来た時に倒した大蛇に喰われたのは先生だったと真理に聞いていたっけ。
「――貴方の願いは……なぁに?」
可愛らしい顔に似合わぬ妖艶な瞳でアリアちゃんは俺にそう問うたのだった。
今日も今日とて遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ