21話:有名なタワーやドームで高さや大きさの比較するけれど実際に行ってみないと大きさって実感できないモノだよね?
最下層――すなわち十階層。
地下深くというのに、よく大きさや広さを比較されるのに使われるでかい球場クラスの広さだった。いや、こんな広さ居るのかな!?
その広間の真ん中にはこれまた巨大な魔方陣が描かれており、その中央に――巨大な緑色のドラゴンが体を横たえていた。あ、目が合ったんだよ。こんちわっすー。
くるりと反転して出口に立ったけれど、閉じられた荘厳な紋章が描かれた大きな石扉はその役目を忘れたかのように開くことは無い。さっきは自動で開いたのに壊れてないかな!
「入ってしまったが最後。ダンジョンボスを倒さなければ出られないようになってるって、パンフに書いてあったぞ?」
「あれ?そうだっけ」
ライガーに言われてパンフを広げてみる。
確かに「最下層はダンジョン維持の為の人造ダンジョンボスが封印されています。倒すまで出られませんので十分な戦力を整えてから向かいましょう」と書かれていた。
………………蚤ほどの小さな字でパンフに描かれた紋様に隠れるように、こっそりと。
「字が小さすぎて読めなあああああい!うるぉらああ!!」
迫りくる来る巨大な緑のドラゴンに思い切り投げつけ、そのままの勢いのままにダッシュして拳を振るう。
――無限流/無手/奥義ノ壱/穿・韋駄天!
貫く拳を上につき上げて大きく顎を開いた龍の顎をパンフごとぶん殴る。
「ぐぎゃああああるぅああん!!???」
とんでもない大声を上げながら錐揉み回転で天井までぶち上げられてぶつかると、そのまま石畳の床へと叩きつけられて動かなくなってしまった。……あれ、もう終わりかな?
舌をだらんと垂らしたままの巨竜は、キラキラと光りその姿を黄色の魔石と角だけになってしまった。
なるほど、魔力で構成された肉体がコアとなっていた魔石と取り込んだ物質で肉体化した部位だけがドロップ品になる訳だ。うん、こんな何もないはずの最下層でナニを食べたのかすっごく気になるところだけども!
「ともかくこれで終りな訳だ。何と言うか呆気なかったな」
「呆気なかったというよりも、真人様とライガさんが規格外なだけですね。通常であればこのレベルのドラゴンはAランクがキチンとパーティを組んで戦っても、ギリギリ勝てるかと言ったところでしょうし」
シレーネさんが何だか苦笑いを浮かべている。だけどこのクラスならシレーネさんが前に暴走した時よりも弱い気がする。気付いてないかもしれないけれど、シレーネさんも十二分に規格外だったりするのである。
「……あれ、それじゃあこの魔石って普通に持ち出しちゃまずい奴なのかな?」
「そうですね。まず間違いなく注目されます。初心者用ダンジョンとはいえ、初日で最下層まで攻略してしまえる人はそうはいないでしょうから」
なるほど、どうやらやりすぎてしまったらしい。……いや、でも持って帰らないと収入的にマジでまずい。だって、泊ってるところスィートなお部屋なんだよ?お金じゃぶじゃぶ無くなってくの!このままじゃ数日でお財布の中身が底をついちゃう!と言う事で、目立つことは覚悟して持ち帰ることにする。
いつの時代も異世界でもお金と言うモノは天下の周りモノなのである。うん、本当に困るな!
「後ろではなく転移の魔方陣で地上まで戻れるようです。流石魔法学園、高度な技術が使われています」
「そ、そうなんです?ううん、そうなんですね……」
シレーネさんが最奥に現れた魔方陣を見ながら感心しきりだ。隣でみてるビオラちゃんは良くわかっていない様子で小首をかしげていて可愛い。ふふ、流石は俺の奥さんなんだよ!
『真人、アレなに?』
「ん、何だい?」
テチテチと頭の上でモフモフモードだったフレアが最奥に描かれたモニュメントを小さな手で指さす。美しく彩られたレリーフは全て魔方陣であり、周りには幾つもの巨大な魔石がはめ込まれていた。
そして、その真ん中にはめ込まれているのは赤い魔石。
つまるところ、超大型魔物や魔王クラスの魔石であった。どうやらこれがダンジョンのコアとなっているらしい。というか、下にある石碑に手出し厳禁!触るとトラップが発動します!と書いてあり、その傍には幾つもの白骨遺体が転がっていた。どうやら命知らず冒険者がトラップなぞなんぼのもんじゃい!と果敢に挑戦して見事に返り討ちに合ってしまっているようだ。
「最下層まで潜って変なトラップで死ぬだなんて馬鹿な奴らだなぁ」
「言うな。お宝が目の前にあったら取りにいかざるを得ないのが冒険者なんだから」
ライガーはそうかなぁと呆れ顔ではあるけれど、誰も見ていない最下層で持ち帰れば城が買えるクラスの魔石があれば……気の迷いが起き無い方が無理だろう。
「ちなみに、この白骨たちの持ってたアイテムも持って帰れるみたいだけどどうする?」
「んー……いらないかな!というか、こういうのって変なのが憑いてることがあるからあんまり拾いたくないんだよね」
特に欲に駆られた人間の怨念と言うモノはすさまじいものがある。うん、まさしくその通りの骸骨さんたちだからそっとしておいてあげよう。
『――あのう』
ふと、声が聞こえた。
澄んだ少女の声だ。どことなく、聞いたことがあるような声。それもつい最近だ。ううん、どこだったかなぁ……。
『もしかして、その、見えてるです?見えてるですよね?』
おーい、と肩までのシルバーブロンズの髪色で魔法使いの格好をした――半透明な少女が俺の目の前で手を振って見せた。なんだかとっても既視感を感じて振り返るとビオラちゃんが青い顔をして震えていた。うん、自分も幽霊な感じになってたけど。実際に幽霊をみたらそりゃ怖いよね!
「……ええと、君は誰かな?」
『や、やった!やっと見えてる人が来た!』
ふわふわと可愛い少女が飛び回って体中で喜びを表現している。身長はビオラちゃんと同じくらいだろうか?チラリチラリと見えるスカートの中身が眩しくて、後ろのみんなの視線が痛い。見えるものは見えるから仕方ないんだよ!うん、シマパンってこの世界でもあるんだね!!
「ええと、もしかしてカトレアちゃんのお姉さん……ですか?」
『ふぇ?なんで冒険者さんたちがカトレアの事知ってるんです?』
怯えた様子のビオラちゃんが恐る恐る聞いた答えは、ふわふわと返されてしまった。
どうやら彼女がカトレアちゃんのお姉さん――アイリスちゃんらしい。カトレアちゃんに似てて美人さんで、なるほど確かに雰囲気が似てる気がする。………………。さっきのシーンはそっと心の本棚に残しておくとしよう。
今日も今日とて遅くなりましt( ˘ω˘)スヤァ