30話:白飯を塩で握って海苔を巻いただけなのに超美味しいおにぎりって何だかズルイよね?
ぞろぞろとどこからか現れたるは鬼の大群。それも百や二百じゃあ済まない数。千人くらいは軽くいるのではないでしょうか?
「……どうやら朱纏の奴が一枚かんでいるようだな。しかも見るに、目つきがおかしい」
「うん、何だかこう嫌な感じがするね、あれ。洗脳とかされてそうじゃないかな?」
羅刹さんとまーくんの言う通り、鬼さんたちの目がどことなく座っています。幽鬼の如くとは正しくと言う感じでヘラヘラと笑いながらゆらゆらとこちらへ向かってきています。
「洗脳されている可能性は否めんが――まぁ、間違いなく敵であることには変わりは無い。うむ、気兼ねなくぶち殺して構わんぞ!」
「あなた、目の上のたん瘤だったからって……」
カラカラと笑う羅刹さんの隣で緋乃女さんが呆れた顔をしています。そういえば朱纏って人と色々と因縁
があるって言ってましたしね……。
「それは兎も角として、伊代はどうだ?」
「恐らく――ううん、間違いなく殺生石の所にいる。アレは間違いなく殺生石みたいだからね。本体の俺が今目視出来ました。ああうん、いる。二本角の赤鬼とあとは昨日のも見える……。うん、ちょっとやばいかな?」
まーくんがそう言うのであれば、それは相当に危ない状況なのでしょう。ならば、あちらに専念してもらうのが妻としての役目!うん、奥さんなのですから旦那様をお助けしないと、ですね!
「まーくん、あちらに集中をしておいてください。先ほどまーくんに仕掛けていただいていたものでこちらは何とか食い止めてみせますので」
「……ん、分かった。ありがとうサクラちゃん。それじゃあこっちの俺たちは省エネモードにしておくから!っと、その前に――総員、戦闘準備!」
「「「「「アイサー!!!」」」」」
まーくんの掛け声と共に私やシルヴィアさん、フレアちゃんにメイドさんたち、姫騎士の皆が持っていたお札を使い、武装を一瞬で整えていきます。これぞまーくんの用意していた瞬間早着替えのお札!
「ううん、ここは変身!とか大変身!とかウェイクアップ!とか言って欲しかったけど、流石にお札じゃ言いようも無いか……」
「いつも通り真人様は何を言ってるかわからないですね」
メイド服姿のロベリアちゃんがヤレヤレと首を振ります。ううん、いつもながらに辛辣です!
「それじゃあ、ちょっとひと踏ん張りしてくるよ!」
そう言うと、分身のまーくんはぽ分とちっちゃなまーくん人形へとなってしまいました。……これは私の胸元にそっと入れておきましょう。ふふふ、可愛い♪
「さてはて、氷結の魔王よ。この軍勢、まずはどうするつもりだ?」
「はい、住民の避難はある程度まーくんがしてくれていますので、気兼ねなく戦闘をすることができます。ですが、このままでは地理に疎い私たちでは不利になってしまうでしょう」
だからこそ、まーくんに仕掛けをしてもらっていたのです。
すぅと息を吸い、魔術式を踊るように展開させていきます。細やかに、繊細に――!
「オウカ様へご報告。西側防衛ライン到達まで二十秒、北側防衛ラインまで到達三十秒、湖より接近――到達まで後、十・九――」
ライガさんの言葉に私は意識を集中させていく。
「術式開放――氷獄城壁」
白い靄が一瞬で世界を覆い、防衛ラインに到達した鬼たちを巻き込んで氷の城壁が姿を現します。これぞ氷獄城壁。触れるモノを全て氷結させる絶対零度の城壁!
「ほう、見事なものだ」
「目印の魔導ポインタをまーくんに敷いてもらっていたんです。とはいえ、これだけの広さと大きさです。流石の私でも長くは持ちません。私の魔力も有限ですしね」
だからこその第二陣です!
「フレアちゃん!、シルヴィアさん!ビオラちゃん!」
『まかされた!』『それでは参りましょう』「は、はい!」
爆炎龍と変じたフレアちゃんが東側の鬼達へ向けて炎の塊を吐き出して火柱と共に消し炭にし、南の鬼たちは嵐龍へと至ったシルヴィアさんが嵐を巻き起こしてその部隊そのものを風で吹き飛ばし、湖からこちらへ向かっていた鬼たちはデュミナス・アクアへと変身したビオラちゃんの繰る水に文字通り飲まれてしまいました。……あれ?私いらないんじゃないです?
「い、いやはや、真人の奴はどうやって彼女らを射止めたのか気になって仕方がないな。うむ、俺だったら胃が死ぬ」
あっけにとられたような顔で羅刹さんはヤレヤレと肩をすくめています。のんびりするのはいいですが、今の一撃でもあちら側の勢いは全く衰えていないので気を抜かないで欲しいです!
「それ以前に疑問が。どうしてこちらを狙ってくるんです?私たちがこの防衛を敷いたのは伊代様をお守りするため。ですが、伊代様はどうやらすでに敵の手にあるようです。足止めでしたらここまでするのもおかしな話ですし……」
「ううん、確かに。伊代ちゃんがいなくなればこっちを狙う目的も無くなるわけだし……」
ロベリアちゃんとナナちゃんが二人して首をかしげます。そういえば確かにその通りです。もしかして……いや、ま、まさか……。
「ご想像の通り、朱纏は俺の首と緋乃女が欲しいのだろう」
魔王になれなかった男、それが朱纏という男。
だから、アラガミ側に与してでも憎き羅刹さんの首と魔王の証でもあるお嫁さん、緋乃女さんが欲しいのだと羅刹さんは言います。……あれ?私たち巻き込まれていません?派閥争いに巻き込まれただけですよね、これ!
「はっはっは、今更だな!さて、客人の、それも女子に守られてばかりでは修羅の国の魔王として立つ瀬がない。何より嫁の目が痛い!」
「そう思うならさっさと行きなはれ」
「あ、はい。行ってきます」
緋乃女さんの言葉を受けて、羅刹さんが震える声で氷壁の先を見上げます。
そこには十メートルはある氷壁を、優に超える四つ腕の鬼たち。
見回せば各所で大鬼たちがその巨大な姿を現しています。あんなものいつの間にどうやって――?
「生贄を使った下法を用意て異界の鬼を召喚したのだろう。あいつめ、手段をすでに選ぶ余裕すらないか」
羅刹さんはまーくんのお札で武具を一瞬で身にまとい、素早く刃を煌めかせます。
「無限流正統継承者。魔王、羅刹豪刹――いざ参る」
駆け出した羅刹さんを見送り、私たちも第三陣の準備に取り掛かります。あちらには数で分があるのでしょうが、こちらは質で対抗するのです!ここをまーくんに任されたからには、絶対に死守してみせるんですから!
今日も今日とて遅くなりm( ˘ω˘)スヤァ