12話:怪しげなモノ
カリカリと書類をこなし、沙夜の入れたミルクティー紅茶を飲む。うん、やっぱりお砂糖たっぷりで正解だった。とっても甘々でウマウマである。
「……太りますよ?」
「大丈夫よ、その分のカロリーは今ちょうど使っているところだから」
割くりと胸に突き刺さる沙夜の一言をサラリと流して書類を済ませてしまう。それにしても余計な経費が多い気がする。特に文科系クラブの経費が大きい。わが校の学芸会は二年に一度。次は来年度の筈。だからこそ、この時期にこんなにも経費が膨らむのはおかしい。
「どうやら幾つもの学芸部が冬の大型コミックイベントの参加費用を部費として請求しているみたいですわね」
「……全部却下しておきましょう」
ため息と共に私も真綾もハンコを押さずに却下の箱に全部投げ入れてしまう。
確かに大人も参加する大型イベントに参加することは将来の何かに役に立つのかもしれない。けれど、それを学校の費用では出せない。うん、どう考えても趣味だしね!
「まぁ、年末年始にそんなイベントに行きたいと言っても親が許すわけが無いので、部活という体で行くつもりだったんでしょうね」
「それなら私費を出し合っていけばいいのよ……。この学校に通っているのだからかなり裕福な家庭でしょうに」
まぁ、そうなると同伴してくれる先生がいないから参加ができないのだろう。先生のお給料は他の学校よりは少し多い程度でしかないと聞いているし……。
「あ、あはは……。どうしてうちの学校にはこうもアクティブな人たちが多いんでしょう……」
「お金が有り余ってますからね。ゲームもマンガも小説も読み飽きて、自分で何かを生み出す方向にシフトしていったのでしょう。健全……そういう意味では健全、なのでしょうか?」
どうかなぁと春と真綾が首をかしげている。
ううん、健全と言うか振り切ってるだけと私は思うかなぁ……。
「それで、真綾。瑠莉奈の情報は何か入りましたか?」
「はぁ、真理。確かに私の父は警察で警視をやっています。けれど、そうおいそれと情報を言ってはくれませんわ」
「でも聞いているのでしょう?」
まぁ、それは……と言ってチラリと沙夜の方を見る。
「昨日も聞いていたでしょうに。沙夜の事は気にしなくていいわ。そうね……空気とでも思えばい「真理様、後ほど少しお話がございます」うん、沙夜も事件解決に協力してくれるって言うから!是非に話してあげて欲しいかなぁ!」
無表情の沙夜からジトと言う名の圧がすごい。うん、あれ絶対に怒ってるよ?……怒ってるよね?ふふ、怒ってない?絶対にウソうだぁ!
「……情報はありませんわ。警察は完全に捜査を打ち切っているみたいですわね」
「他の子たちもそうだったみたいだけれど、流石に打ち切るのは早すぎるんじゃないの?」
この学校ではすでに瑠莉奈を含めて四人も行方不明になっているのだ。なのに、何で――。
「圧力がかかっているとお父様は仰られていましたわ。このことが表面化すると、学園自体の存続も危ぶまれる、とも」
苦虫を噛み潰したような顔で真綾が大きく息を吐く。どうやら真綾自身も納得ができていないらしい。
「春、何か情報はあったりしない?」
「そうですね……ネットでは少しだけこの行方不明に関して話題になっていましたが、火の粉を消すようにいつの間にか誰も話さなくなっていました。クラスの皆さんも今日になって誰もその話題を話されていませんでした」
確かに私のクラスでも瑠莉奈が行方不明なった、と言う話題をしている子はもう誰もいなかった。迫りくる期末テストと冬休みにどう過ごすかの話題で持ち切りになってしまっていたのだ。私たちの本文は学業。間違ってはいないのだけれど、学友が行方不明なっているというのにどうしてここまで簡単に皆割り切れるのだろうか?
「恐らく――人の認識に対して何らかの作用をもたらしている何かがあるのでしょう。その仕組みが何かはわかりませんが、真理様にはそう言ったモノは効果がありませんので今まで気づけなかったのでしょう」
「何だかすっごく鈍感な人と言われてる気がして傷つくのだけれど、うん、認識に作用って……みんな何かしらの暗示でもかけられてるとでもいうの?」
「可能性としてですね。そうでなければ説明できません」
確かにそうだ。けれど、そんなことがありえるのだろうか?数千人規模の学園の全員の皆に催眠をかけるだなんて――。
「恐らくは暗示と言っても単純なものなのでしょう。皆、学業と己のなすべきことに専念なさい。これだけで十二分に今回の効果を得ることができます」
「何だか非科学的な事を話されていますけれども、そんなことあり得るんですの?」
信じられないと言った目で真綾が沙夜を見る。まぁうん、信じられないのも無理はない。どこにもそんな確証は無いし、ほとんどは沙夜のあてずっぽうだ。けれど……何の意味もなく沙夜がこんな事を云うだろうか?
「沙夜、その話って何か根拠があるの?」
「詳しくは知りません。ですが、以前真人様がそうおっしゃられていました。この学校は学生みんなの集中力を上げるための暗示みたいなシステムがあるらしい、と」
「何それ怖い」
どうやら兄さんはその仕組みについて何かしら知っていたらしい。が、その兄さんはもういない。ならば、調べるしかない。うん、どこをどう調べればいいかわからないけれど!
「もっとも、調べたところで今回の事件の解決につながるかはわかりませんが」
「……関係はあると思うの。もし、今回の一件を隠そうとしているのが学園側なのだとすれば、四人が行方不明になった原因もその仕掛けが原因だったりする……とか」
「しかし、真理様。そうなると……」
そうなると先生が犯人と言う前提が崩れてしまう。
うん、そうかもしれない。確かに先生は怪しい。状況証拠的には真っ黒だ。だけど――もしかするとその何かしらの仕掛けが瑠莉奈たちが行方不明になった原因ではないかと思えてならないのだ。
「……真理さん。もしかして何かご存じですの?」
真綾がジィと私を睨むように見ている。この目は何か知っているなら包み隠さず話しなさいな!という目だ。だけど、言ったところで信じてもらえる可能性は微々たるものだろう。それ以前に、言う事のリスクの方が怖い。だって、真綾って何でもこうだと思ったら一直線なんだもの!
「私も少し調べたけれど、七不思議のあの階段が何か関連しているんじゃないか……という関連の話がいくつかあったというくらいしか私にも分かっていないの」
「そう、やっぱり真理さんもそうなの……」
悔しそうな顔で真綾は顔を伏せ、ふぅとため息を付く。どうやら彼女も瑠莉奈について調べているらしい。本当に、ツンデレさんなんだから。
「と、もうこんな時間ですね。そろそろ今日は解散としましょう」
学年末に向けて溜まっていた書類も粗方片付いてしまったしね。
「真理様、申し訳ございません。悲しいお知らせでございます」
「え、何怖い。もったいぶらずに言ってくれるかしら?」
「はい、先ほど前山様がからご連絡があり、旦那様から急なお呼び出しのため本日の送迎に向かえなくなったとのことです」
「うぇぇ……」
つまり、片道車で二十分ほどの道のりを、公共交通機関を使って帰らなければならないと言う事だ。うん、流石に徒歩は無理だし?
「パスカードは私が預かっておりますのでご安心ください」
「うん、ありがとね沙夜」
流石できるメイドは違う。うん、だけど何でこんなタイミングで呼び出すかなぁ、お父様は!
私はガックリと肩を落とし、生徒会の皆に別れを連れて家路を急ぐのだった。
今日も今日とて遅くなりま( ˘ω˘)スヤァ
誤字報告ありがとうございます。本当に助かっていますOTL