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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
番外の章:とある少女の前日譚
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8話:取り戻せないモノ

 星空の広がる暗がりの中車を降りると――玄関の前に今から出かけようとするお父様の姿があった。


「ただいま戻りました。お父様、これからお出かけですか?」

「お前に言う必要があるのか?」


 いつも通り、会話すら拒絶する一言。けれど、この人とは少しでも話をしておかなければならない。


「……何故、兄さんの部屋を片付けてしまったのですか?まだ、兄さんは――」

「死んでいる。それは頭首となったお前が一番知っているだろう?」

「っ!それなら!」


 何故、葬儀の一つすら上げようとしないのか、と言いかけて言葉に詰まる。

 まるで、興味のなさそうな目でフンと鼻を鳴らしたのだ。


 例え義理とはいえ、息子が死んだのに。この人は何でここまで……!


「お前も役目を果たせ。それが水無瀬の為に、強いてはこの国の為となる」

「役目って、私にも死ぬ目に逢えと言う事ですか?」

「そうだ」

「死んでもいいのですか?」

「代わりならいくらでもいる」


――ああ、そうか。この人にとって、私も――水無瀬を繁栄させるためのただの道具にすぎないのだ。

 震える手を握りしめ、深く、息を吸い、心を落ち着かせる。そう、いつもの事だ。だから、落ち着け、私。


「もう用事は無いな。これから大事な会合があるのだ」

「……ありません、お引止めして申し訳ありませんでした」


 胸の奥に湧き上がる衝動をグッと抑え込みながら私は父に首を垂れる。


「……くく、お前がアレの代わりになってくれてとても助かったぞ。アレは色々と……注文が多かったからなぁ」

「っ!」


 そう言って、父は向かえの車に乗り込み、どこかへと去って行った。


……何も、言い返すことができなかった。

 今まで父に逆らった事は無かった。それが正しいと、間違いじゃないと教えて来られたから。だから、何れお前が頭首になるという言葉を真に受けていた。そうなれば、兄さんも激務から解放され、私と、家族で過ごせる時間も増えると、そう思っていたのだ。


 けれど、現実はどうだ。


 父は、兄さんが邪魔でならなかったのだ。だから、私に頭首を替えたかった。私のあの妄言を渡りに船とばかりに聞き入れ、兄さんと私を地獄へ叩き落したのだ。


「真理様……」

「ごめんね、私がもっと強かったらいいのに」


 強ければ、もっとあの父にも反論ができた。

 せめて位牌だけでも作って欲しいと。そう言えたのだ。


「真人様は真理様にそう思っていただけるだけでお喜びになられると思います」

「そう、かな……。そうだったらいいな」


 大きくため息を付いて、夜空を見上げる。


――空には白い月。


 溢れそうになる涙をこらえ、私はまた深く白い息を吐いたのだった。






 水無瀬家の風呂は広く、大きい。


 お風呂好きだった母の数少ない我がままで作られたのだと、兄さんが言っていた。うん、本当にありがとうお母様。私もお風呂、大好きです。

 ブクブクと湯船に浸かりながら今日の疲れと鬱憤を吐き出していく。


 瑠莉奈は優しく、おおらかで、着物似合う綺麗な子……だった。

 だから、同じ生徒会に入ってくれた時も、友達になれた時もすごく嬉しかった。そんな彼女が行方不明なのだという。本当なら、何もかも投げ捨ててでも探したい。けれど……。


「妖怪、七不思議……」


 それが現実のモノと理解してまだたった二日目。

 それに対抗する手段も方法も、私は知らない。携帯で軽く調べてみたけれど、そのほとんどは事後……或いは事前対策の話。事が起きて、どうすればいいかだなんてどこにも書いていなかった。……まぁ、それ以前に大体デマですねと沙夜に言われて肩を落としたのであるが。


「助け……られないのかな……」


 ぷくぷくと泡を立ててまた息を吐く。


 巫術……沙夜が教えてくれると言っていた、兄さんの学んでいた身を守る手段。

 それを覚える事ができたなら……?と、そこまで考えて私は頭を振る。そんなに都合のいい手段がある筈もない。あったとして、たった数日で使いこなせる訳もない。


 プカプカと浮かぶ水の玉をぼんやりと眺めて、私は――あれ?


「失礼いたします」

「え、沙夜!?」


 がらりと扉が開き、入って来たのは素っ裸の沙夜だった。前はきちんとタオルで隠しているけれど、その見事にたわわなものはあらわになっている。え、な、なに?どうしたの急に?


「いえ、お背中をお流ししようと思いまして」

「流石に入る前に流しちゃったかな……」

「それではもう一度」

「何故に!?」


 まぁまぁと促されるままに洗い場へ連れて来られ、アワアワとスポンジで背中を再び洗われる。


「ふむ、やはり……思った以上に水の精霊に好かれてしまっていますね」

「何でそんなことが分かるの?」

「ええ、真理様に少し妖気を当てているのですが「何してるの!?」周りを見てください」


 沙夜に言われるがままに周りを見ると……水の玉がザワザワと揺らめきながら幾つも宙に浮かんでいた。やっぱり、さっきのは見間違いなんかじゃ無かったようだ。うん、水が浮かぶだなんて不可思議現象が実際に起きているだなんてなんとなく信じがたかったのよね。


「本当にこんなことが起きるだなんて……」

「まだこれからです。今ようやく、真理様が精霊というモノがいると受け入れられたところなのですから」


 と言って、ざぱりと湯をかけられる。うん、流す前にひとこと言って欲しかったのだけど。


「失礼いたしました」

「……もしかして、さっきお顔ぷにぷにしたこと怒ってるの?」

「ふふふ、どうでしょうね?」


 沙耶はいたずらっ子のように少しだけ口角を上げる。この子絶対に怒ってる……!


「そういう訳でレッスンワンです。まずは――水の精霊の繰り方を学びましょう」

「本当に怒ってない?」

「怒ってないことにしてあげますので、集中してくださいね?」

「……はい」


 どうやらやっぱり怒っていたらしい。ううん、まだまだ表情が読み切れないなぁ。まぁ、そういう所も沙夜の可愛いところだと思えてしまうのだけれど。

今日も今日とておそ……はや……( ˘ω˘)スヤァ

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