33話:金色に光り輝くものって大体どんなものでも有難く崇めたくなっちゃうものだよね?
圧倒的な質量のモフモフが暴風を纏って振り下ろされる。
ビルほどの物体が時速百キロを超えるスピードで向かってくるって、やばすぎないかな!
なんてことないモフモフであれば思わず飛び込みたくなるほどのモフモフだけれども、その金色の毛並みの一本一本は呪詛の塊。普通の人間であれば触れるだけで発狂し、取り込まれてしまえばその魂を肉を喰らいつくされてしまう悪夢のようなモフモフなのである。うん、俺には呪詛なんて効かないんだけど、あのモフモフに囚われたら抜け出すのに苦労しそうなんだよ!
だから避ける。全力で!全速力で逃げるんだよおおおお!!
風を纏い、水を纏い、炎を振り払って俺は空をダッシュで翔けて、駆け巡る。
『ははは!逃げるな逃げるな!おとなしく妾の腹のうちへ収まるがいい!』
カチカチと歯を鳴らしながら九尾の狐はニヤニヤと楽しそうに笑う。
「だからお断りさせてもらうって言ってるじゃあないか!」
逃げる俺を追尾して爆熱的な狐火がまるでミサイルのように降り注ぐ。躱して避けて鼓草で切り払い、そのエネルギーを無理やりに勾玉に押し込めていく。
――巫術/第参の秘術/八尺瓊勾玉
勾玉へと押し込めるには実のところかなりのプロセスを踏む必要があるのだけれど、銘刀鼓草がその大半のプロセスを簡略省略ショートカットでググっと吸い取って固めて俺の背側へと排出してくれる。うん、本当にできた刀だよね?うん、刀ってこういうものだっけ?なんか違う気がするけど、便利だし深く考えないことにしておく。
くるり上空で反転し、その勾玉の力を鼓草に込めて一刀にてその尾の一つへと振り下ろす。
――無限流/刃/奥義ノ壱/武御雷・天!
無限なる究極なる一の技――だが、その刃は濃密な妖力の塊に取り込まれ、モフモフに届くことすら無く勢いを殺されてしまう。というか、放った力すらも喰われたんだけど!?
『んん?何かしたかな?』
ゴウと爆風を巻き込んで尾が世界をかき乱す。
「この、くそがっ――!」
木札を放ち、爆風を爆風によって相殺し、自分を空高くへと吹き飛ばす。うん、割と痛いな!
『はははは!馬鹿な事をする!そんなことをすれば体がバラバラに――なっておらんな。むぅ、やけに頑丈な……』
「そりゃあ鍛えてますから!」
こちらを全く休ませることなく狐火が追撃で放たれる。ああもう、しつこい!鼓草で今一度振り払い、再び勾玉へと押し込める。
――完全にもて遊ばれている。
そりゃあそうだろう。向こうは世界を滅ぼさんとするほどの大妖怪、九尾の狐こと玉藻の御前。
一回の巫子的な勇者風情が勝てる要因なんてこれっぽっちもあるはずもないのだ。
けれども引けない理由がある。
「伊代ちゃんを……返せやごらああああ!!」
再び刃を振るい、その尾を切りつける。
――無限流/刃/奥義ノ弐/天之尾羽張!
その十成る刃が一閃となって振り下ろし、まとわりつく妖力を喰らい喰らって食らわせて、ついに一尾を切り落とした!――が、瞬く間に霧散したその尾は気付けば元通りに戻ってしまった。うん、そりゃあ無いんじゃあないかな!
『無駄だ無駄だ!いくら貴様が妾を切り裂こうと瞬く間に戻してやろうぞ!』
莫大な妖力はさらに勢いを増し、大きく開いた九尾の口から放たれるは極焱。一閃となって放たれた狐火はビーム砲となって振り下ろされ、山を焼き、天を割いた。
――そしてその焼き焦がされた山肌からゾルリと黒い塊たちが姿を現す。
妖怪。そう、あれは魔物なんて生易しい存在ではない、混沌たる呪詛から生み出される妖魔たちであった。
『はは、ただのこれだけで妖が生まれるか!妾の生きた時代と同じくこの世界は混沌を極めていると見る』
「ああ本当にクッソったれだよ!」
こっそりとさっき伊代ちゃんが落とした神楽鈴を、両の手に掲げてしゃなりしゃなりと空を舞う。
涼やかな音は呪詛を鎮め、産み落とされた妖魔たちはホロホロとその姿を崩してしまった。
『ひどい事をする男だ。せっかく生まれ出でた命がこれでは無為ではないか』
ゲラゲラと心無い事を言って悠然とその金色の巨体を空に揺蕩わせる。
「その命とやらを産み落とすために今どれだけの命を殺したって話さ。本当に存在自体がふざけた奴だよ、アンタは」
ギシリと鼓草を握りしめ目の前の大妖怪を睨む。
このままではじり貧は必至。というか勝てるビジョンが全く見えない。いったいどうすれば――
『――答えはここにある』
ふと、空のどこか遠くから声が聞こえた。
聞きなれた声。うん、かなり遠く離れたところだから喚ぶこと自体無理無茶じゃあないかなって思ってたんだけど。え、来れるの?
『我は剣也。斬れるものなど、無い』
何やらよくわからないけれど、どうやら自信満々のようだ。何でか鼓草が対抗して鍔をリリンと鳴らしているけれど、ちょっと今は我慢しておいてね!
「それなら――俺の願いに応えて見せろ。俺は護ると決めた大切な誰かを護りたい。だから――!」
スゥと息を吐き、天空に向けて叫ぶ。
「応えろ、ジ・アンサああああああああああああ!!!」
瞬間、閃光が煌めき究極の剣、持つ者こそが勇者とも言われるその聖剣が俺の手に収められた。
……え、一瞬?!
『我に、斬れぬもの無し』
なんだかドヤ顔でもしそうな声でジ・アンサーが答える。なるほど、時空を切り裂いてこの場に跳んできたと言う事らしい。何ともまたハチャメチャな……。
あれ?それなら大魔王の間にも来て欲しいんだけどな!来れるよね?……え、ノーコメントなの?こ、答えてくれよ、ジ・アンサー!
大変お待たせ致しました。本当に申し訳ございm( ˘ω˘)スヤァ