14話:落としモノって気付いたら無くなっているから探しようもないよね?
繰り返しになるが魔法学園は本当に広い。
学園の塔の周りには商業施設が幾つも並び、冒険者ギルドに教会、宿まである。さながら一つの学園都市と言ってしまってもいいだろう。
俺たちのいる綺麗な噴水のある学園前の広場もまた例にもれずに多くの人が行きかっている。
尤も、今はそこに二十メートルはある死んだ大蛇の魔物が横たわっているので物珍しさに人が集まっているというのもあるけれど。
「ここにある初心者向きのダンジョン目当てでやって来る冒険者が多いんです。実入りは少ないですが、安定して狩ることができるので、学園に入学する人以外の冒険者もここで寝泊まりしていたりしているんです」
「初心者用……それにしては宿代が少し割高じゃないでしょうか?宿代と食事代とダンジョン潜る資金だけで首が回らなくなるような……」
シレーネさんの言葉にビオラちゃんが首をかしげている。
恐らくそれが初心者向けたる所以だろう。中級者ほどの実力があれば稼いでも稼いでもそれ以上が無い事に気づいてしまう。だから、微々たる資金がたまったころに割のいいクエストへと移ってここを離れていく訳だ。だから、中級者以上が残ることは本当に稀だと言える。そう、これぞ正しい初心者向けと言っていいだろう。初心者ばかりしか集まってないだろうしね!
「だから下の階層の魔物が強力になりすぎないよう、年に数度割のいいクエストが張り出されるそうなの。兄さんもそれが目的で学園に来たの?」
「ハハ!ボクはピーター!君の兄さんじゃ無いよ!」
全力笑顔で迫って来る妹にそう言って冷や汗をダラダラと流しながら顔をそらす。
お、おお、おかしい。仮面をつけているからバレる筈が無いのに、何でバレてるのかな!はっ!?あの神の加護が……?俺があっちで死んで、その後に真理が後を継ぐのは必然。それならば、仮面の呪いを貫通して見破ることもできるだろう。まぁ、それ以前に名前呼んじゃったけどね!
「で、出ましたー!生きてます!」
救護班の声に辺りがざわつく、人影から覗き込むと中から大きな帽子をかぶった女の人が出てきた。けれども、蛇に飲み込まれて無事という訳にはいかない。蛇に生きたまま丸呑みされた生き物は胃酸で溶かされる以前に、窒息して死んでしまう。うん、つまるところ生きていても死にかけてるんだなこれが!
「びぉ……コホン、スミレお嬢様お願いいたします」
「ええ、それでは――」
そう言ってビオラちゃんが女性に向けて治癒魔法を唱える。元々素養のあったビオラちゃんなのだけど、八岐大蛇お姉さんズと契約してその能力も飛躍的に向上していたらしい。
元の世界ではギリシアの死者をも生き返らせる医療の神と言われた伝説上の人物が蛇の巻き付いた杖を持っていた事に由来し、医療関係には蛇が描かれている事が多い。もしかするとその影響が多少なりともあるのかもしれない。お姉さんズも良くわかんないと言ってたし、憶測でしか無いんだけどね!
「――はい、終わりました。容体も安定しているようですし、これで大丈夫です」
ビオラちゃんの言葉に周りにいた生徒たちが安どのため息を付く。今しがた学園から到着した先生たちがビオラちゃんに頭を下げていた。よし、これで少しは恩を売れた……かな?
「あ、あの、ありがとうございました!あなた方が助けてくださったおかげで……」
「止してください。私は後から追いかけてきて少しお手伝いをしただけです。お礼を言うなら彼に行ってください」
魔法学園の女生徒たちに囲まれた金髪イケメンがこちらの方をちらりと見やる。けれど、彼女たちはキャーキャーとこっちを見る気配すら無かった。そりゃあ金髪イケメンと怪しい仮面の男だったらイケメンの方に行くよ!うん、シカタナイネ!
「気にしているなら兄さんもその仮面を外せばいいじゃない」
「だからね、ボク、君の兄さんじゃないよ?」
真理のジト目が素晴らしく痛い。
逢いたくて逢いたくて堪らなかった妹ではあるのだけれど、今はとってもタイミングが悪すぎる。ここは逢わなかったことにしてまた改めて出会いなおしたかったのだけれど、どうやらそうは問屋が卸してくれないようだ。
『ああ、問屋が卸さぬ』『お久しぶりです、真人様』
両肩に乗って来たのは真理が連れていた魔法少女のマスコットのような子たちだった。着物を着飾ったぬいぐるみのような大きさの少女は……よく見るととてつもなく見知った顔をしていた。え、はい?待て、待ってネ?貴女こんなところに居ていいんです!?と思わず吹き出してしまった。うん、俺悪くない!
『あちらの世界がお主がおらぬからあまりにもつまらなくての。わざわざ追いかけてきたのだ」
フンスと、鼻を鳴らして彼女――ヒルコ様がにこにこと満面の笑みでそう言った。神様なのにそんなにフリーダムでいいのだろうか……あ、神様だからフリーダムなのか!なるほどなぁ!と、俺は頭を抱えて大きくため息を付く。まさか、異世界にまで追いかけてくるだなんて……。
『お気を落とさないでください、真人様』
もう片方の方に乗った小さな角を付けた丸っこい精霊の子が俺の頬を優しく撫でる。見ただけで分かった。この子は――沙夜だ。
俺がまだ中学に上がったばかりの頃、一族徒党諸共に襲い掛かって来たのを返り討ちにした時に拾った鬼の血を引いた少女。それがこの子だ。まさかこんな姿になってまでこの世界までついてくるだなんて。
『これで良かったのです。こうしてまた真人様に触れ合えただけで沙夜は幸せでございますから』
肉体を捨て、魂を式神として適用させたその姿に彼女の面影は殆ど残っていない。それでも尚この子は幸せだというのだ。
『愛されとるのう……。ところで、その、あまり聞きたくないのだが、その薬指につけておるのは、よ、よ、よ、よもや』
「あーうん、とりあえずその話は後でしようか!それではアルフレッドさん、報酬の方は馬車にいる獅子族の子に渡しておいてください!ええと、あそこの宿に部屋を借りるから夜にでも来てくれるかい?いいね?」
「あ、ちょ、待って――」
真理の言葉を最後まで聞き取ることも無く、俺はビオラちゃんとシレーネさんと共に人ごみに紛れて宿屋へと足を運んだのだった。なんだかこう、どっと疲れたな……。
投稿ボタンを押しわすれるという失態。
大変申し訳ございまs ( ˘ω˘)スヤァ