22話:やられたらやり返す!倍返しだ!と叫びたくても叫べないのが現実と言うモノだよね?
どさりと置かれた魔石を出していくたびにギルドのお姉さんが口の端っこをひくひくとさせているのが何だか楽しい。うん、まだあるんだ。ごめんね?と、最後にとっておいた最終階層にいたドラゴンの魔石を出したら涙目で頭を抱えて奥に引っ込んでいってしまった。……あれ、何で引っ込んじゃったのかな?もしかしてなんか悪い事したと思われたとか?
何だか不安になってチラリと隣にいたシレーネさんを見る。
「あまりにも量がありすぎますので、ここの町のギルドマスターに報告に行かれたのかと思われます」
ドラゴンの魔石が一番の問題ですが、と付け加えてシレーネさんが小さくため息を付いている。……普段優しいシレーネさんの視線が痛い。一気に出すとインパクト無いかな?って思ったんだけど、どうやらダメだったらしい。
ダンジョンから魔方陣で帰還して意気揚々とギルドに魔石を換金しに来たのだけど、何だか思ったよりも大ごとになりそうな予感がビンビンと感じられて不安が積もる。思わず振り返ってみると、ソファに座って膝にもふもふなフレアをのせたビオラちゃんが気付いて手を振ってくれた。ああもう可愛いなぁ!
その隣にいるライガーはジトだったけど!うん、時間かかりそうだからもうちょっと待ってて欲しいな?
『初ダンジョンでこれだけの魔石の量……しかも最終階層に半日で到達される方は私が知る限り初めてですね。というか、本当に皆さんって何者なんです?』
「何者かと言われると執事な勇者でピーターさんなんだよ。うん、予知とかできる深海怪獣じゃ無いんだけどピーターだよ?」
何の事かな?とプカプカと浮かんでるアイリスちゃんがううんと可愛らしく首をかしげている。
ここまでくる間に聞いた話では、彼女はカトレアちゃんのお姉さんであり吸血鬼の魔王であるドラキュリア・ヴァン・ロムネヤスカの娘であるアイリスちゃんで間違いないらしい。
しかし、今どうして幽霊になってプカプカと浮いているかは全く分かっておらず、そもそも何でダンジョンに居たかすらも覚えていないらしい。
『うう、気付かないうちに死んでしまっただなんてお母様にどう顔向けすれば……はっ、死んでしまっているから顔もあわせられない!?』
ががんと衝撃を受けた顔をしているけれども、俺の見立てではアイリスちゃんはまだ死んではいない。ビオラちゃんの時と同じく生霊となってしまっているらしい。あの時と違うのは、アイリスちゃんが精霊化していないという事。そして、生霊であるにもかかわらず肉体との繋がりがプッツリと切れてしまっているのが困ったところである。
つまるところ、彼女がまだ生きているのは分かっているのに肉体を探すための手がかりが無い。
「彷徨っていた場所を考えるとダンジョンのどこかなんだろうけど……」
ダンジョンを降りながら探してみた限り、隠し部屋らしき場所は見当たらなかった。まぁ、俺は探知とか苦手だし見落としが無きにしろ非ずなのだけれど、少なくとも見て回った魔物たちの巣に彼女の遺骸や遺物は見当たらなかった。
可能性があれば最終階層のあの場所なのだけれど、調べている間に締め出すように明かりが消え始めたので慌てて転移の魔方陣に乗ったからあまり詳しい事まで調べる事ができなかった。分身をそっと置いて来れなかったのが悔やまれるが、また明日にでも下ってみればいいだろう。道は覚えたしね!
「おや?ピーターさんではありませんか」
「貴方は確か――あ、あ、アマゾンさん?」
「ひ、一文字しかあってませんね。アルフレッドですよ。今度は覚えてくださいね?」
高そうな鎧姿の金髪のお兄さんは肩を竦めてそう言った。そういえばこの人馬車の護衛の時に一緒にいた人だったよ!到着する寸前にごたごたがあったからすっかりと別れの挨拶をするのを忘れ去っていた。ええと、先日ぶりですね!元気そうで何よりです?
「ええ、やはり学園都市は活気があっていいですね。それにしてもまたすごい魔石の量ですね……。それに、これは――まさか、ダンジョンの最下層に?」
「その、はい。成り行きで行けてしまいまして」
嘘は言っていない。そもそもダンジョンに行くことになったことが成り行きだったしね!
「成り行きで最下層に一日で到達して、更に少数パーティーで……しかもほぼ無傷ですか。いやはや私の見込みに間違いはなかったようですね」
呆れたような顔でアルフレッドさんは頭を抱えてしまった。見込まれてしまったのは嬉しいけれど、そこまで過大評価しないで欲しいかな!俺ってばこれでも弱いしね!それはもうこの世界にきて痛いほどに何度も何度も何度も何度も思い知らされて来た。もちろん犯人は大魔王である。絶対に帰ったら一撃キメてやるんだ!……多分その後死ぬけど?
「ぴ、ピーターさんとパーティメンバーの皆さま、ギルドマスターがお呼びです!申し訳ございませんが、こちらまでお越しください!」
眼鏡をかけた受付の女性が大きく手を振って呼んでくれた。ううん、なんだか目立ってるなぁ……。
「それでは私はこれで。またお逢いできる機会をお待ちしております」
「ええ、それではまた」
そう言うとキラリと白い歯を輝かせてアルフレッドさんは颯爽とギルドを出て行ってしまった。金髪なイケメンさんはどんなセリフでも様になって聞こえるのがずるい。うん、ずるくないかな?
『……その、ピーターさん。先ほどの方ですが……』
「ああ、来る時の依頼で一緒になったイケメンさんでね――」
『いえ、その、あの方は、魔法学園のある国――アクシオムの王子様です」
「……はいぃ?」
アイリスちゃんの言葉に、今度は俺が頭を抱える事になったのは最早言うまでもあるまい。く、これが因果応報という奴か!……違うかな?
今日も今日とて遅くなりましt( ˘ω˘)スヤァ