11話:朝起きて優しく起こしてくれる可愛い女の子がいてくれればどれだけ幸せだったかと今更になって考えちゃうよね?
正座は古式ゆかしきお座敷での座り方であり――謝罪と反省を体現するスタイルでもある。そう、俺は魔法学園へ護衛するクエストの最中、こうして御者台で正座をしていることを皆に言い渡されたのだ。
うん、痺れはしないけど割と痛いな!そろそろ解いちゃ駄目かな?かな?
「ダ・メ・だ。まったく、クエストを受けるとは話はしていたけれど、行くときは一緒だって言っていたのに勝手に一人で手続きまで終わらせて来た従者さんには甘いくらいだとボクは思うんだけど?」
と言う感じで御者台に一緒に座っているライガーの流し目なジトの波動を感じる。うん、起きて挨拶をしてクエストに出発だ!と言ったらみんなからのジトがすごかった。おかしい、みんなの為を思って朝一番に行ってきたのだけど、逆に気を使い過ぎてしまったらしい。
「はぁ、どうせボクらの誰かがボロを出さないか心配して先に行ったんだろう?まったく、少しくらいボクらを信頼してくれていいと思うんだけどなぁ」
「それなら、俺らがこんな関係だって見せつけた方がよかったかい?」
「にゃ――!?」
ライガーの頬に手をそっと当て、ジッと見つめて見せる。
「ば、バカな子と言うな!誰がお、お前となんか……」
顔を真っ赤にしてプイとそっぽを向かれてしまった。まんざらでもない様子ではあるけれど、残念ながら振られてしまったようだ。まぁ、分かってたからやったんだけどね!
「奴隷と主人と聞いていましたが、ずいぶんと仲がよろしいんですね?」
そう声をかけてきたのは馬に跨った鎧姿の精悍な青年だった。金髪でイケメン。重要な事だからもう一度言おう。金髪でイケメンである。くそう、何でこんなに無駄に格好いいんだ……!彼もまた冒険者であり、護衛のクエストに参加した一人――名前はなんだったかな?
「アルフレッドと申します。ランクはBです。新人の方がクエストを受けられたので、念のために私もとのギルド長に仰せつかりまして。――尤も、貴方がいれば私は必要ないと思ったのですけれど」
「んんん?貴方って誰です?」
「いえ、貴方の事ですよピーターさん」
ピーターさん、と言われてくるりと見回す。あれ?誰だっけピーターさん。………………あ、俺だ!
うん、ライガー?大丈夫。忘れてない。俺はピーター。ウサギでも蜘蛛でもないけどピーターだ。オーケイ、オーライ問題ないぜ!
「ふふ、お聞きした通り変わった方ですね。朝の大立ち回り見ましたよ?まさかAランクのガンドランさんを軽くあしらってしまうだなんて」
どうやら朝の一件を見られてしまっていたらしい。そう大したことはしていない気がするけれど、元々新人だと思っていたのだと考えれば、確かにやりすぎだったのかもしれない。はい、反省しています。だからしびれてきた足をつんつんと突かないで欲しいな、ライガーさん?!
「ふふ、本当に仲がよろしいですね。気が荒いと言われている獅子族を奴隷にしてもそこまで打ち解けているなんて――本当に不思議な方だ」
何だかものすごい変な勘違いをされている気がするけれど、訂正すると地雷を踏み抜く気がするのでそっと流しておくことにする。これ以上罰が増えると俺も辛いしね!
「しかし、魔法学園ってなんでこんな山奥に作ってるんです?学園として運営するんなら町中が便利だろうに」
「ああ、それは簡単な話です。何と言いますか、魔法学園は魔法研究機関としても有名でして、独自にダンジョンを持っているからなんです」
「ダンジョン……というと。強大な魔物が住み着いてできるって聞くけれど、それを放置してるってことなんです?」
「いえ、そういう訳ではなく。話によれば地下深くに封印した魔王を利用して、弱い魔物たちが自動で湧いてくる疑似ダンジョンを作っているのだそうです。なので、そこのダンジョンには魔物たちを統率するダンジョンマスターはいないので、初心者の冒険者や勇者たちの練習台になっていたりするんです。まぁ、伝聞ですのでそれ以上の詳しい事はわかりませんが」
疑似的なダンジョン。そういうものもあるのかと、思考を巡らせる。俺の見て着た魔王達の居城にダンジョンらしいダンジョンは割と少ない。まぁ、正式に客品として言っているからそんなところ通る必要
が無かったと言えばそうなのだけれど。俺の行った事のあるダンジョンと言えば――大魔王城の地下が真っ先に思い浮かぶ。あの時は案内してもらったおかげで魔物と出会う事は無かったけれど、今思えば四天王のクリュメノスさんがあそこのダンジョンマスターとして鎮座していたのだろう。まぁ、引きこもりのゲーム三昧だったけど!
「ふむ……どうやら君たちもそれが目的だと思ったが違うらしい。もしかして魔法の事を学びに行くつもりなのかい?」
「それも正解ですね。私の主が学園とつながる人と懇意にさせていただいておりまして、紹介状を頂けたので、冒険者として旅立つ前に少し魔法についても学ばせてもらおうと思っていたところだったのです」
なるほどそれで、とアルフレッドさんが納得をしてくれた。
正式な手段で入学し、数カ月間研修を受ける事もできるのだけれど、そこまでする必要が無いと数時間の講習だけで済ませる冒険者や勇者も少なくないのだそうだ。尤も、今回はガッツリ数か月学びに行っている勇者と仲良くなって、活躍してもらう事が目的であるので下手をすれば俺らも長期で残ることになるのだけれど、まぁそこはご愛嬌と言う事にしておこう。
「さて、見えてきましたね。あの塔が魔法使いたちの学び舎、冒険者や勇者の研修としても使われる魔法学園で――」
瞬間、爆音が学園近くの森で響き渡った。見れば高い木を優に超える大蛇がその鎌首をもたげていた。うん、でかいな!?
「な、何故あれ程までの魔物が学園の近くに!?まさか学園の実験で――」
不穏な言葉が聞こえたけれど、聞き流すことにする。うん、俺何も聞いてない!
「誰か――戦ってる。……女の子?」
確かにライガーの言う通りだ。ここからは遠目でしか見えないが誰か、純白の衣装を着た誰かが戦っているのが見えた。アレは――
「ごめん、ここを任せた」
「え、ちょ――!?」
ライガーの驚く声を背に聞いて、俺は馬車を飛び降りた勢いのまま森の中へと飛び込んでいく。
ここからあの大蛇の位置まで二百メートルほど。森の背の高い木々を蹴り上がり、森の上空へと飛び上がる。ここからなら――!
――無限流/無手/輪!
くるり縦に弧を描き、直上から落下速度を利用して大蛇の頭を踵で蹴り穿つ!頭を蹴り砕かれた大蛇がその反動で空中へと打ちあがり、そのまま土煙を上げて力なく地面へと叩きつけられる。うん、もう動かないかな?……大丈夫そうだ!
「――兄……さん?」
土煙が晴れた先、そこには――死に別れた妹。
この世界にいる筈がない、真理が――巫女服とシロスクを合体させた魔法少女な装いで――そこにいた。
「真理……?」
思わずつぶやいてしまったその言葉を、俺は即座に後悔したのは言うまでもなかった。
今日も今日とて遅くなりましt( ˘ω˘)スヤァ