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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
番外の章:とある少女の前日譚
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23話:終わりを告げるモノ

 用意されていた傷薬と包帯で沙耶の手当てを車の中で済ませている間に、暗闇の中屋敷へと帰り着く。

 一応病院で見た方がいいかと沙夜に聞いてみると、この程度であれば次の日には治っていると返されてしまった。鬼の血を引いている為、傷の治りが人の数倍速いのだと言っていた。うん、それにしても早い気がするけどね!……私も人の事を言えない気がするけれど。


 ずかずかと屋敷の奥へと進み、大広間の扉を勢いよく開く。

 中には豪華な食事と高級ワインを傾ける父の姿がそこにあった。この父親、娘が死ぬほどの思いをしていたさなかに豪華な食事酒盛りをしていたらしい。


「――今日は記念日だ。お前が初めてのお役目を終えた、な」

「……主賓が帰る前にその食事を食べていたのに、ですか?」


 大股で父と対面になる席へ向かい、沙耶がその後ろに続く。


「ふん、誰がお前が主賓だと言った。これは水無瀬の家の祝だ。お前を待つ道理などあるものか」


 そう言って、グラスのワインをクイと飲み干してしまう。


――ああ、こんな事の為に私は命を懸けて、家族を、友人を、後輩を失ってしまったのか。


 心の中にスッと冷水を流し込まれたような最悪な気分だった。もう、呆れてものも言う気すら失せそうになってしまう。


「……お父様。貴方は水無瀬の家の為に他の誰かが犠牲になっても構わないのですか?」


 震える声をこらえて、目の前にいる父に問いかける。


「構わぬ。すでに千年近く行われてきたのだぞ?今更何を言う」


 はは、と笑い後ろに構えた執事に注がせたワインをまた更にクイと傾ける。


「……今日、友人が魂を喰われ、帰らぬ人となりました。他にも、何人も……」

「なんだ、その程度か。ふん、学園ごと喰い尽くすと思っていたが……邪神と言えど大したことが無かったな」


――……?この人は何を言っているのだろうか?


「やはり、あのハズレが倒せる程の邪神ではたかが知れていたという訳か」


――なんで、その事を、知っている……?


「折角、この私が()()()()()()と言うのに。ああ、本当に使えない雑魚だった、か。やはり災害クラスの被害は中々に……ん、どうした?」


 思わず立ち上がった私に、父はニヤニヤとしながら首を傾ける。


「お父様が、お父様があの化け物を学園に放ったのですか?」

「ああ、そうだ」

「わ、私の大事な人たちが、あんな目に逢う事を分かっていて?」

「それがどうした」

「それが……?」


 喉の奥がカラカラと乾いていたい。頭がくらくらして、心臓の動悸が止まることをしらない。()()()()()()()()()()()()()()()……?


「ああ、そうだ。その通りだよ。私の娘であるお前が試練に挑むのだ。ふふ、最初の試練となるのだからな!とっておきを用意しておいたのだよ!尤も(もっとも)この程度の被害では期待外れもいいところだったがな」


 ヤレヤレと首をふり、また一口ワインを口にする。


――曰く、兄さんを火口に落とした際には爆発物と共に落として火山を噴火させ、下の村々を壊滅させたと。


――曰く、兄さんを紛争地帯に落とした際には化け物を最前線に数体用意して、兄さんを匿った人たちを街ごと地図から消し去ったと。


 酒が回って興が乗ったのか、聞きたくもない事を楽しそうにベラベラと目の前の男は話す。


 涙がポロポロと溢れる。こんなにも酷い話があるだろうか?本当なら護るべき家族だった兄さんを殺そうと、苦しめようとした話をまるで武勇伝のように語っている。


 ()()()()を今まで父親だと思っていただなんて――。


「もう、結構です」

「は?何を言っている?」

「結構ですと言ったんです。もう、全部――終わりにしようと思います」

「お前、何を――」


 思えば、この人に最後に名前を呼んでもらったのはいつの日だっただろうか?私の誕生日の日も仕事だと言って帰ってこなかった。母さんの命日でさえ……。

 もしかしたら、と淡く薄く期待をしていたのだけれど、どうやらそれも無駄に終わってしまったようだ。


「願い奉るは海無に祀られし神よ」


 手のひらを合わせ、ゆっくりと目を閉じる。祝詞なんて難しい言葉は言わなくていいそうだ。ただ、心から()()願えばいい。


「当代の巫子たる水無瀬真理の名において――その任を解き、その御身を天へ還さん」

「まて、お前ぇええええええ!」


 男の叫び声をかき消すようにパンと音を立て、手のひら同志を打ち鳴らす。


 瞬間、目の前に暴風が吹き荒れ、目の前の食事もテーブルも吹き飛ばされ――そこには海無神社に封じられていた神、ヒルコ神の姿があった。大人バージョンの姿で。うん、いいところだからって、格好つけて出てきたよね、この神様!


「言いたいことが顔に出ておるぞ、真理」

「おおっと」


 ふいと目をそらし口笛を吹いて、ごまかしておくことにする。ふふ、何だかジト目が痛いぞう!


「は、ふひ、か、神。神……?」


 椅子から転げ落ち、情けなくも鼻水を垂らしたその男は腰を抜かしてしまったのか、その場から逃れようと芋虫のように這いずっていた。


「そうだ、私が神だ。うむ、このセリフって神であっても中々に言えんのだよな。真人に言ったら流されたしの」

「まぁ、兄さんだし」


 ねーと二人で顔を合わせる。兄さんって神様に対してもあの調子だったんだろうなぁ……。


「うぴ?あは、ひははは、あひゃひゃひゃー!」


 ばたばたと手足をばたつかせ、狂ったような叫び声を上げたかと思うと、男は転がるように扉を蹴破り、どこかへと走り去って行ってしまった。


 思わず、呆気に取られて見送ってしまったけれど、一体どうしたというのだろうか?


「恐らくは私の姿を直視したために発狂したのだろうな。しばらくはまともに話はできんな、アレは。まぁ、只人では持った方だろうよ」


 ケラケラと楽しそうに神様が笑う。まぁ、もうすでにアレを父とは思えないから何とも思えないのだけれど。


「って、沙耶!沙耶は大丈夫なの?」

「はい、問題ありません。私は鬼の血を引いておりますので」


 その言葉にホッと、胸をなでおろす。沙耶までいなくなったら、私はいったいどうすればいいと言うのだろう。


「……さて、真理よ。新たなる契約の刻だ。あのメダルを使い、異世界への扉を無理やりにこじ開ける。恐らくは門番たる神が待ち受けているだろうが――まぁ、何とでもなるだろう」

「それって本当に大丈夫なの!?」


 行ける行けるぅ!と楽しそうに神様は陽気に笑う。うん、本当に大丈夫なのかな?


「行く前に一つ。ゲートをくぐればお前は人としての枠を超える。人でありながら人でないナニカへと変わる訳だ。覚悟はいいか?」

「兄さんに逢えるなら、それで」


 逢って、話をして。また、ちゃんとやり直したい。今度こそ、自分の気持ちに素直になるんだ。


「……だが、お前はそのままでは連れては行けん」

「承知しております。肉体を捨てる覚悟はできております」


 深々と沙耶はヒルコ神へ向けて頭を下げる。


「え、待って何それ私聞いてない」

「はい、話しておりませんでしたので」


 つまるところ、沙耶の肉体と血のせいで異世界へのゲートをくぐった瞬間に爆裂四散してしまうのだそうだ。うん、何だか私がくぐるのも怖くなってきたんだけれども!


「真理は大丈夫だ。何せ魂魄の頑丈さが違うからな。それに飲まれて肉体すらすでに変異を起こしているほどだ」


 自覚はあるだろう?と言われて、思い返してみる。……もしかして怪我の直りが異常に良かったのはそのせいなのかな?気付かないうちに人間離れしてたの、私!?


「まぁ、まだ人間の範囲内さ。あちらの世界に行けばさらにその変異が起きるだろう。それもまぁ、ゲートをくぐってから考えるとしよう。まずは――」

「はい。分かっております。真理様、こちらを」


 真理に手渡されたのは一枚のお札だった。


「これは私を肉体と言う呪縛から解き放ち、真理様の式神となる契約の呪符となります」

「ま、待って、これを使ったら沙耶は」

「はい、人としての生を終え、真理様の式神となります」


 そんなもの、使える筈もない。そう突き返そうとして手が止まる。


 ……ジッと私を見つめる沙耶の目には一点の曇りも無い。


 きっと、最初からこうなる事を沙耶は覚悟していたのだろう。


「うん、分かった。沙耶がやれって言うんなら、それが沙耶の本当にやりたいことなんだよね?」


 沙耶が優しくほほ笑み、その瞳を閉じる。式神にする方法は前に沙耶から聞いている。真なる名前を告げ、お札をその者に押し当てればそれで認められたならば契約が成るのだそうだ。


「沙夜、行くよ」

「はい」


 そっと札を押し当て、沙耶の名を唱える。


 スゥと光が溢れ――その光が消えた瞬間に、沙耶の体が黒く染まりボロりと崩れてしまった。残ったのは薄く緑色に光る人魂のようなモノ。


――ソレが式神となった沙耶だった。


『まだまだ修行が足りていませんね。肉体の形成すらままなりません』


 丸っこい人魂に目と口と角だけが現れ、何だかかわいいマスコットのような感じになっていた。あ、ぷにぷにしてる。ぷにぷにしてる!


「はいはい、準備も整ったところで行くぞー」

「『はーい』」


 タカ柄のメダルをヒルコ神に手渡すと、それを持ったまま彼女は手を三度叩く。すると――目の前に鳥居が現れた。どうやら、この先が異世界となるらしい。


「さて、私もまたお前に憑くとしよう。私もまた肉体を持たぬ存在だからの」


 そう言うと、ポムンとこれまた可愛らしいぬいぐるみ風になったヒルコ神がそこにいた。あ、ぷにぷにしてる!ぷにぷにしてるよ!


『ええい、はよ行かんか!すぐに閉じてしまうぞ!』

「おおっといけないいけない」


 言われるがままにゲートをくぐって、先へ、先へと進んでいく。後ろの方で何かが爆発する音が聞こえたけれど、もう振り返ることも無い。


 兄さん、待っててね。きっと――逢えるから。



 これが私の始まりの物語。



 私が私として第一歩を歩み始めた、長い長いプロローグである。 

今日も今日とて遅くなりました。


これにて番外の章は完結となります。

ご覧いただき、ありがとうございます。


次話より、第八章を開始いたします。


楽しんで読んでいただければ幸いd( ˘ω˘)スヤァ

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