30話:お鍋の具材ってお肉と白菜をぶっこめば後は適当な野菜で大体美味しく仕上がるモノだよね?
公くんの話によると魔法学園である塔の一階にある排水溝を通って地下に行くと、人が通れるほどの地下水路があるのだという。そこには既に使われていないラボが幾つもあり、一番奥の大きな空間にダンジョンへ降りるもう一つの秘密の入り口があるのだとか。
けれども、正規の入り口が分からない。
分かってしまえばカトレアちゃんが犠牲になりかねない作戦何てすぐにでも辞めさせられるのだけれど、見つからない。
月明りの輝く学園内の教室という教室を探って探して見渡しても、そんな入り口なんて見当たらないのだ。
ならば、と下水のある地下空間に潜ってみたけれど、公くんの行っている場所にはつながっていなかった。上水道の方は、水道管で水源から水を引っ張ってきているらしく、人が入りこめる隙間はまるでなかった。うん、マジで分身で行って良かったんだよ!
――つまるところ、あの地下空間に行くには公くんの抜け穴か、魔術的な何らかの方法で行くしかない。
朝日が昇る頃にはラボを除くすべての部屋を探しつくし――俺は途方に暮れるのだった。
「お前、本当にいつ休んでるんだよ」
みんなで朝食を食べながら報告をしたら、ライガーに呆れた顔でそう言われた。うん、休んでいるよ?本体の俺はずっとここにいたしね!
「それで、手に持ってるのは?」
「え、件の秘密の入り口までの地図だよ?地下水路のラボ自体が独立した場所にあるみたいで、どうやっても行けなかったんだけどね!」
水脈があるのなら水蛇で一気に道を作ればとも考えたけれど、やりすぎてその地下水道そのものが水没してしまいかねないから使えない。ううん、俺ってばてんで役立たずなんだよ!自分で言っててちょっと悲しいぞう……。
「いやいや、休んでないじゃないか!なんだよその緻密な地図は!」
「真人さん、いつも休まれているようで休んでいませんものね……」
あはは、とビオラちゃんが諦めたような顔をしている。シレーネさんまで何だか頭を抱えているのだけど、大丈夫だからね?ほら、俺元気だし!
「そう言っていつも過労死してたのはどこの誰だよ。過労死なんて言葉を聞いたの生きていた中でお前が初めてだからな?」
「そりゃあそうだよね、大魔王城って超絶ホワイトだし。基本的に残業無しの交代制、役所は定時で終って兵たちも規則正しい生活になってて夜は夜に強い種族で回しているとか、ホワイトすぎる気がするよ!」
俺が死んでた原因はアークルの人員が少なすぎてその代わりを俺が一手に引き受けていたから。だから頑張りすぎて潰れてしまったのだ。今となってはみんなに任せる事が出来るようになったのだけど、うん、みんな大丈夫かなぁ……。特に玲君、死んでなきゃいいんだけど。
「玲君も頑張り屋さんですからね……」
「いや、だからお前レベルで頑張る奴なんて普通はいないからな!?」
俺の世界では割といた――というとまたライガーがすごい顔をしそうなので黙っておくことにする。うん、同じ勇者のシレーネさんがものすごく申し訳なさそうな顔をしている。過労死って、俺らの国でできた言葉だしね!仕方ないネ!
「それで、今日の昼頃にはあの子とお前の妹がラボに行くんだよな?」
「うん、それで今度は二人で相談をして、いい返事をしに行ってもらう」
恐らく、ラボに二人で参加してもらうのが自然だろうという判断なのだけれど、本当は止めたかった。というか、代わりに俺が行こうかとも言ったくらいだ。こう見えて忍者だし?化けるのは割と得意だったりするしね!
けれども、決意を硬くしたカトレアちゃんに首を横に振られてしまった。
この子は強い子だ。お姉さんであるアイリスちゃんを探すために、人間という敵だらけのこの場所に単身で乗り込んで来たのだから。無茶で無謀で無鉄砲とも言える。けれどもこの子はあの吸血魔王の娘。魔力も魔法の知識も学園に来る必要がないくらいには持っているようであった。うん、年齢的には真理よりも年下なのによくできた子だよ!
だからこそ、彼女を止められるわけが無かった。どうやって姉の所へ行けばいいのか、その答えが見えてしまったのだ。――俺だってそうする。というか、現状そうしている最中だしね!
「すぐに動くと思うか?」
「可能性は高い。昨日あれだけアルフレッドさんに発破をかけられていたからね。成果を焦っているのなら、目の前に現れたネギを背負ってきたカモに飛びつかないはずが無いからね」
ビアスラボに入る時には俺の本体がラボの監視にあたる。ここにいるビオラちゃんたちはダンジョン近くのカフェに待機してもらう予定だ。ダンジョンにも魔法学園の塔にも近いからもし何かあった時に怪しまれず、すぐに対応してもらえるナイスな位置取りである。お姉さんを助けたらすぐにスタコラさっさで逃げて来られたらいいんだけどね!世の中そうは甘くないのが現実という奴である。
「……なぁ、無事だと思うか?あの子の体」
「無事……とは言い難いだろうけど、まだ魔物化してダンジョンマスターに成り果てていないのなら助けられる目はあると思うよ」
心配性のカトレアちゃんはアイリスちゃんについて行ってしまっている。その姿は昨日よりも薄く、肉体に引かれて魔石へとその魂を吸収されて行っているのが目に見えるようだった。
ホテルの部屋の時計を見上げる。
まだ、彼女たちの講義は始まったばかり。
チリチリと胸を掻き立てる焦燥をこらえ、俺は用意してもらったシレーネさん特性のミルクティーに口をつけるのだった。うん、いつ飲んでも美味いなこれ!
今日も今日とて遅くなりましt( ˘ω˘)スヤァ