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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第七章:勇者な執事と東の果ての新婚旅行。はい、鍛えてますから!
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31話:神社にお参りに行くと信心深く無くてもなんだか神聖な気持ちになる気がするよね?

 深い深い森を抜け、唐突に現れる石畳の長階段。

 結界が貼ってあると言う話をちらりときいたのだけれど、その封印を保っていた要石となっていた狛犬たちは完全に破壊されてしまっている。


 長い階段の先は霞みがかり、上の様子をここからでは見る事はできない。うん、空からも見えなかったんだよ!つまり、それもここを護る結界の一種なのだろう。ふふ、本気で本物が祀られてそうで嫌だな!


 崩れた狛犬に一礼をしてそのまま階段を駆け上がっていく。東のお堂と同じでこの道を逸れて上がっても上にたどり着くことができなくなっているから本当に厄介なんだよ!石段を踏み飛ばしても駄目。その一段一段が術式であり、踏み損ねると一段目へと返されてしまう。うん、一回やらかしたよ俺!


 上へ、上へと上がって走ると軽やかな鈴の()が耳へと届く。これは――神楽鈴(かぐらすず)(おと)


「よう、遅かったじゃあねーか」

「紆余曲折が諸々とあってね?と言うか、昨日キッチリとどめを刺したはずなのに何でここにいるのかな?」


 鳥居を抜けた先、境内にいたのは――昨日殺したはずのアラガミの男だった。

 胡坐をかいてわざわざ俺の事を待ってくれてたみたいである。うん、良くわかったね!


「そりゃあ、予言の巫女様の御言付けだからな。間違いようがねーだろう?」

「――ああ、なるほど。確かにそれは間違いようもない」


 シャナリ、シャナリと鈴の音が響く。

 殺生石。そう呼ばれる魔石では前。修験者姿の鬼達の真ん中の舞台で――巫女装束の伊代ちゃんが舞い踊る。顔には狐面がかぶせられており、その表情を見る事は出来なかった。


「さて、儀式はほどなく終わる。貴様も知っている九尾の狐がここに再誕するのだ」

「そしてそれは討伐される……違うか?」

「ああ知っているさ!知っているとも!予言の巫女金色の獣に喰われ狂いし獣は修羅の鬼に滅され、その地に豊穣と安寧をもたらす、だろう?だが、それがどうした?必要なのはこの場にお前がここにいて、九尾の狐が蘇ることだ!」

「俺が……?」


 予言に語られてすらいない俺がここにいる事の何が重要だと言うのだろうか?いや、最早そんなことはどうでもいい。


「へぇ、やけに好戦的じゃあないか。こちらはまだ剣すら抜いていないぞ?」

「林の向こうから銃やら矢やらで狙っているくせによく言う」


 尤も、そんなもの効く訳が無いことは向こうも重々承知だろう。


「そんな顔して上がってきたやつに無警戒とも行かなくてね。さて――前哨戦だ。精々俺を斃して見せろ」

「そうだな――お断りするぜい!」

「は――」


 ポフンと目の前の俺が消え、虚を突かれたアラガミの男の後頭部をくるんと盾に回って蹴り飛ばし、その勢いのまま、舞台へと跳びあがる。


「お前ら、殺れぇ!!」


 アラガミの男の掛け声に反応するまでもなく鬼達が手に持っていた槍をこちらへと突き出す。が、そんなもの当たる訳もない。()()()とその刃の隙間を縫って、舞い踊る伊代ちゃんの元へと降り立つ。


「迎えに来たけど――帰る気は無いのかい?」

「答えは――知っているので――しょう?」


 狐面の隙間から見える彼女の目はその命を賭してもこの国の繁栄の礎になるという覚悟を決めた目をしていた。


「それを誰も望まないとしてもかい?」

「望まないとしても――です。あなたなら――分かりますよね?」


 彼女の言葉がズシンと胸の奥に突き刺さる。


――分かる。分かってしまう。彼女の私用としている事は俺がしてきたことだから。


 たとえ誰に望まれていないとしても、自己満足なのだと知っていても、逆に疎まれたとしても。それでも、大切な誰かの為に体が動いてしまう。だけど――。


「ああ、いい事を教えてやろう。修羅の鬼と予言にあるが、修羅の魔王とは言われていない。つまり、

お前の家族であるアイツらをお前が殺してもこいつらがお前を殺せばそれで終わりって事だ。はは!良かったなぁいい事が聞けたぞ!」

「な、え――?」


 そう、あの預言ではだれが九尾を止めるのかが分からない。だから、彼女の献身で羅刹さんや緋乃女さんが死ぬ可能性もあるのだ。


「だから、安心しろ。すぐにアイツらに後を追わせてやる」


 アラガミの男が愉しそうに笑い声をあげる。なんだ、何でこんなことをこのタイミングで――


「駄目だ、伊代ちゃん!耳を貸すな!」

「貴、様――!あっ……?」


 かふり、と伊代ちゃんが息を吐く。彼女の胸には――殺生石から延びる太いトゲが突き刺さっていた。


「伊代ちゃん!」

「おっと、もう手遅れだ!残念だったな水無瀬真人!貴様がもたついたせいでこの子は絶望の中地獄に落ちるんだ!ははは!愛する国も!国民も!家族すらも焼き尽くす邪悪となるのだ!」


 鼓草を素早く振りぬき、そのトゲへ向けて刃を振りぬく。が、その刃は目の前の男によって食い止められてしまう。


「どけ、アラガミ!」


 ギシリと奥歯を噛みしめ、刃を煌めかせる――が、その一刃たりともその男へは届かない。そうする間にもトゲに貫かれた伊代ちゃんが殺生石へと引き寄せられていく。


「んん、いい加減俺の名前を憶えてもらうとしよう。俺はアラガミ教で教祖とやらをやらせてもらっている。名はジャバウォック。いいかい?ジャバウォックだ」


 ええい顔が近い!刃を返し、くるんと体を回して伊代ちゃんへと手を伸ばす。が、その手は伊代ちゃんの手によって払われた。


「乙女の肌に許可なく触ろうとするなど――不躾ではないか?」

「な、ぐぅ!?」


 溢れんばかりの妖力が衝撃となり、俺を舞台の外へと吹き飛ばす。体制を整えて着地し、見上げると――そこには金色の耳と九つの尾を身に着けた伊代ちゃんの姿がそこにはあった。


「九尾の、狐……玉藻の前」

「ほう、妾の名を知るとは――!はは、ははは!そうか、ああ、そうか!匂う、匂うぞ!公家の匂いが!皇の匂いが!そうか、貴様、アイツの血を継いでいるのか」


 狐の面が砕け落ちると、目の横には赤のアイシャドウが引かれた伊代ちゃんの顔が現れる。視線は凍り付くほどに冷たく、憎悪に満ち満ちていた。


「アイツ、うん、貴女のいうアイツの心当たりがありすぎて困るのだけれど、とりあえずその子から出て行ってはもらえないかな?」

「断る。くひ、ああ、アイツの子孫を喰らえる日が来るとは。くひひ、ああ、何と素晴らしき日だ」


 ケラケラと楽しそうに狐が笑う。

 どうやら俺のお願いは聞いてもらえないらしい。

 グンと石畳を踏み抜いて二の言を聞くまでもなく狐へと刃を振るう。が、それを修験者姿の鬼達が阻む。


「どけ!」

「断る!全ては我らが神の為に!」


 光の宿らぬ目で男たちはその刃を振るう。


 基本的に槍は刀よりも強いと言われている。単純な話、間合いが長くとることができる槍であれば、刀の届かぬ位置から敵を殺すことができるからだ。そして、線ではなく点で連続で襲い掛かる刃は熟達した剣士であったとしても躱すことは容易ではない。まぁ、避けて躱すんだけどね!


「無限流/槍/流星は点の連撃だから確かに剣士に対して有効な技だ。けれど、うん。君たちは基本に忠実すぎる」


 だから見極めやすい。素早く躱し往なして男たちの槍の穂先を切り落としていく。


「この程度で我らが――」


――無限流/刃/十束の剣


 一瞬にて十の刃が煌めき、鬼達の首がズレて落ちる。


「おうおう、容赦ないねぇ。勇者と言いつつただの殺戮者じゃあないか」

「今更だな。そんな言葉は俺には響かんぞ」


 鼓草の血を払い、眼前のジャバウォックと玉藻の前へと飛び掛かる。


「ふん、頭が高い」

「っ――!」


 再び玉藻の前の妖力が爆ぜ、俺は境内から吹き飛ばされ鳥居から階段へと転がり落ちる。


「あーあ。まったく早すぎると女の子に嫌われちまうぜ?さて――玉藻様、復活おめでとうございます。私めはこの世界の神の代行者ジャバウォックと申す者」

「――神だと?妾を復活させたところで何をさせようと言うのだ?よもやこの国を収める王と成れとでも言うつもりか?」

「いえいえ滅相もない」


 跪くジャバウォックは楽しそうな声でこう言った。


「この世界の全てを、貴方様のお好きなように奪い、喰らい、滅ぼしてください。それが我らが神様の思し召しでございます」――と。

今日も今日とて遅くなりm( ˘ω˘)スヤァ

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