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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第八章:勇者な執事と魔法学園の姉妹の絆。ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!
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4話:異世界で車移動って夢も希望も無いけど割と現実的にそっちが安全そうだよね?

 清潔に整えられた室内。


 白を基調として整えられた病室は、世界で一番安全な場所と言う事で大魔王城に設置された。ついこの前の事件もあるし世界一とは言いづらいんじゃいない?と大魔王に突っ込んだら口笛を吹いて目をそらされた。これ絶対に自分の傍に置いておきたいからだよ!と言うか口笛拭けてなかったよ!


「……サクラちゃん。ごめん、一番大切な時に君の傍にいる事が出来なかった」


 物言わぬ抜け殻と成り果ててしまったサクラちゃんの手をそっと握る。痛々しく機械がサクラちゃんの体に繋がれ、生命活動を最低限に保たせてくれている。

 サクラちゃんの体は魂と言うべき魔石を抜かれたことにより、驚くべき変化が起きていた。髪の色は真白から黒へと染まり、肉体的にも魔王として肉体から人に近い存在へとなっているらしい。サテラさん曰く、肉体の質として継承勇者であるビオラちゃんに近いらしく、人間と精霊の相中の存在のようなもの……らしい。


 しかし、この姿のサクラちゃんもモノすっごく可愛い。銀髪から黒髪に代わっていても俺には天使にしか見えない。ああもう、可愛すぎかな!


 サクラちゃんの手を両の手で包む。


 ピクリとも動くことのない、彼女の手は少し、冷たい。


 早く、またサクラちゃんと話がしたい。また、あのかわいい笑顔を見せて欲しい。また、ギュッと抱きしめてあげて、好きだよと愛してると一晩中でも言ってあげたい。恥ずかしそうにはにかむサクラちゃんをまた、見たい。


 ……当たり前にできていたことができないことが辛く、悲しい。


「きっと、助ける。君の笑顔をまた見たい。その為なら俺は……」


 そっとサクラちゃんのおでこにキスをして病室を後にする。


 ――待ってる。


 そう、物言わぬはずのサクラちゃんの声が聞こえた気がした。


 きっと、気のせいなのだろうけれど。


 


 翌日。


 ようやっとアークルから勇者の国へと向けて旅立つ準備が整った。


 即日で動きたかったのだけれども、アークルへの移動やら諸々の手続きやら荷物の準備やらに手間取ってしまったのだ。うーん、荷馬車が二つって割と目立たないかな!かなり目立つと思うんだけれど……。目立ってるよねこれ!


「設定としてお嬢様が引き連れた勇者を含む冒険者集団という体ですから諦めてください」


 見送りに来てくれたはずのロベリアちゃんが、ぶっすうと頬を膨らませたまま目を合わせてくれない。どうやら一緒に連れて行くと言わなかったから拗ねてしまっているらしい。


「……どうしてもダメなんですか?」

「連れて行きたいのは山々なんだけれど、ロベリアちゃんにはサクラちゃんの事を見守っていて欲しいんだ。ほら、身の回りのお世話って他の人に任せづらいしね」


 特にサクラちゃんは大魔王城の皆――特にメイドさんたちに疎まれていた。魔眼の暴発事故のせいでそんなことになっていたのだから仕方ないと言えば仕方ない。だかこそ、サクラちゃんを怖がらずにお世話してくれる人と言うのは貴重なのだ。


「だから、俺の一番大切な人のこと――お願いできるかな?」

「その言い方は、ズルイ……です」


 ロベリアちゃんはギュウと俺の服のすそを掴み、ポロポロと涙を流す。本当は連れて行きたい。思えば、こっちに来てからいつも一緒だったし、この子がそれほどまでに俺の事を大事に思ってくれていることも重々に分かっている。だからこそ離れ難い。


「はぁ、全く自分の嫁さんを差し置いてメイドとの逢引かい?」


 ヤレヤレと、公務を中断して見送りに来てくれたシルヴィアが肩を竦める。隣の伊代ちゃんも何だか苦笑いだ。


「んーそう見える?」

「引き裂かれるカップルに見える程度には」

「違いますよ!」


 顔を真っ赤にしたロベリアちゃんが慌てて俺から離れる。ううん、残念!


「……あの頃にはこんなことになるだなんて想像もつかなかったな」

「まぁ、最初に逢った時はサクラちゃんを取り合うライバルだったし……と言うか、シルヴィアは男だったし!想像できるわけないよ!?」


 そりゃあそうか、とシルヴィアがはにかむ。


「必ず帰って来いよ。お前の奥さんはサクラだけじゃ無いんだから」

「お待ち――しております」


 トンと、俺の胸に拳を当てたシルヴィアは何だか泣きそうな顔をしている。今生の別れじゃあないんだから、そんな顔しないで欲しいな!


「無理だ。こんなにも――誰かを好きになった事なんて初めてなんだ。だから、絶対に帰ってこい。来ないと許さない」

「ああ、分かってる。絶対に帰るさ」


 ぽんぽんと涙を目尻に浮かべるシルヴィアの頭を撫でてやる。頭の上に乗ったフレアも……寝てるよこの子!本当にマイペースだなぁ。


「フレアさんは――昨晩――遅くまでお話――していましたので――」


 そういえば、明かりを消してもずっと話してたっけ。嫁さんたちに苺ちゃんに夏凛ちゃん、林檎ちゃん、姫騎士のクロエやら椿さんにエルちゃん達にロベリアちゃんを含んだメイド集団も一緒にわちゃわちゃと。うん、寂しくなるからって俺の部屋でお別れ会とお泊り会をしていたのだ。何で俺の部屋なのかな!と言う突っ込みは今更過ぎるのだけども。


「分かってるとは思うが、全部終わるまで死ぬんじゃないぞ。死ねば……」

「ああ、分かっている」


 見上げるシルヴィアの頭をもう一度ぽんぽんと優しく撫で叩く。


 死ねば俺が戻るのは大魔王城。


 もし戦いの途中で俺が死んだならば人の国との距離を考えたなら――死ねば何もかもが()()()()()()。だから、命を大事に!……あれ、普通に当たり前だな?というか、俺の死因第一位は大魔王だし、大丈夫……大丈夫じゃない?


「お前は、無茶ができると分かったら自分の命を顧みないところがあるからな。少しは自覚しろ」

「して――ください」

「は、はい……ワカリマシタ……」


 二人のジトが何だか痛い。確かに無理を通して道理を蹴っ飛ばして何度も死んだけれど、今回ばかりは気を付けないと……はい、至上命題にしますです。


 一つ目の大きな馬車の御者台に乗り込んで、覗き窓をちらりと見るとお姫様の如く飾り立てられたビオラちゃんとシレーネさんが手を振ってくれていた。今回はビオラちゃんがお嬢様役、俺が執事でシレーネさんはメイドさん、ライガーは奴隷のフットマン(使用人)役に当てはめられた。ライガーも女の子だしメイドさんがいいんじゃと言ったら、女の獅子族奴隷とか人さらいの格好の標的になると言われて今の形に落ち着いた。まぁ、俺よりも燕尾服が様になっているのが何だかムカつく。俺っていまだに未だに執事服に着せられてる感じだしね……。

 ふぅとため息を付いて鞭をしならせて馬を動かす。今回はお忍びで出立と言う事もあり見送りも少数。別れの挨拶も済ませたところで静かな出立となった。


 領の事はもう心配することは無い。やるべきことはやって来し、それだけの人員も集まってくれた。だから、後はサクラちゃんを助け出すことに集中すればいいだけ。


 だから、待っててねサクラちゃん。きっと――すぐにそばに行くから。

今日も今日とて遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ

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