40話:精神的に疲れた時に歌う熱血系の歌は魂の栄養剤と言っても過言ではないモノだよね?
穴倉から抜けた先は正しく戦場だった。
倒れた冒険者たちは数知れず。襲われている婦女子は見渡すほどに。ビオラちゃんにこっちは任せていたのだけれど……どうやら皆それぞれの敵と戦って手が回っていないらしい。
落下しながらくるりと空から見まわして、状況把握。うん、ヤバイねこれ!
「真理と沙夜はビオラちゃんのとこ、カトレアちゃんアイリスちゃんと一緒にライガーの所に。公くんはフレアの手伝いに行ってくれるかな?ビオラちゃんはローパーが多くて苦戦してる。ライガーはこの力は強いけど、数が多すぎて疲れて来てるみたいだからね!公くんはフレアのとこの方が実力が出せる筈だからよろしく頼む!」
「ちゅ!」
「は、はひ!」
俺の左腕にすっぽりと抱きかかえたカトレアちゃんと俺の頭に乗った公くんが元気よく返事を返してくれた。うんうん、頼もしい限りだ!
「ま、待って。シレーネさんは?」
俺の背に乗った真理が心配そうに言う。
言うけれども大丈夫かなって?うん、だって、彼女ったら今の実力で言えば魔王一歩手前くらい。ライガーと単騎で圧倒できるレベルなのだ。そして、その力は一対一ではなく一対多数でその真価を発揮する。つまるところ。
――ズガガンと大きな音がして幾つもの建物が崩れた。そこにいたのは多頭多腕の化け物へと姿を変えたシレーネさんだった。
「うん、大丈夫そうだね!」
「ね、ねぇ、大丈夫なの!?違う意味で大丈夫なの!?」
涙目でジタバタと真理が暴れる。大丈夫、うん、多分、きっと、恐らく?だって手を振ったら振り返してくれたし!余裕そうだな!
だから皆にはそれぞれの援護に回ってもらいたいという訳だ。
「でも、どうやって行けば――」
「そこは」「俺が」「何とかできるし?」
分身した俺を見て真理がポカンとした顔をしている。そういえば分身して見せるの初めてだった気がする。幾つも俺がいるのを見て初めて実感したのだろう。ふふ、そんなに見つめられたら恥ずかしいぜい!
「それじゃあ、また後で」
言って俺が散り散りに分かれる。
空を蹴り、壁を蹴り、それぞれの戦場へと皆を運んでいく。
ついでに分身を予備の木札で追加して、辺りの掃討に降りていく。今からざっと回れば被害を少なくできる……かな?うん、もっと戦力が欲しいんだよ!
とはいえ、贅沢は言ってられない。旅に出るからと木札は増産して来たものの、大半はバックの中にしまってあるのだ。つまるところ、手持ちの木札は数えるほど。ひーふーみー……うん、十個くらいかな!
先ほどのビームを防ぐのに使い過ぎたのが痛い。というか、その時の傷がまだ痛む。治してから戦いたかったけれど――プラントなダンジョンマスターと目が会った――どうやらそんな暇は与えてくれそうにない。
俺の姿を見た瞬間に再び魔力を収束させて行くのを感じた。うん、やめてね?やめようか!などと言う言葉を待つまでもなく、高火力の魔力砲を地面を抉りながら振り上げた。
すさまじい高熱と爆音と爆風を巻き上げたが――何とか躱した。ふ、ふはは!当たらなければどうと言う事は無いのだよ!と、風を蹴って、蹴って、その大きな横っ面に回し蹴りをして差し上げる。
けれどもどうやらちっとも効いていないらしく、プラント何て名前らしく元気よく触手を幾つも伸ばして俺を捕らえようとしてきた。や、やめて欲しいな!美少女の触手プレイを見るのは大歓迎だけど!俺の触手プレイは誰も喜ばな……いや、一部の人しか喜ばないんだよ!
くるんくるんと空を飛び避けて躱して切り裂いて、急いでその場を離脱する。ええい、厄介な!
視線を回してプラントダンジョンマスター……――ええい呼びづらい!非境界ダンジョンマスター・プラトニアスだったっけ?それはビアス先生の机に散らばった資料の一ページ目に描いてあった名前である。うん、余計長くなった気がするけども!!――プラトニアスのその胸部を見る。
魔石とかした四人は動くことなくまるで蝋人形のようになってしまっている。死んでないかな?と一瞬不安になったけれど、「たすけて」と見知らぬ少女の口が動いたのを見て安心する。
まだ大丈夫。まだ助けられる!……筈!
再び空を蹴り、鼓草を構えてその巨大な体へと刃を煌めかせる。
――無限流/刃/奥義ノ弐/天之尾羽張!
幾重にも深く切り刻んだはず――であったが、やはり瞬く間にその肉体を再生されてしまった。大地から無限に供給されるエネルギーと取り込んだ過剰な魔石のお陰で並々ならぬ再生力を身に着けているらしい。ええい、厄介過ぎないかなこれ!
『真人さん、私に気にせず殺して、殺してください!』
「アイリスちゃん!?」
そこには、カトレアちゃんと共にライガーの元へと行ったはずのカトレアちゃんの姿があった。すでにその姿は霞む程。魂がプラトニアスに吸い取られきる寸前のようでだった。
「その言葉は飲めない。俺は君を助けたい。助けてアイリスちゃんにちゃんと逢わせてあげる」
そう決めた。そう約束をした。だから、俺はどんなことがあっても諦めない。
『分かりました。もう、無理なんです。私は――』
「諦めない!絶対に!」
プラトニアスの触手を避けて躱して避けて割いた、その先に大きく開かれた顎。放たれた魔力砲は天空の雲を吹き飛ばすほど――だが、収束が足りておらず威力は低い。ならば!
――無限流/刃奥義ノ肆/布刀玉!
その力を鼓草に喰わせて纏わせ、鏡返しにその力を返す一撃にてプラトニアスの六対の翼全てを叩き斬る!これぞ、無限流回転技の極意である。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアァァ!?」
声にもならない叫びを上げ、プラトニアスは翼を再生する間もなく空から大地へ堕ちて行く。
『けれど、ダメ。ダメなんです。あ――真人さん、ごめんなさい。……わたし、あなたにそう言ってもらえてとっても――』
「アイリスちゃん……?」
最後の言葉を紡ぐことなく、ついと少女の姿がついに完全に消えてしまう。
「オルオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
土煙を咆哮にて吹き飛ばし、煌々と胸に光らせたプラトニアスはその光を身に纏い更に変化させていく。どうやらアイリスちゃんを完全い取り込んだことでそれは遂に完成してしまったらしい。
――その姿は先ほどの怪物の姿とは程遠く。
黒い鎧の如き頑強な鱗を身に纏い、八対の漆黒の龍翼を生やしたその姿は人の形でありながら龍にも似た――巨大な化け物であった。
そう、この姿こそ賢者ビアスが生み出した対魔王兵器、非境界ダンジョンマスター・魔獣プラトニオンの真の姿である。
……どう見てももう彼らを救い出すことは不可能に近い。誰がどう見てもこの場を捨て去って逃げる事が最善だと言うだろう。この場で処断すべきと言う者もいるかもしれない。
けれども、絶対にできないわけじゃあない。
だから俺は諦めない。たとえ確率が一パーセントすらないとしても。ああ、絶対に諦めて成るモノか!
今日はまにあいまs( ˘ω˘)スヤァ