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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
番外の章:とある少女の前日譚
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2話:継がれしモノ

 あれだけの怪我をして入院をして、一夜にして全快したと言うのに病院は何を言うでも無くそのまま退院の許可を出してくれた。沙夜曰く、入院してたこの病院は水無瀬家の息がかかった病院なので、そう言う事も無視してくれるとの事だった。


 ……今更ながら、私は何も知らなかったのだと迎えの車で病院を後にしながら痛感させられてしまう。


「マスコミ各社への対応は既に頭首代行が記者会見を行われております。真理様は偶然にも怪我も凍傷もなく無事保護され、真人様は――未だ行方不明ではありますが……多量の血痕を残しているため、失踪として処理を行い、死亡扱いとするとのことです」

「そんな、まだ見つかってもいないのに!」

「ええ、ですが――もうこの世におられないことは確定事項のようですので……」


 隣に座る沙夜の表情はいつもにも増して硬い。


 この子は兄さんが旅先でスカウトして来た子で、身寄りがどこにも無くて困っていたところを兄さんが住み込みで働くようにと勧めたのだそうだ。

 孤児院で過ごすこともできたのだけど、その方が沙夜の為だと言って。まぁ、確かに水無瀬家の使用人だなんて、普通のサラリーマンでも目がくらむ程度はお給金がもらえるのだし、一生喰いっぱぐれることもない。だから、その時は特に不審に思わなかった。


 けれど……今は違う。私を治したあの不思議なお札。そして、兄さんが残したこの手紙。沙夜は恐らく普通とは違う女の子なのだ。うん、どこが違うのかは見た目からは全然わからないのだけど、何か違うのだろう。


「……私の顔をそんなに見つめられても困るのですが」

「あ、い、いえ、違うの。ただ――兄さんのメイドだったとはいえ、沙夜がそう言ったことにそう言ったことに詳しいのかが気になって」

「私は陰陽を取り扱う家系の出身でしたから当然です」


 沙夜はこちらを見ることなく淡々と話し続ける。


「真人様は暴走し、一族諸共に滅ぶしかなかった私を救ってくださったのです。ええ、文字通り命の一部を分けていただいて」


 だからこそ、命を賭して兄さまに使えるのだと沙夜は言う。……ん?つ、つまり兄さんと沙夜はメイドと主の仲を越えた仲だった……?


「漫画やアニメ、ドラマの見過ぎですね」

「そうじゃないの!?だってそういう場合って、俺の命令には絶対服従だ……!とか、愛人として囲ってやる……とか、こう、エロンエロンな感じになるんじゃあないの!?」

「なんですか、エロンエロンて。……そもそも、真人様がそんな甲斐性があるとお思いですか?」


 沙夜が心なしか遠い目をしている。ああ、うん。兄さんってお茶目で明るい性格だけど、そう言う事にはかなり奥手だったって聞くしね……。


「本当にそうであれば……いえ、失言でした。忘れてください」


 そう言って沙夜はふいと窓の外へ視線を外す。なるほどなー。兄さんは手を出さなかったけれど、沙夜自身はして欲しかったと。なるほどなー!


「そう言った事はありません」

「本当に?」

「……そうですね、そうしてくれれば私がどれだけ救われたかと思わなくも無いです。私の中に彼の一部が宿ればと願わない日はありませんでした。ですが、そう言った事は真人様はお望みになられませんでした。――私には何れ自分より何倍も素敵な人が現れるからと、いつもそう言って」


 そう言って、ギュウと白いエプロンを強く握る。沙夜、兄さんの事をそこまで――


「寝込みを襲っていればと今更ながらに思います。ええ、後悔してもしきれませんね」

「想い過ぎじゃあないかな!流石に私、それってどうかと思うなぁ!」


 ふふふと笑う沙夜は冗談ですよと言う。うん、さっきの目はどう見ても本気の目だったと思うんだけどなぁ……。


「真人様は極力、自分とつながりのある人を作ろうとはしませんでした。私がお傍に置いていただけたのは、そうした方が私を守ることができるからというのと、身内に引き入れれば手出しをすることも無いだろうと踏んでいたからです。私の利用価値を示したことで私におきる害を防いでいただけていたんです。ですが、ご友人や恋人となれば話は変わってきます。水無瀬家ならば間違いなく――その友人を使い、真人様へ試練をお与えになるでしょう」

「……試練?」

「はい。水無瀬家の為の試練です。詳しいお話は――後ほど。目的地へ到着いたしました」


 沙夜に促されるままに降ろされると、そこは――水無瀬家が懇意にしている神社だった。


――海無(かいな)神社。


 山深くに立てられたこの神社には水無瀬家の氏神が祀られているのだ、と今まで私は聞かされていた。


「まぁ、水無瀬なのに何で海無なんて名前の神社があるのか不思議ではあったのだけど……」

「名で封じているんです。海も川も無いこの山で、水無瀬に名を連ねる者が祀る事で」


 巫女さんに導かれるままに境内へ入り、沙夜と共に奥へ奥へと進んでいく。


「水無瀬の頭首はこの神社の祀る神の巫子とならなければなりません。真人様も、真理様のお母様――真名様も巫子の役目を果たされて来ました」

「……つまり、水無瀬家の頭首と言う名目はその巫子の役目を果たす人に与えられるものなのね」

「はい、ですので水無瀬の財閥のトップでありながら、経営に関して頭首の皆さまは口出しすることができない決まりになっております」


 そしてその口出しをするのが頭首代行――つまりお父様の役目という訳だ。家には滅多に帰って来ることも無く、顔を合わせたのは今年も数えるほど。……結局、退院してもお見舞いにすら来てくれなかった。


「……それで、巫子って何をすればいいの?その、自慢じゃ無いけれど神社の事に関しては私は何も知らないわよ?沙夜みたいにお札でえい!ってのもできないしって、寒い!寒いわよこれ!?」


 服を脱がされ、冷たい水で軽く水行をさせられる。穢れを持ち込まないためだとさせられたけれど、冬場にやる事じゃないと思うの!


「問題ありません。真理様はただお話をすればいいのです」

「お話って……誰と?」

「はい、神とです」


 神様?と私は首をかしげる。摩訶不思議な現象やらお札やらがあると、ようやっと頭が認めてくれ始めたところで神様とお話をしてくれと、沙夜はいうのだ。うん、そ、そんな特殊能力、私には無いと思うのだけど!


「能力も無くて構いません。ええ、お逢いすればすべて判るでしょうし」

「うん、意味わかんない……」


 紅白の巫女服に着替えさせられた私が案内されたのは、険しい山道の先、鍵の掛けられていた小さな祠の中の――洞窟だった。


「ここより先は私共は入ることを許されておりません。中へ入り神へ新たな巫子となった旨ご報告をして来てください。それが頭首となる洗礼となります」

「なんだか適当ね……。ほ、報告してくればいいのね」


 そう言って洞窟の多くの方を見やる。……奥は真っ暗で明かりも無く、冷たい空気が中から吹き出し出ていた。えと、一人じゃないと駄目?


「はい、駄目です。頑張って来てください」

「つ、ついて来てくれないの?お願いしても、ダメ?」

「ダメですね。はい、ファイトですよー」

「く、応援が適当……!もう、分かったわよ。い、行ってくればいいんでしょう?」


 まだ冷たい体を両手でさすりながら、私はその暗がりに足を踏み入れたのだった。だ、大丈夫!ち、ちっとも怖く無いんだから!


 ……チラリと振り返ると笑顔で手を振る沙夜の姿が見えた。


 ううう……。はい、行ってきますぅ……。

今日も今日とて遅くなりなりm( ˘ω˘)スヤァ

2019/12/10 継がれし役目より継がれしモノに変更しました。

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