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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第七章:勇者な執事と東の果ての新婚旅行。はい、鍛えてますから!
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39話:大きいと困ることがあると言うけれど小さい人の身になって言って欲しいものだよよね?

 朱纏という男はまじめな男だった。


 幼い頃から何事に取り組むにも真剣に取り組み、無限流の幾多の技を受け継ぎ、いずれは鬼族の長――強いてはこの国を治める魔王になるのではとさえ言われていた。

 鬼の皆に慕われ、魔王になれずとも彼のその努力は誰もが知るところだった。


 だから俺も。俺がどんなに彼に嫌われていようとも、努力家で皆を思いやる心のある朱纏という男を買っていた。


『なのに――なのに、なんだこの体たらくは!』


 無限流/無手/穿・修羅


 三対の拳にて振るう渾身の三撃。朱纏と同時に振るわれたその技は拳がぶつかった瞬間に爆風を巻き起こし、足元の黒い泥事有象無象の妖魔を吹き飛ばしてしまう。


『ガァ!!ガアアアアアアアアア!!!』

『何故だ!!言葉すら忘れても!技は覚えているのに――!!』


 ガシリと六つの腕を組みあい、朱纏に肉薄してみせた。


『朱纏!!何故、アラガミに加担した!何故、反乱なんて起こした!何故、何故!俺の所にいの一番に来なかったっ!!』


 頭突きの衝撃で弾けるように互いに砂埃を上げて後退し、再び拳をぶつけあっていく。


『俺はいつでも、お前を待っていた!――待って、いたんだ。どんなに倒されても、何度でも立ち上がって来ていたお前が何故――!』


 心からの叫びを拳に乗せ幾度も、幾度も交差させる。


『ガアア!!ガアアアアアアアアアアア!!!』


 しかし、どんなに問いかけても、何度拳を交わしても目の前の大鬼が答える事は無い。


――分かっている、分かっているのだ。最早子の鬼は朱纏などではないと。すでに朱纏としての心も魂も霧散し、その面影だけが残っているだけなのだと。それでも、それでも言わざるを得ない。


『この、バカ者が!大バカ者が――!!』


 拳を突き合わせ己の、互いの技の全てをぶつける。


――無限流/無手/閃


――無限流/無手/虚


――無限流/無手/虎


――無限流/無手/輪


 それでも、大鬼が止まることはない。いや、こいつはもう止まれないんだ。


『朱纏。もう……いい。――もう、お前のそんな姿を俺に見せないでくれ』


 それは俺の唯一会得した、無手の奥義。そう、これが俺のこいつにくれてやれる最後の手向け(たむけ)だった。


――無限流/無手/奥義の弐/摩利支天・修羅!!


 閃光の如き抜き手を連撃にて見舞う秘技にて、巨大な傀儡と成り果てた大バカ者の体を幾度も刺し貫いたのだった。


『が、が、ぁ……』


 それでも、大鬼が倒れる事は無い。


 ぞぶり。


 そんな音と共に、足元から湧き上がる黒い汚泥が大鬼を包み込んだかと思うと、穴だらけだったからだが瞬く間に元通りになってしまったのだ。いや、元通りとは程遠い。歪で、奇妙な形へと変貌を遂げてしまっていた。


『お、ぁ、ぁ……』


 もはや、何も言うまい。拳を振るい、大鬼ですら無くなった化け物を砕き、砕き、砕く。


 なるほど、足止めと真人の奴が言ったことがようやく合点がいった。

 この大鬼もどきは殺しても、上半身を丸ごと吹き飛ばしても、瞬く間に再生してしまう。もちろん元通りではなく歪な何かにではあるが……。


 ふらり、と己の足元が揺れるのを感じた。――限界が、近い。

 元々この阿修羅へと至る秘技は己の全てを開放して至る鬼族の秘術である。そんな秘術を使った状態で無限流の奥義まで撃ったのだ。動けてあと数分。十分ともたないだろう。


――だが、ここで抑えると約束をしたのだ。


 そう、俺は魔王だ。


 ただ強さだけを求め、上り詰めてしまった称号でしかなかったが今は違う。

 守るべき民草がいて、守るべき人が、妻がいる。


 俺は弱くなったのだろうか――?


 一人だった頃の方が強かったのではないか――?


 いや、違う。それは違う!この胸の奥から湧き上がるような感情は一人で修行に明け暮れていたころには無かったものだ!


 震える巨大な拳を握りしめ、動かなくなっていく体を無理やりに動かす。


――無限流/無手/奥義の弐/摩利支天・修羅!!


 再びに振るう奥義でその巨大な怪物を吹き飛ばす。貫く事すら叶わないが、時間稼ぎであるならばこれでも十二分に効果はある。


 最早人の姿をなしていない朱纏だったものは、それでもまだ再生を繰り返していく。

 あまりにもしつこ――


『っ!しまっ!?』


 振るった拳が化け物に突き刺さった瞬間。腕をそのまま飲み込まれてしまった。押しても、引いても抜くことができない!


『こ、の!』


 抱きかかえるように掴み、その巨躯を抱えて地面へと叩きつけと、何とか化け物の体を引きちぎって抜け出すことができた。


 殴れば化け物の体に突き刺さり、蹴りを放てど、包み込んで喰われるだろう。


――それでも、俺はこいつをここに留めるのだ。


 スゥと息を吸い、ギシギシと軋む巨躯を動かし、構える。


 ……すまない、緋乃女。俺はもう、お前の元に戻れないかもしれない。


 今の俺の放てる最後で、最大の一撃。今まで使った事は無いが、これならば――


『うん、流石に無理無茶はやめて欲しいなって!生きてる?まだ死んでないよね!あ、手振ってる。やっほーい!』


 今までの緊迫感が吹き飛ぶような真人の軽い声に思わず気が抜けてしまう。うん、今俺ってば決死の一撃を繰り出すところだったんだけど?


『うん、全力でストップで!そういう訳だから――行くよ、伊代ちゃん』

『はい――私の全てを、ここで』

『は、伊代?』


 思わぬ人物の声に俺は驚きの声を上げる。何故、避難したはずの伊代と真人が一緒にいるのだ?そもそも一体何をと、考えた瞬間。俺の周りのその全てが光に包まれたのだった。

今日も今日とて遅くなりましt( ˘ω˘)スヤァ

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