15話:猫は気まぐれだけどそこがどうしようもなく可愛いモノだよね?
綺麗な内装に彩られたホテルの部屋は今回もリッチなスゥイーティーな部屋だった。
ホテル側に一番最初に案内されたのがここであり、断ろうとしたら受付の人にものすごい顔をされた。どうやらギルドカードに貴族と書かれてた場合は問答無用でスイートルームに叩き込まれるらしい。これは、ゆゆしき事態じゃあないかな!主に財布的な意味で!
「――それで、兄さん。何か申し開きは?」
「やぁ!ボクはピーター!パーカーじゃなくて燕尾服だけどピーターだよ!って、真理さん?その、顔がめっちゃ近いんだけど!?近いな!!」
スイートなお部屋の真ん中で正座をしている俺の顔を、真理がジィィィと覗き込んでくる。うん、そんなに見つめられてもお兄ちゃん困っちゃうんだけど!
「ええと、その……もう正直に話してしまっていいのではないでしょうか?」
確かに苦笑い気味なビオラちゃんの言う通りに、全て話してしまえばいいのかもしれない。だけど、真理はまっとうに勇者をやっている。なのに、俺たちの事情を話してしまえばこちら側に引き込むことになってしまう。そうなってしまえば最後、どんなことが起きるかなんて――
『まぁ、私がいる時点で隠し事など無理なのだがな。そう!何せ神!なのだから!』
『ふん、かく小さくなりて何神なり』『まぁ、我らもであるが……』『なんだか可愛くされてしもうたからのう』『美味しいご飯が食べれるならどうでも……?』『まさか異世界で同郷の神と逢えるとは思わなんだ。……はて、名前、名前は……』『伍乃……ヒルコ様だよ?日本でもすごく有名な神様じゃないの』『でも、かなり弱体化させられてるみたいねぇ』『分体の私たちと違って、異世界に本体ごと乗り込んでるみたいだし仕方ないんじゃないかな?』
後ろの方で八岐大蛇VSヒルコ神という世紀の戦いが起きているようだけれど、見た目はぬいぐるみ同士の突きあいで何だか和むのはここだけの話だ。
『真人様。真理様は真人様を探すために片道で異世界にまでやって来ております。ですのでどうか、まず真人様のお顔をお見せしていただけないでしょうか?』
見る影もなく可愛らしい人魂のようなぬいぐるみに成り果てた沙夜が小さな手をそろえて頭を下げて見せる。……沙夜がそこまで言うなら仕方ない……か。
「兄さんって、なんだかんだで沙夜に甘いよね?」
「そんなことは無いと思うぞ?」
そういいつつ、仮面を外して素顔を晒す。うん、何だか久々に外したせいかスース―するな!
「うん、やっぱり兄さんだ。本当に、本当の……。ぐす」
「え、泣く?泣くの?ま、まてまて、それは流石に想定外なんだけど!」
「だって仕方ないじゃない!あんなお別れなんて無いよ!私、兄さんにちゃんと、お礼も言ってない。助けてくれてありがとうって。兄さんが兄さんで私は幸せだったって。言う前に……いなくなっちゃうんだもの」
ぐすぐすと鼻をするる真理の頭をやわやわと撫でてあげる。
――こうして撫でてあげるのもいつぶりだろうか?
あの雪山の時……撫でる事ができていただろうか?
「えへへ……。兄さんの手だ。ちゃんと、あったかい……」
スリスリと子猫のように俺の手に真理が頭をこすりつける。ううん、我が妹ながら可愛い……!じゃなくって、あれ?真理ってこんなに甘えん坊だったっけ?小さい頃はこんな感じだったけれど、最近じゃつんつんしててあんまり話してくれなかったりしてた気がするんだけど?
「それは、その……」
『単なる反抗期ですね。「沙夜?!」自分で言っておいて言い過ぎた……とか、もっと素直になれたら……とか落ち込んでいたのを何度もお見掛けしましたから』
真理はもう耳の先まで真っ赤にして顔を両手で抑えてしまっている。なるほどなー!やっぱりうちの妹は可愛いなぁ!
「なるほど、妹の為に生きて来ていたとは聞いていたが……これはもう、妹ってレベルじゃないくらいに距離が近い関係だったんだな」
「そうかな?ううん、これが普通じゃないのかなぁ」
違うの?とライガーに首をかしげて見せると、違う違うと手を横に振られてしまった。ううん、実妹じゃなくて従妹だからなのかな?まぁ、俺は自分の妹が世界一可愛い妹だと自負してるけどね!頭もよくて人当りもいい、運動神経も抜群で正しく自慢の妹なんだよ!
『ああ、真理様の顔がさらに赤く……』
「ふふ、本当に仲がよろしいんですね」
ビオラちゃんがなんだか嬉しそうに微笑んでいる。もしかしてナデナデしたいのかな?うちの妹は可愛いし仕方ないネ!何度も言うけれど!!
「そ、それで兄さん。改めてどうしてあんな仮面なんてつけてたの?それ以前にその指輪って……」
「ああ、俺結婚したんだ」
「は?」
「うん、魔王二人と勇者になった子と龍の子とあと鬼な狐っ娘?」
「は……はい?!」
「それで、サクラちゃん……魔物や魔王って魂が魔石に内包されてるんだけど、その嫁さんの魔石が勇者教に奪われちゃってね。今はそれを探して奪い返しに行ってる旅の途中なんだ」
「ご、ごめん、情報量が多すぎて頭が痛い」
真理が頭を抱えてふかーいため息を付いている。流石に結婚したことは隠しておいた方がよかったかな?
「いやいや、それ以前に何で五人も奥さんがいるの!?というか、兄さんって勇者よね?なんで魔王と結婚してるのよ!しかも二人と!」
「まぁ、これも話せば長くなるんだけどね」
そもそもな原因は俺が大魔王城に召喚されたから。そのお陰でサクラちゃんに出逢えて、ビオラちゃんに出逢えて、フレアに、シルヴィアに、伊代ちゃん出逢うことができた。いやぁ、色んなことがあったなぁ……。
「大魔王に獣人にヴァンパイアに龍にロボにゾンビな龍に巨大虫に……な、何で異世界で九尾の狐と戦ってるの!?」
「本当に何でだろうね!」
特に死因第一位は大魔王だよ!何度殺されたか今更数え切れるか!ってくらいに殺されてるんだよ!悲しいな!
「まぁ、そう言って大魔王様といつも遊んでるのが真人なんだけどな。大魔王様の四天王であるボクの父ともよく模擬戦をしてたりするし」
「に、兄さんって異世界でも規格外なのね……」
ものすごいジト顔で真理とライガーがこちらを見つめる。ふふ、そんなに見つめても何も出せないぞ!
「それで、兄さんはそのお嫁さんの魔石を探しにこの学園に来たの?」
「探す過程の一つとして、かな。ここの学園の生徒を同じパーティで活躍させれば勇者教に入りこむ近道になりそうなんだよ。だから、それに協力してくれる子を探しに来たんだけれど……」
と言って真理をじっと見つめる。研修とはいえ、真理はこの学園の生徒となっている。つまり、真理に活躍してもらえれば……?
「ううん、多分それは無理じゃないかな。研修もそう長期間じゃないし。それなら、本当の学園の生徒をパーティにいれて活躍させた方がいいと思うけど」
「でも勇者以外に勇者教に近づくことに協力してくれる子なんて……」
「あ、あのう……」
声を出したのは小学生くらいの小さな女の子だった。金髪で赤い瞳、目深めに黒い帽子を被った――って、そう言えばどなた?
「この子はカトレアちゃん。この学園の生徒で――」
「初めまして、真人さん。私はえと、カトレア……というのです。よろしくお願いします」
「なるほど可愛い」
「でしょ?」
真理とグッと手を握りあう。後ろの方でライガーのジト目を感じるけれど、可愛いは正義!そう、正義なのだ!
「先ほどは助けていただき、ありがとうございます。私がお役に立てるのならお手伝いができればいいのですが……」
それは正しく渡りに船!カトレアちゃんがお手伝いしてくれるなら百人力だろう。ようし、それで行こう!
「いやいや、それはまずいだろう。だってその子……ヴァンパイアだろう?」
「「……はい?」」
俺と真理の声が見事にハモったのは最早言うまでもないだろう。
今日も今日とて遅くなりましt( ˘ω˘)スヤァ