35話:黒より黒い黒と言われるベンタブラックってモノがあるけれどつまり黒色だよね?
そういう訳で颯爽と登場したのだけれど、何だか公くんがほっぺを膨らませていた。
どうやらさっき自分がやったキメ台詞と微妙に被っていたのだそうだ。うん、大丈夫だよ公くん。登場シーンのキメ台詞は何度言ってもいいんだからね!
「ごめんなさい。何言ってるのかわんない」
「そうかな?うん、まぁ真理には少し早かったのかもしれないね」
途中で味方が参戦してきた場合みんな合わせてもう一度名乗りをあげるのは割とよくあることだ。え、これは特撮やアニメじゃ無くて現実?そうだね!知ってる!
「ふむ、よくわからないことをベラベラと話す。少々耳障りだねぇ」
ヤレヤレと白髪のダンディなヒゲ面のおっちゃんが肩を竦めている。
彼こそがビアス先生。こうして面と向かうのは初めてだけど、改めて思う。見た目から怪しくないかなこの人!やっぱりヒゲ面はダメだよヒゲ面はぁ!
「髭は関係ないと思うがネ!しかし、真理くんがここにいると言う事はくんはやられちゃったと言う事かな?彼結構強かったんだけどなぁ……」
「降参するなら今のうちだけどどうするかい?」
言って、抜き身にした鼓草を構える。
「すると思うかね?」
「だよね。知ってる!」
一瞬にておっちゃんの足元へと跳躍し、その刃を振るう。
――無限流/刃/御雷
頭蓋から両断をした――のだけど手ごたえが無くドロリと溶けた。うん、何だこれ!
「ふむ、なるほど。勇者を名乗るだけの事があるという訳だ。ヤレヤレ、物事には障害がつきものだというけれど、どうやら君は飛び切りという訳のようだ」
ゆらり、と俺の後ろの影から傷一つ無いビアスが現れてまた肩を竦めている。こいつ……ヤレヤレキャラか!
「兄さん、そこじゃないと思う!」「あ、あはは……」「ちゅー……」
何だか後ろからジトのオーラを感じる。そうかな?うーん、そうかも?
「ほう、君は真理くんの兄さんだったのか。兄妹で勇者とは幸福なのか不幸なのか……いや、ここにいる時点で不幸であることには違いないか」
「きゃ!?」「や!?」
影から現れたビアス先生がアイリスちゃんを真理を不意を突いて羽交い締めにされ、足元にいた公くんは踏みつけられてジタバタと藻掻いている。
――そう、今目の前に三人のビアス先生がいるのだ。どうやら残像をつかった分身ではなく、俺と同じ何らかの手法で実体を持たせた分身のようだ。まさか……ニンジャ?
「ノー。ノーニンジャだよ。残念ながら私は極東のスパイでは、無い。そう――これは魔法さ。尤も、私以外に仕える者はまだいないだろうがね」
流石は賢者という名を冠しているだけはある。どうやら魔法的見地から分身の方法を見出しているらしい。けれど、俺は普通にできるんだけどね!忍者だし?
「増えっ!?」
「分身の専売特許は忍者でござるよ?ニンニン!」
分たれた俺たちがそれぞれにビアス先生へと飛び掛かり、無限流/刃/御雷にて二つに断つ。しかし、ビアス先生たちは全てドロリと泥のように溶けて崩れ去った。どうやらどれも偽物だったらしい。
「どうやらそれが君のチートという奴か。まったく、こちらの努力を一瞬で踏みにじるとは勇者とはやはり理不尽な存在だね」
彼はまた額を指で押さえ、大きく大きくため息を付いている。
だけど、これは俺の忍術であってチートではない。うん、無いんだけど勘違いしてくれる分にはそれで構わない。
しかし、何か妙だ。先ほど彼は魔法だとそう言っていた。しかし、その力を発現した素振りすら無かった。そもそも、だ。
「アンタ……何でただの人間なのにチートで変身してる真理を抑え込めた?」
「それこそ魔力で――」
「強化の魔法も魔道具も使っていないよな?」
感知は割と苦手ではあるけれど、目に見えてさえ言えればある程度はわかる。こいつは最初にカトレアちゃんを捕らえようとした時以外魔法を使っちゃいない。
「……ならば、何だと言うのだね?」
「簡単な話さ。アンタ……人間を辞めているな?」
驚きに見開かれたその目こそがその証拠。ああ、そうだ。彼は最早人間ではない。魔石を体内に取り込み、その肉体を魔物へと変貌させていたのだ。つまり、先ほどの技は魔法などではなく、彼の魔物としての特性。だから、魔方陣や呪文で精霊を介する事無く分身を使う事ができた。そして何より、先ほど公くんにしこたまに叩きつけられ、ボロボロになっているはずなのに傷一つ消え去っていた。
「はぁ、再生力がありすぎるのも考え物と言う事だね。やはりわかる人にはわかってしまう」
『先生、そんな……』
アイリスちゃんが怯えた様子で俺の後ろへと隠れる。
「そんな顔をしないでくれアイリスくん。君の事はきちんと大切に思っているんだよ?――もちろん、大事な検体としてだがね」
下卑た笑みを浮かべ、いつの間にか手に持っていたロッドを振りかざす。
「魔物!地面から湧いてきているのです!?」
「いいや違うよカトレアくん。これは――」『はぁ、あああああ!?』
顔を真っ赤に染めて、アイリスちゃんがその身を屈め、悶える。
「彼女の――いや、彼女たちの中から生み出しているんだ。本当ならアイリス君ではなく君を核に据えたかったのだけど、仕方ない。まずはどの程度の事ができるかのチェックだね」
倍、倍、倍にゴブリンが、オークが、コボルトが、リザードマンが、種々様々な魔物たちがフロア一帯にその姿を現す。うんいくら何でも多すぎやしないかな!
「――さぁ、実験を始めよう。ああ、お前たち殺してはいけないよ。それ以外なら好きにして構わないがね」
ビアス先生の瞳が赤く輝くのと同時に魔物たちが咆哮を上げ、一斉に襲い掛かって来た。その様子はまるで洪水の如く。逃げ場など、ない。いや、最初から逃げるつもりもない。
――深く、深く息を吸う。
大地をぐんと強く踏みしめ、一息に周囲一帯の全ての魔物を切り刻む。
無限流/刃/嵐――!
一瞬にて目の前が開け、その先に驚愕の表情のビアス先生が見えた。
悪いがその首もらい受ける。
無限流/刃/玉
それは回転の勢いを加え、繰り出す一撃である。
しかし――黒く染め上げられた腕で受け止められた。
「水無瀬――そうか、貴様か。くく、水無瀬真人ぉ!」
「っ!」
暴風のように放たれた魔力に吹き飛ばされ、くるんと回って体制を整える。
こいつ、俺の名前を知っている。つまりそれを意味することは現状、ただ一つ。
「アンタ、アラガミか!」
「そう、その通りだよ勇者!」」
あふれ出る魔力は男の体を黒く、黒く、漆黒を更に黒くした異形の姿へと染めあげ、胸に露出した魔石が赤い輝きを放つ。
「――改めて名乗ろう」
もはやアレは人では無い。叡智を極めた賢者とも最早言う事は出来ない。
「我が名は魔王――人魔王ビアス!くははは!すべては、我らが神の為に!滅びろ、勇者!」
頭を押さえて深くため息を付く。人間の国に来たはずなのに魔王と戦う事になった件。うん、どんな罰ゲームだよこれ!
今日も今日とて遅くなりまして申し訳ありm( ˘ω˘)スヤァ