32話:肉食動物って割と丸のみする生き物が多いけど何だか消化に悪そうだよね?
「はは、はははは!神が妾に供物を捧げると!それはまた滑稽な話もあったモノだ!」
ゲラゲラと九尾は腹を抑えて楽しそうに笑う。うん、笑ってないでその体から出て行って欲しいんだけどな!
「くく、この娘の肉も魂もすでに妾のモノ。そんなに一緒に居たいなら妾の腹の中で再会させてくれようぞ」
ゴプリと少女の顔が崩れ、巨大な狐の顔が俺のいた場所を鳥居ごと喰らう。うん、流石にそれは暴飲暴食が過ぎると思うんだよ!寸での所で躱して、そのモフモフとした狐顔に蹴りを入れて、更に飛びのく。
「女の顔を足蹴にするなど、男として最低ではないのか?」
「うん、地面ごと食べようとされたらだ誰だってこうするかなってぇうぁい!」
セリフをすべて言い切る前に鬼達の凶刃が俺に振り下ろされていく。一心不乱に刃を振るってくるけれど、多分そんなことすると一緒に喰われると思うんだけど!と言う前にその顎がまた下ろされる。地面は石畳ごと抉れ、そこにいたはずの鬼はその巨体をただの一口で喰われてしまった。俺は躱したけどね!
『ちょろちょろと逃げ回る。まるでネズミのようだな』
ずるん、ぼとん伊代ちゃんの体崩れていき巨大な狐へと変貌していく。来ていた巫女服ははじけ飛び、無残な布切れだけが地面に散らばる。……下着がない?はっ!ノーパンだった!?
『……まじまじと破れた服を見て鼻の下を伸ばされると、流石の妾でもいささか引くのだが』
「男の子の性だから仕方ないネ!」
軽口を叩きながらも背中に汗が垂れるのを感じる。
すでに目の前の九尾の狐は見上げるほど。これでもまだ本来の伝承の一割にも満たないだろう。
『さぁ、可愛い鬼達よ。そ奴を捕らえよ。ああいや、殺しても構わぬ。どうせ喰うのだ。食べやすくしてくれて構わんぞ?』
「どうせ丸のみじゃないですかやだー!」
ゆらりと幽鬼の如く襲い掛かる鬼達は己の持つ全てを持って襲い掛かる。その技は全て無限流。
無限流/刃/御雷、十束の剣、玉、焔、嵐、陣――けれども、うん。全部識っているのだから、躱すこともいなすことも容易い。尤も、その技が成る前に切り伏せてしまったのだけれど。
「馬鹿な、我らの技が――」
通じないのか?と言いたげな雰囲気で鬼達が血しぶきを上げてその場に倒れていく。言えることはただ一つ。訓練が足りていない。技一つ一つが甘くて荒くて完成度が低すぎるんだよ!
「まぁ、師匠が死んで何年も経ってるらしいから、伝承からの伝承で技自体が風化していってるんだろうけどね!」
「化け物め――!」
ギシリと歯噛みをするのはひと際大きい鬼。うん、お前は来ないのかな?
「ヤレヤレ、信徒にしてやっても自分が可愛い性根だけは変えられんか」
ジャバウォックがにやつきながら肩を竦めて見せる。
「……信徒、ね。お前こそ来るつもりは無いのか?」
「え、やだなぁ。痛いのは嫌いなんだ。まぁ、そうだな。玉藻様への敬意は――露払いをすることで払うことにしよう」
魔方陣が現れ、俺の後ろに向けて魔力砲が放たれる。――が、その魔力砲は全て氷の壁にて阻まれてしまった。え、何事?
「さ、サクラちゃん?!」
「えへ、来ちゃった♪」
そこにいたのは誰でもない、俺の愛しのサクラちゃんだった。てへぺろしてるよ!可愛いなぁ!
「私もいるんですけど!」
「えと、わ、私も……」
何だか頬を膨らませているのはピンクでフリフリの魔法少女っぽい姿のナナちゃんと、同じく魔法少女的なデュミナスアクアに変身したビオラちゃんだった。うん、ナナちゃん?そのチートは潜入に向いてないと思うよ?
「知ってます!というか今更過ぎますよ!でも、もうどうでもいいです。私は――自分の場所を見つけたんですから!」
ふんすふんすと鼻息荒くナナちゃんはその拳を握りしめて、サクラちゃんとアイコンタクトを送りあう。あれ?うん?い、いつの間にそんな仲になってるの!?
「ついさっきですね」「ええ、ですが私たちは」「「心の友です!」」
グッと、親指を上げたサムズアップで何でか二人が通じ合っている。うん、本当に何があったのかな!
「ご歓談の途中で申し訳ないが、そろそろうちの上司がしびれを切らしているみたいでね。サクッと殺されて喰われてはくれませんかねぇ」
魔力砲を防がれて尚、飄々とした態度でジャバウォックはヘラヘラと笑う。
「お断りします。どこの誰とも知らない――あれ、貴方。どこかで……」
サクラちゃんがジャバウォックを見て目をぱちくりとさせて首をかしげている。うん、あんな変な男見たことあるの?
「いえ、逢った事は無いはずです。けれど、こう――既視感が……」
「ええい!死ねぇ!」
後ろの方にいた大きな赤鬼が崩れた拝殿の柱をこちらに向けてぶん投げる。
「そぉい!」
が、その攻撃はナナちゃんの拳で弾かれる。
「そういう訳で、何だか強そうなあの狐の方をお願いします。どうせあの中に伊代様がいるんでしょう?」
「そうそう、アレが伊代ちゃんなんだよね。本当に大きくなっちゃって……って、でかいな!」
もっちゃもっちゃと、鬼の遺骸を口に放り込むその化け物の姿は――気づけばシロナガスクジラ並みに大きくなって空を悠々と漂っていた。うん、成長しすぎじゃあないかな!
『お前を丸ごとに喰うてしまうために大きくなったんだよ?さぁ、妾の口に入ってしまうがいい』
「うん、こんなにもお断りしたい気持ちは割と久々だね!」
サクラちゃんにナナちゃん、それに壱乃さんたちの付いているビオラちゃんがいれば大丈夫だろう。それじゃあ後はお願いね、と言い残して石畳を踏み砕いて空へと上がる。
目の前の玉藻御前は、愉しそうに笑いながら空に上がる俺へとその九つの尾を振り下ろす。
その一尾一尾が必殺。当たれば体が砕けるだけではなく、漏れなく呪殺されてしまうだろう。うん、俺に呪いとか効かないんだけどね!
――さてはて、どうしたものかな。
目の前のあまりにも大きな金色の獣に俺は、少しため息を付くのであった。
今日も今日とて……はい、とってもとっても遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ