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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
番外の章:とある少女の前日譚
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1話:失ったモノ

 ――音。



――心音を示す規則正しいアラートが聞こえる。



――消毒された清潔なシーツの匂い。



「……びょう……いん……?」


 声を出そうとしたが、かすれたような声しか出なかった。

 体を動かそうにも、体中が痛い。一体、何、が……?


「おはようございます、真理様」

「さ……や?」

「はい、沙夜にございます」


 重い瞼を上げると、自分の頭に巻かれた包帯で半分隠れて――見慣れた兄さんのメイドの沙夜の顔が見えた。


「さ……や、わ……たし……」

「本日より三日前、真理様と真人様はヘリコプターをチャーターし、剣岳山頂へ遊覧飛行へ向かわれる最中、運悪く扉が開きお二人は上空から落下。その後行方不明となっておられました」


 そう、そうよ。私はあのヘリコプターから落ちた。けれど、違う。違う、違ったはず。アレは()()()()()()。気が付いたら私は兄さんとヘリの上にいて。抵抗することもできず突き落とされて――。


「――ええ、()()()()()()()()()()()。ですが、これが真人様の今までの日常。そして、これからの真理様の日常でございます」


 そんな、バカなことが――と、言葉を紡ごうとしても、うまく言葉が出せない。ただ、ただ、体が重く、眠い。私、どうなって――


「大丈夫です。真理様のお怪我はそう大したことはございません。ただの全身打撲に、全身に骨折がいくつかありましたが――。ええ、意識が戻られたと言う事は、明日には全快されるでしょう」


 沙夜はそういうけれど、いえ、そんな訳ないじゃないと言葉を紡ごうにも、頭が重くてものすごく、眠い。ずっと寝ていた、はず、なのに……。


「説明は次に目覚めた時にでも。今はまだ――お眠りください。真人様の分まで、ゆっくりと」


 何を言っているの、と言葉を出す間もなく、私の意識は再び闇に落ちる。



 昏く、深く、深い闇の中に。












――おさないころのゆめをみる。



 あの頃の私はお兄ちゃんにベッタリで。



 どこ行く時も一緒で。



 何をするにも一緒で。



 一緒にいないと気が済まなかった。



 ああ、今でもそうだ。



 私は、兄さんのそばに居たい。



 兄さんともっと、もっと、もっと――



――ふと、兄さんの影が見えた。



 けれど、手を伸ばしても、伸ばしても届く事は無い。



 むしろ離れて、霞のように消えて行ってしまう。



 だめ、ダメ、駄目!



 兄さん、お兄ちゃん!そっちに行かないで!



 いい子にするから!わがままも言わないから!兄さんの代わりに私が、私が――



「その結果がこれだ」



 美しくも荘厳で、澄んだ声が聞こえた。



 目の前に広がるのは――赤く染まる兄さんの姿。



 それは、間違いなく最後に私の見た兄さんの――








「――っ!」


 ガバリと、私は体を起こす。


 息は荒く、背中に流れる汗が冷たい。間違いない、ここは病院。一度目が覚めた場所と変わっていない、筈。……って、あれ?体が動く?痛みも無い……?


「改めておはようございます、真理様。いい夢は見られましたか?」

「……今の様子を見て、そう思えるのかしら?」

「いえ、失礼いたしました」


 クスリと、沙夜はいつものように人形のように美しい顔を崩さず笑う。これでいて私と同い年なのだから、本当にズルイ。


「お体の加減は如何でしょうか?」

「ええ、痛みもだるさも無いわ。……いやいや、なんでこんなに快調なのかしら。私、朝は低血圧で眠気が取れないはずなのだけれど。それ以前に、私ものすごい酷い状態じゃなかったかしら?」

「治癒の呪符を使わせていただきました。もう隠す必要も――いえ、隠せば真理様の命取りになりかねませんので、正直にお話いたします」


 治癒の呪符?と私は首をかしげる。そんなオカルティックなもので傷やだるさがなくなるのだろうか?うん、いや、実際に痛みもないくらいに全快しているのだからそうなのだろうけど……。いや、それよりも聞かなければいけないことが今は、ある。


「……沙夜。なんで貴女――兄さんの所にいないの?貴女は兄さん付きのメイドの筈でしょう?」

「これは真人様のご命令ですので」


 硬い表情のまま、沙夜は言う。


「兄さんの……?」

「はい、もし――真人様にもしもの事があった場合、真理様にお仕えするようにと」


 もしもの事と言う沙夜の言葉に、私は顔から血の気が引いていくのを感じた。


 今、ここに沙夜がいると言う事は、つまり――


「真人様は、もう――この世には、おられません」


 感情の希薄な沙夜の声がわずかに震える。恐らく、彼女もその事を信じたく、信じたくないのだろう。


「本当に?ねぇ、兄さんは本当にいないの?い、いつものようにおどけて、ほら、か、カーテンの隙間から脅かしてくれたり……」

「しません。真人様は、もうおられないのです」

「兄さん、兄さん、いないの?いないんですか?わた、私が、私のせいなの?わたしが、私が、頭首になるべきだとお父様に言ったせいで?そんな、そんなことで?兄さんの負担が無くなればと、ただ、そう、思っただけ……なのに……」


 涙が、はらはらと溢れる。


 頭の中で夢の中で聞いた声が反響する。



――その結果がこれだ、と。



 ああ、ちがう。違う!私はこんな事を臨んではいなかった!私は!


「ああ、ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 髪の毛を掻き毟り、あらん限りの声を上げる。

 上げても、上げても、兄さんの慰める声は聞こえない。抱きしめるぬくもりもない。


 すべて、すべて私が、消してしまった。私が、私が――!


「消え去ったものはもう、戻りません。真人様からお預かりしたお手紙です。これは――そのもしもの時が来たらお渡しするようにと言われていたものです」


 赤くはれた目を拭い、兄さんの手紙の封を切る。


 いつもの兄さんの――明るく楽しげな言葉が踊り、また涙がこみ上げる。


――俺の残せるものは何もない。きっと残しても全て壊されて捨てられる。だから、真理に沙夜を託す。きっと、彼女なら真理に俺の想いを引き継いでくれるから。


 最後書かれたその文言を見て沙夜を見上げる。


「私は真人様より、真理様の生き抜く術を教えられております。無限流――真人様の学ばれた技を今からすぐすぐに覚える事は真理様には不可能でしょう。ですので、まずは巫術からお教えいたします。尤も、その前に真理様は明日にもお逢いしなければならない方がおられます」

「誰に、逢うの?お父様?」

「いえ、違います。真理様は水無瀬家の神に逢わなければならないのです」


 神様……?と私は言葉を反芻する。


「はい、真理様が水無瀬家の頭首となる洗礼となります」


 私は、本当に何も知らなかった。何も知らなくて、知らないからこそ愚かな選択をしてしまった。

 だから、その神様に逢って全てを知らなければならない。それが、私の兄さんへの償いなのだから。


 兄さんの手紙をギュッと胸にあて、私は未知に震える体を抑え込んだのだった。

妹ちゃん可愛い!を目指して!頑張りまぁ( ˘ω˘)スヤァ

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