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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
番外の章:とある少女の前日譚
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16話:贈られたモノ

 放課後。フラフラと生徒会室に入る。


 中には――誰もいない。


 春は今日、体調不良で昼前に早退したのだと沙夜が言っていた。顔見知りの二人が行方不明になったのだ。体調が悪くなっても仕方ない。


「どうして、どうしてこんなことに……」


 私はその場に膝を抱えてうずくまる。ポロポロと溢れる涙は止めどなく、ただただ私の嗚咽だけが一人ぼっちの生徒会室に響いていた。


「そんなところで泣いていても何も解決しません」

「……入って来てすぐの一言がそれってちょっと辛辣過ぎないかな」


 鼻をすすって見下ろすとヤレヤレと言う顔の沙夜の姿が見えた。


「確かに狙われていたのは黒髪の少女なのでしょう。ですが――何か理由があって真綾さまが代わりに襲われたとは考えられませんか?」

「理由って何よ」

「普段急いで帰る場合、あの階段を通るのがベストの選択です。恐らく――いつも通りであれば、時間もかからないと言って夕刻のあの階段を見て帰ろうとも言っていたでしょう。ですが昨日は偶然、車ではなく電車で帰るためにあの階段に立ち寄ることはありませんでしたが」

「待って、それってつまり私が狙われたっていうこと?」


 コクリと私を見下ろす沙夜が頷く。そんな訳ないじゃない。だって私は普通の女の子で……うん、確かに家は裕福で、神様とも契約していたり、最近は巫術とか覚えて……あれ?普通……普通?


「真理様の普通の定義が揺らいだところですが、問題はそこではありません。真理様は核心に迫っていたのでしょう。だから、確実にあの時間調べに来ると犯人は考えていたはずです。なのに現れたのは――」

「真綾さんだった」


 だから代わりに襲われてしまった。金髪であっても関係なく、そこに来たという事実だけで襲われた。


「私が、探偵ごっこなんてことをしたから……こんな、ことに……」

「……いずれは他の誰かが襲われていた事です。真理様が気に病むことではありません」

「でも!」


 語気を荒げるも、沙夜の瞳は揺らぐことはない。


「真理様。最早一刻の猶予もありません。今夜も又、あの階段を通る誰かは確実に襲われるでしょう」

「だけど、流石にこんなこと何回も起きたらもう通る人なんていないんじゃないの?」

「います。人というモノは不思議なもので、どんなに危険なことでも非現実的な事ほど自分だけは大丈夫だと思ってしまいます」


 肝試しもそうだと沙夜は言う。摩訶不思議で現実には絶対にありえないから、どれだけ自分がすごい人間なのかを示すためにどんな無茶なことでもやらかしてしまう。うん、たまにニュースとかでも流れててるしね!


「だから、確実にいずれ誰かが過ちを犯します」

「その前に私たちで何とかするっていうの?うん、無理無茶じゃないかしら?」


 と言うよりもそもそものメリットがない。どう考えても私個人でできる範囲を超えてる。というか、犯人がいる時点で警察に訴えてしまえば終わりじゃあなかろうか?無理なのかな?証拠がない?デスヨネー。


「メリットが無くともこの事件は真理様が解決せねばなりません。恐らく――これは真理様に与えられた最初の試練なのですから」


 思わずぽかんと口を開けてしまう。これが、試練?海に取り残されたり空から落とされるでも戦地に行かされるでもなく?こんな怪奇現象が私の試練だというの?


「確証はありません。ですが、真人様曰く。基本的に()()()()自分に急に何かしら不幸な事が起きたならばそれは本家の誰かしらが何かしらの試練を仕掛けてきている時だ、と」


 つまり、この出来事全てが私の運を底上げさせるために起きたのだろうと沙夜は言うのだ。そんな、バカげている。だって何人も犠牲に、瑠莉奈さんだって、真綾さんまで……。


「そういうモノです。真理様、貴女が選ばれた道は血と怨念とおびただしい数死体の上でこそ成り立ちます。……真人様はいつも嘆かれていました。こんなバカげたことに巻き込まずに、ただひたすらに目の前の救える誰かを救えることができたなら、どれだけ幸せなのだろうか、と」


 それでも兄さんは巻き込んだ人たちを救おうと、助けようとしていたらしい。どんなに罵詈雑言で罵られようとも、助けてあげたのに逆恨みされたとしても。それでも、手を伸ばしていたのだと。その中の一人が沙夜なのだと。


「私は真人様を殺すよう命じられた一族でした。一族徒党、諸共に滅ぼすためにけしかけられたのです。意識の全てを術で消し去られ、殺戮の集団となった私たちは身の程知らずに真人様に襲い掛かったのです。けれども、真人様は私たちを殺すまでもなく生かしたままその暴走する力を祓ってしまいました。それでも襲い掛かった者たちはボロボロになるまでボコられていましたが」


 結局一族は皆、生き延びることができ――沙夜はその結果として兄さんに贈られたのだそうだ。


「嫁でも妾でもない使いつぶしの効く消耗品と思っても構わないから使ってくれと送り出されたのですが、結果として使用人として採用されて……衣食住完備で学校にも通わせてもらえるとか、どう考えても家にいた頃よりいい生活させてもらっているのですけれどね」


 本当なら恩を返すために来たのに、結果として恩をさらに積み重ねられたと沙夜は言う。


「結局、私は真人様に何もお返しできませんでした。だから――この命を賭してでも真理様をお守りいたします」


 グッと握りこぶしを作って、やる気マックス!と言う感じでいうけれども、表情はいつも通り硬い。……もしかして、沙夜って兄さんの事好きだったのかしら?と、聞きたい気持ちをグッと抑えて涙をぬぐって立ち上がる。うん、沙夜がこんなにも言ってくれるのだから、私が立ち止まったままじゃあいられないわよね!


 とはいうものの、手掛かりがあまりにもない。あの階段で立って待っていればいいのだろうか?鏡をのぞき続けていればそのうちに向こう側から襲い掛かって来るとか?


「それでは確実に真理様は捕まってしまい、他の被害者の方々の二の舞になるだけでしょうね」


 沙夜の言う通り、ただ襲われるだけではそれでおしまいだろう。うん、ただ襲われないってどうすればいいのかな?


「そう……ですね。ある程度のタイミングが分かればいいのですが……」

「タイミング、ね……」


 何か飛び出てくる合図でもあればいいのだけれど、そんな話聞いたことはない。ただ噂では振り向いた瞬間に襲われて引きずり込まれるのだそうだ。ううん、何か……そう、音でも聞こえれば……音?


「そういえば、昨日の大魔王なおじいさんが変な事言ってなかった?あれは……確か十九時の鐘がなった時に」


 そう、確かに言っていた。あの鐘の音を嫌な音でダメなモノだと。あの時はあまり気にしていなかったけれども、もしそれが何かしらの合図なのだとすれば……?


「音……催眠に音が使われることはよくあることです。もしかすると昨日お話になられていた集団催眠の原因の音とは、あの鐘の音なのかもしれませんね」

「けれど、十九時まで残っている生徒何てほとんどいないわよ?普段はお昼と十五時の時に絡繰りが……あれ、まさか、音が鳴っていないと思っていただけで……」


 実は鳴っていない音こそが催眠の音だとすれば辻褄はあう。うん、辻褄だけだけれども!


「音が鳴る時がもし、別の絡繰りが動いている証拠なのだとすれば……」

「学校の怪談の、あの階段の怪談はその仕組みによるもの……?」


 これもまた、状況証拠だけでしかない。証拠も何もないのだから、なのかもしれないの積み重ねで考える。だけど、あと少しでも情報が欲しいな!


 部屋の時計を見上げると十七時を回った辺り。


 調べて対策を練るにしても最早時間の猶予はない。


「やるだけの事はやりましょう。もし、被害者の方々を救えるのなら」

「うん、絶対に助ける」


 沙夜と手をグッと握り合い私は決意を新たに扉を開いたのだった。うん、なんだか行ける気がする!

今日も今日とておそ……早かったかn……( ˘ω˘)スヤァ

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