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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
番外の章:とある少女の前日譚
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15話:零れ落ちたモノ

「真理、この子は今日からあなたのお兄ちゃんよ」


 そう言ってお母さんが紹介してくれたのは小学校に上がったばかりに見える、目つきの悪い男の子だった。

 飛行機の事故に巻き込まれてご両親を亡くし、大勢の人が無くなった中で()()()たった一人生き残ったらしい。


 幼い頃の私は、そんなこともわからず新しいお兄ちゃんができたことを喜んでいた。だって、ずっと一人だったのだ。友達を作ることも許されず、外に出る事すら許してもらえなかった。だから、私は新しいお兄ちゃんにすぐになついた。思い切り、全力で、全身全霊で甘えていた。うん、今考えるとどれだけ甘えん坊だったのだろうかと思う。それでも兄さんは嫌がることなく私を受け入れてくれた。沢山遊んで、沢山いろんな話をしてくれて、沢山甘やかしてくれた。私はそんなお兄ちゃんが大好きだった。時には怒られることもあったけど、すぐに笑顔になって頭をなでなでしてくれた。


 けれども――お母さんが死んだと聞かされたあの日からお兄ちゃんと話す機会がめっきりと減ってしまった。遊んでほしくても、そばにいて欲しくても、お兄ちゃんはそこにいない。

 帰って来たと思えば傷だらけで、息も絶え絶えで。何をしているのかと、どうしてそんなことになっているのかと聞いてもはぐらかしてしまう。ちょっとチョモランマにとか、日本海溝泳いできたとか、北極より南極ヤバいとか笑っていて、全部冗談だと思っていた。――まさか、兄さんがいなくなった今になってその話が全部本当だったなんて理解できたのだ。うん、今考えても信じられない話だけど、全て事実なのだそうだ。


 この夢もきっと兄さんの夢――。


 炎の巻きあがる戦場の中を小さい兄さんは銃も持たずにナイフ一本で駆けまわる。放たれたマシンガンの銃弾をそのただのナイフで走りながら叩き切っり、その一発を弾いて銃を持った相手を打ち抜いていた。……化け物かな!?いやいや、流石にそんな馬鹿な事できるわけ、え、できるの!?できるんだー……。


 何度も、何度も死ぬ思いをしても、兄さんは我が家へと帰って来る。帰ってきて、必ず私の頭を撫でてくれた。

 私は――それだけで構わなかった。兄さんがそばに居てくれて、兄さんの旅の話を聞かせてくれるだけで、それだけで私は幸せだった。


 だけど、今になってわかる。そんな小さな願いですら私には――過ぎたモノだったのだ。






 爺やの運転する送りの車の中で私は今日もまた大きく、大きくため息を付く。


 兄さんの夢を見れて嬉しかったはずなのに、心が重く苦しい。

 うん、分かっている。私は兄さんのいる世界へ行く話を蹴ってしまったのを今になって後悔しているのだ。あんな夢を見てしまったせいで、余計に兄さんに逢いたい気持ちが強くなってしまった。まさかとは思うけれど、神様があんな夢を見せたのではなかろうかと疑いたくなる。うん、それほどまでにリアルだったし、まさかと思って読んだ兄さんの日記の内容とも合致し過ぎていた。……ふふ、まさかね!チガウヨネ?と虚空を見上げるもあの神様が答えてくれるはずもなく、私はハァと虚しくまたため息をついたのだった。


 沙夜と共に車を降りると、何だかいつもと様子がおかしい。先に来ているはずの春の姿もなく、生活指導の為に立っているはずの風紀の先生の姿も見えない。なにか不測の事態でもあったのだろうか?


「沙夜、学校から何か知らせは来ているかしら?」

「いえ、何も。ですが理由はアレのせいでしょう」


 アレ、と言われて見やると何台も止まったパトカーが見え、藍色の帽子をかぶった警官たちがせわしなく行きかいしている。


――まさか、と私は心が凍る思いで職員室へと走しりだす。


 息を切らしてガラリと開くと、白髪の教頭先生と目が合う。とても残念そうな、落ち込んだその目を見た瞬間に、誰かがまたいなくなったのだと分かった。


「ああ、水無瀬くん。ちょうどいいところに来てくれた。うん、少しだけ話を聞いてもいいかな?」

「話……ですか?」


 息を整え、首をかしげる。昨日は確かに遅くまで残っていた。もしかすると、その時に誰かがいなくなったのかもしれない。けれど一体いつ、誰が?長い黒髪の生徒なんて私を含めてこの学園には沢山いて――


「井頭くんが昨夜からご自宅に帰られていないそうだで、水無瀬君は何か知らないかな?」

「は――?」


 思わぬ言葉に私の思考が停止する。

 何で真綾さんが?だって、今まで被害にあっているのは長い黒髪の少女。真綾さんは蜂蜜を思わせる金髪だ。だから、狙われるはずが……。


「水無瀬君、何か知ってるのかい?」

「――いえ、何も。あの日は一九時前に生徒会室で別れて、そこから、真綾さんには逢って、ません」


 震える声で、私は答える。

 頭の中が真っ白で何も考えられない。昨日は普通に話していたのに。また明日、と言ったのに。何で、どうしてと言う事ばかりが頭に反響して、心配してくれる教頭先生の言葉が頭に入らない。


「やはり、今回も情報はなし……か」


 教頭先生は深いため息を付いて椅子に座る。

 これで五人目。その全員の手がかりが何も残されていないのだ。警察もそんな状況で探せる訳もなく、昼を過ぎた頃にはパトカーは一台もなくなってしまっていた。

今日は間に合いましs( ˘ω˘)スヤァ

誤字報告いつもありがとうございます。とーっても助かっておりますOTL

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