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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
番外の章:とある少女の前日譚
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18話:壊れていたモノ

「なんで、何で貴女が……?」


 震える肩を抑えながら睨むように春さんを見つめる。いつもの優しく温和な彼女の表情はそこには無く、妖艶で、怪しげな雰囲気を醸し出していた。


「ふふふ、そんなの決まってるじゃあないですか。貴女を食べるためですよ」


 ペロリと舌なめずりをしながら彼女は楽しそうに微笑む。


「私を、食べる?」

「ええ、ええそうです。水無瀬の家直々に言われたのです。この学園に潜伏し、時が来たら貴女を食べて構わない――と。ふふふ、でも、私ったらこらえ性が無くって、我慢できずについついつまみ食いをしてしまったんです」


 彼女の視線の先には被害者の少女たち。物言わぬ、人形のように成り果てた彼女たちはこの異様な状況であっても微動だにすることがない。


「二人目を食べたあたりで、隠蔽が甘かったのでしょうね。この先生に見つかってしまいまして。――食べカスのコレと、私の力を分けてあげる代わりに協力していただく事にしたんです」

「本当に彼女には感謝しているよ。おかげで僕のやりたかった事をやれているわけだからね」


 本当に嬉しそうに朝比奈先生が笑う。


「一体何が楽しいというの?こんなの、ただの人形遊びじゃない!」


 思わず私は叫んでしまっていた。だってどう考えても頭がおかしい。物言わぬようになった彼女らをただのおもちゃのように遊んでいるだけだ。これが芸術だと先生はいうのだ。行ったどこの世界のそんな芸術があるのだろうか?


「ああ、とっても楽しいね!どんなに触れても僕の命令のままに動く人形だ!こんなことができるだなんて夢のようだよ。いくら僕の想像通りお無茶な命令で飾り立てても文句ひとつ言わないのだからねぇ!」


 ケラケラとケタケタと笑う目の前の男が少女が自分の知っている二人だと頭が理解を拒む。

 ああ、この二人は狂っている。考え方が人の常識を逸脱してしまっているのだ。


 ――人でなし。そう、目の前にいるこの二人は正しく化け物にしか見えなかった。


「その通りです、真理様。彼らは最早人ではありません。その言葉の通り、人の皮をかぶった化け物です。ですよね?あなた達――もう中身は全て食べてしまっているのでしょう?」


 凛とした沙夜の言葉に二人が笑いながら答える。


「ええ――とっくの昔に。ふふふ、この子ったらずっと泣き叫びながら先輩の名前を呼ぶんですよ?だからゆーっくりと時間をかけて食べてあげたわ。ええ、数か月かけてゆっくりと……ね?」

「うーん、僕の場合は一つになってしまったからねぇ。ふふ、男と言うモノは業が深い。自分の生徒を好き勝手にできると言ったらその身を差し出して来たのだから」


 理解がまったくもって追いついてこない。私の知る春は間違いなくいて。この目の前の化け物に体ごと喰われたというのだ。そんなひどい事、どうして――!


「さっきも言ったでしょう?水無瀬の家に言われたの。時が来たら貴女を食べていいって。ふふふ、彼らは私がこんな事をするって分かってて送り込んだの。だから――この子が私に喰われたのも、あの子たちが私に食べられてこの人に壊されたのも、全部、ぜーんぶ貴女が悪いのよ?水無瀬――真理先輩♪」


 足がガクガクと震え、目の前が涙で霞む。瑠莉奈さんが、真綾さんが、春さんが、他の子たちがこんな目にあったのは全て、私の――


「聞く耳を持つ必要はありません。ええ、真理様は全く関係がない事なのですから。確かに水無瀬の家に彼らは送り込まれてきたのでしょう。ですが、例えそれが真理様が起因することであったとしても、彼ら自身がやった罪を擦り付けられる理由にはならないのですから」

「あら、つまらないわね。それじゃあ先輩に全く罪がないと?」

「ありません。どこをどう考えればそこに至るのか皆目見当もつきません。貴女はただ、目の前の障害でしかありません。ですので――ここで果てていただきます」


 キラリ刃を煌めかせ、沙夜が消えたと思った瞬間に朝比奈先生から生えた触手にその刃が阻まれた。幾重もの火花が散り、沙夜と先生が剣線を散らす。


「あらあらせっかちな人は嫌われますよ?ふふ、まぁ私も辛抱ができなくなってきましたし――待ちに待たされたお御馳走を頂くとしましょう」


 ペロリと舌なめずりをした春の姿をした化け物がゆっくりとこちらへと近づいてくる。

 ぐずり、と薄明りから影が這い上がりまるで触手のように私へと襲い掛かる。そう――この部屋は既にあの化け物の腹の中だったという訳だ。慌てて走って逃げようとする。けれど――うん、これどう足掻いても無理じゃあないかなぁ!


「っ!させません!」


 沙夜の投げたクナイについたお札が地面の影へと突き刺さるとそこから巻き上がるように暴風が吹き荒れ、思わず私は眼を瞑る。と、誰かに抱きかかえられ、唐突な浮遊感に襲われた。


「――沙夜?」


 思わず顔を上げると――月明りに沙夜の人形のような顔が照らされる。

 知っているはずの彼女のその肌は赤銅色に染まり――頭には禍々しくも美しい角が二つ、生えていた。


――鬼。


 そう。今の沙夜の姿は、寝物語に聞かされたお伽話の中で出てくる鬼そのものの姿だった。

今日も今日とて遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ

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