40話:お弁当に入れる梅干しの抗菌作用はその周りだけらしいけど美味しいから変わらずそのまま入れてて欲しいよね?
俺の元居た故郷では都は古来から風水によりその場所を決められてきた。
つまるところ、都自体が呪術的結界の役目を持っていたりするわけだ。そう、この修羅の国の都もその考えを組んでいるようで、うっすらとではあるけれど魔よけの結界が張られていたのだ。うん、みんなあんまり気付いてなさそうだけどね!
「土嚢の配置は七割完了。現在は外縁に沿って堀を作っているところやな」
「ううん、流石早い!」
修羅の国の兵士の皆の作業を眺めつつ俺は嘆息する。うちだとまだここまで訓練できてないからなぁ……。
「そら、年季が違うんよ、年季が。……それで、アレは止められそうなん?」
心配そうな緋乃女さんに向けて俺は肩を竦めて見せる。うん、俺だけの力で何とかできれば御の字って感じなんだよね!何とかすると言った手前、何とかするしかないんだけど!
ぶつかり合う巨躯と巨躯の姿が森の奥に見える。タールのような汚泥の進行は、巨大羅刹さんが巨大朱纏を食い止めてくれているお陰か先ほどよりは緩やかになったように……思えなくもない。気持ち遅くなったかな?って感じかな!
「完全には止まっていないみたいやなぁ……」
「それもまぁ、想定のうちかな?ここに来る前に堀を幾つか作って来たから準備ができるまでに少しは時間が稼げればいいんだけど」
「ん、準備……?」
緋乃女さんが首をかしげる。うん?説明してなかったっけな?
「なんだ!?何かが大量にやってくるぞ!」
兵たちがざわめき、緊張感が辺りに広がる。
ガサリ、ガサリと森の茂みが揺らめき現れたのは――そう、何人もの俺だった!手には沢山の材木を持っている。
「は?んんん?」
訳の分からないという兵や緋乃女さんをはた目にトンテンカンと頭の中の図面通りに切って来た木材を組んでいく。
――それは舞を舞う舞台、神楽殿であった。うん、この辺りに神社はないって話だし無いなら作るしかないから作っちゃったんだよ!
「ん、んな無茶苦茶な……」
「無茶苦茶でも破茶滅茶でも、確率を上げれるのならやるべきかなって?」
物のついでにとこのあたりの魔物を借り尽くしてかき集めた魔石をできたばかりの舞台の奥前に置いて、篝火を灯していく。
「さて――こっちの準備は整ったけれど、えーテステス、そっちはどうかな?」
こっそりとサクラちゃんにプレゼントしてもらっていた魔導フォン付属のコードレスイヤフォンを片耳につけてみる。うん、繋がってるかな?
『はい、問題ありません。まーくんの指定した位置に到着してます』
『でも、何でこんなところに剣なんてもってこないといけないんです?』
サクラちゃんと一緒にいるナナちゃんが疑問の声をあげる。
「五行の金の役割だからね。俺とつながりのある金なんて今の所鼓草しかなかったから仕方ないんだよ。うん、大事に扱ってあげてね?」
『こちらも準備はできているよー!』
元気な声を聞かせてくれてるのはビオラちゃんイン捌乃である。いうなればデュミナスアクア捌乃ノ式・水劔!うん、又いつの間に変わったのかな?
『なんでも、アレはもう朱纏でも何でもないからってみんな引っ込んじゃったから、代わりに私が。ふふふ、最後の私はすんごいぞー!』
正真正銘の「草薙の剣」を放てる彼女が本当の全力を出せばこの辺りの地形が変わるだろう。まぁ、ビオラちゃんに憑依してる状態だし、そんな威力は出ないと信じたいけれど……うん、大丈夫だよね?
『真人、己もついた』
『僕も到着した。それで、僕らはどうすればいいんだい?』
「うん、待機で!」
『え?』『へ?』
どういう事かよくわからないと言うフレアとシルヴィアの声が聞こえてくるけれど、いてくれることに意味がある。
ここから東に行ってもらったシルヴィアは風の龍、その魔王だった。
南にいるフレアは火の精霊のその上位である爆炎龍を継ぐもの。
西のサクラちゃんとナナちゃんに持たせている刀は鋼龍の逆鱗で討たれたと言う金属の刀。
北側ビオラちゃんは水の勇者で荒れ狂う川の化身とも言われる八岐大蛇を、正しくその身に宿している。
風は即ち木行だ。つまりこれで木、火、金、水が揃ったわけである。
「――五行であればあと土がある筈ではないのかの?」
「ええ、だからあるじゃあないですか、ここに大量に積まれた土が」
そう、ここには堀を掘るために積み上げられた土塊が大量にある。つまり、これで五行が完成したわけだ。
『……五行って星型じゃないです?』
「ナナちゃんの突っ込みも尤もだね!まぁうん、四角推のてっぺんをここととらえて、それを少し斜めにすると……ほら!五芒星にみえるぞ!」
『ほら!と言われても電話越しじゃわかんないですから!』
うん、そりゃそうだね!と軽く流して、扇を構える。この神楽殿を作った時のあまりで作った奴だけど!
「待って――ください!」
「へ、伊代ちゃん?避難したんじゃ無かったのかな?」
早速試しに舞ってみようかなと思ったところに現れたのは巫女服姿の伊代ちゃんだった。うん、フレアに都の外れに送ってもらってあったはずなんだけどな!
「私が――フレアさんにお願いしたんです。私も――何か真人様のお役に――立ちたいと」
息を切らして、髪の毛もぐしゃぐしゃで、足元は土まみれになっている。余程急いで走って来たのだろう。
「わかった。けれどまずはきちんと髪を整えないと。それじゃあせっかく綺麗な髪なのにもったいないよ」
執事七つ道具、櫛をサッと取り出して、伊代ちゃんの髪を梳いていく。
「え、あ、う……あ、ありがとう――ございます」
頬を真っ赤に染めて、伊代ちゃんがポツリポツリと小声で言う。ううん、可愛いなぁ
「あらあら、まぁまぁ♪」
んふふー♪と後ろの方からなんだかとっても楽しそうな緋乃女さんの声が聞こえる。うん、下心は無いですからね!これは男としての気配りなんですから!
『……真人、お前……』『真人……』『真人さん……』『え、えと私は大歓迎ですからね、まーくん!』
なんだか嫁さんたちからの反応が怖い!うん、だからそういう事じゃないからね!
「………………だめ――です?」
じぃ、と可愛い狐耳を伏せて伊代ちゃんがこちらを見上げてくる。うん、それはぁ!卑怯じゃあ!無いかなぁ!
「ほ……保留!今は保留で!うん、ほら!なんだか羅刹さん大技放ちそうだし!って、やばいな!うん、渡して置いた木札で通信!通信!」
なんだか、みんなからとっても強いジトの波動を感じるぞ!
はい、本当に申し訳ないと思ってます!!んでもって、ありがとうございます?
そうして、俺は羅刹さんが最後の大技を放つ前に通信を繋げられたのであった。ふふ、危なかったな!色んな意味で……。
今日も今日とて遅くなりました。申し訳ござm( ˘ω˘)スヤァ