19話:機能性筆箱の沢山のギミックって今となっては無駄に見えるけどロマンが詰まって素敵なモノだったよね?
「いやぁすまないね散らかってしまっていて」
塔から空へと横へのびる小部屋の一室。そとからみるとそうでもなかったけれど、中はそれなりに広いようだ。うん、少し埃っぽいし、本が乱雑に散らばっているけれども!
それよりも目に留まるのは多くの魔物たちの部位標本。木製の棚に幾つもの臓物がガラス瓶の中でプカプカと浮かべられていて正直目のやり場に困る。うん、女の子を呼べる研究室じゃないと思うの!
「まったく、片付けないのは先生が悪いんでしょう」
「いや、そうは言ってもこれでもこの前色々と片付けたじゃないか」
助手のお兄さんに肩を竦める白いひげ面のダンディなおじさん。どうやら、研究に熱中し過ぎるあまりに周りが見えなくなってしまうタイプの人らしい。
「さて……。お嬢さん方、改めて自己紹介を。私はメスト・ビアス。気軽にビアス先生とでも呼んでくれたまえ」
「とはいえ、先生の授業を受ける生徒は少ないですけれどね」
「んん、ブラント君。もう少しこうオブラートに包んでくれないものかね?そんな率直な言葉は、その、突き刺さると言うかね!」
助手のお兄さんのジトにビアス先生はふいと目をそらす。どうやらビアス先生の授業は相当に人気が無いらしい。
「華々しい魔法学に比べてうちの魔物学って地味だからねぇ。倒し方講座は人気があるんだけど魔物の生態やら体内構造の当たりになって来ると生徒が忽然と消えて行ってだね」
「仕方ありませんよ。可愛い魔物も人型も中身丸出しの標本持ち出して見せたりしたら卒倒しますって」
「そうかなぁ……」
なるほど、そりゃあ人気が出るわけが無い。人型の魔物は見た目は殆ど人と変わらない。つまるところ、私の服のすそを掴んでフルフルと震えている可愛いカトレアちゃんもそのカテゴリに含まれてしまうわけで……。カトレアちゃんが物言わぬ標本にされたと考えたならば、直視できる自信は無い。
「この研究は色々と有用なんだけどなぁ。学園のダンジョンではできない魔物の家畜化の研究でもあるからね。現状の勇者教から供出されている生産された魔石は使えないことはないけど、小物ばかり。大きくて質のいい魔石を、となればやはり魔物を狩るか育てるしかないのだよ。もしくは――生み出す、とかね?」
「魔物自体の素材自体も有益なのです。尤も、うちの学園のダンジョンでは倒してしまえば基本的に魔石以外は霧散してしまいます。うまくダンジョン内で魔物が育っていた場合は、一部だけが素材として残る場合もありますが運がかなり絡んできますので魔石以外を目的で潜るのはお勧めしませんね」
そういえば今日の授業の説明でこんな事を言っていた。
――このダンジョンは人工的に作られた初のダンジョンで魔物を自動生成しており、その影響で魔物たちは死ねば肉体が崩壊し、魔石だけを残して消えてしまう。もし残ることがあったならば、ダンジョン内で何かを食べて育った中でも特異な個体であり、高価な価格で取引されることもあるのだそうだ。……剥ぎ取りは無いけど、何だかゲームっぽいなぁ。
「それで、この子がアイリス君の妹さんなんですか?」
「ああ、どうやら行方知れずになってしまったから探しに来たみたいでね。そうだったよね?」
「は、はい。その、カトレアと申します。学園に来れば姉さんの手がかりを見つけられるんじゃないかって思って、それで……」
私の後ろに隠れたままカトレアちゃんがそう答える。まぁうん、怖いから仕方ないよね。私は可愛いカトレアちゃんが見れて満足だし!
「なるほど、しかし申し訳ありません。こちらとしましても彼女の行方はわからなくて……」
「だねぇ。というかそもそもダンジョンの中で行方知れずになったのだから私らでは知りようも無いんだけどね。本当にどうして夜中にダンジョンに行ったりしたんだか……。我が研究室の実験材料はダンジョンじゃあ獲れないから、潜ることなんて滅多にないモノなんだけどねぇ」
ヤレヤレとビアス先生が肩を竦めて見せる。
話の限りではこの研究室関係で行った……と言う事は無いらしい。まぁ確かに魔物を研究しているのに霧散してしまう魔物しかいないダンジョンに潜ることは少なさそうだ。
「そういう訳で、行方に関しては私らにはわかりかねる。うむ、すまないね」
「いえ……お話、ありがとうなのです」
しゅんとした表情のまま私の服を掴んだままカトレアちゃん首を垂れる。せっかく見つけたと思った手がかりが一瞬に消え去ったのだ。落ち込むのも無理はないだろう。
「ところで……君たち魔物についての研究に興味は無いかね?いやぁ、何と言うかアイリス君の穴が思ったより大きくってね!できれば新人の子に入ってもらえれば助かるのだけど……ダメかな?」
「ふぇ?え、えと……」
なるほど、どうやらこれがビアス先生が私たちをここに連れてきた目的らしい。うん、何かあるんだろうなーと思っていたんだけどね!
「参加してこちらにメリットってあるんですか?」
「メリットかい?ううん、賢者になる道が開ける……というのは勇者の君にはメリットにはならないか。ふむ……。それなら、アイリス君がこの学園でどんな研究をしてきたかを知ることができるとすればどうかね?」
ビアス先生の言葉にカトレアちゃんの目が泳ぐのが見えた。
お姉さんであるアイリスさんを探しに来たカトレアちゃんには確かに魅力的な提案だろう。けれど、私の中のナニカが警鐘を鳴らした。こういう勘は私は昔から当たることが多い。嫌な予感がしても突っ込んでしまう事はあるけれど、大抵は運よく何とかなっていた。
――そう、兄さんが助けてくれなければ確実に私は死んでいたあの時を含めて。
つまるところ、この嫌な予感は死に直結する可能性がある。だからこそ答えは一つ。
「ごめんなさい。私たちはまだ学園に入ったばかりなので、考えさせてもらってもいいでしょうか?」
「そうかい?まぁ、無理にとは言わないよ。二人共々いい返事を期待しているよ」
ニッコリと渋い笑顔でビアス先生はそう言って美味しいお茶をごちそうしてくれた。うん、悪い人ではなさそうな雰囲気だけど、胸の奥ではずっと嫌な予感の警鐘がずっとなり続けているような気がした。
今日も今日とて遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ