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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第七章:勇者な執事と東の果ての新婚旅行。はい、鍛えてますから!
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29話:中学の頃どんな風だったのと言われると右手を抑えてそっと目をそらしたくなるよね? 

 水辺で遊ぶみんなを眺めつつ、俺は心地よい疲労感と共に池の水際に座り込む。

 久々にここまで遊んだ気がする。うん、こんなに楽しく遊んだのは――いつ以来だろうか。


「真人、似合わない顔してる」

「郷愁を感じるなんてこっちに来て初めてだし、仕方ないネ!」


 妹が死んだと分かって、あっちに帰りたいだなんてこれポッチも思えなくなってしまったのだから。仲の友人もいたけれど、俺と関わりすぎるのは危ないのでそこまで親密とは言い切れないくらいだったし?


 だから、郷愁なんて感じようもない。


――俺は家族ことを思い出すことも、もうなくなりかけていたのだから。


「真人様のお母様は――どんな方、だったのですか?」


 そう言って、フレアの隣にいた伊代ちゃんが首をかしげる。


「ん、そういえば気になる。真人、妹の事以外家族の話してない」

「そ、そうだったけ?」


 ふんすふんすと鼻息の荒いフレアを撫でて宥めつつ、ふぅと息を吐く。


「俺の家族の話なんて楽しいこと何もないぞ?母ちゃんが二人いたり、親族みんなクソッタレだったりするし。まぁ、俺がこっちに来てみーんな無くなっちゃったんだけどな」


 二人目の母親、義母さんが死んだのは極論で言えば俺のせいだった。


 俺と、義母さんは俺と妹の時と同じく振るいにかけられた。そして、俺が生き残った。今回俺が死んで、妹が生き残ったように。


 そうやって水無瀬と言う一族は成り立ってきたのだから、本当にどうしようもない。


 だから、そんな家の事は語らず、妹と義母さん、俺の両親について語ることにする。


「俺の父さんは有名企業のサラリーマンで、母さんは普通の専業主婦だったんだ。父さんは忙しい人でいつも出張に出かけていたけれど、寂しいと思った事は無かったかな。休みの日には色んなところに遊びに連れて行ってくれたし、二人を亡くしたあの時も――海外旅行に行く途中だったんだ」


――それは、テロリストによる旅客機爆破事件と新聞には残されている事件だった。


 上空1万フィートで爆散した旅客機は南米アマゾンへと落下。生存者は絶望と言われていた。


「その中で俺は偶然に偶然が重なって奇跡的にたまたま生き残った。……生き残ってしまった」


 それを喜んだのは誰でもない、俺の親族たちだった。


――次代の巫子が見つかった。


 初めて見た彼らはたった五歳の児童がアマゾンを一か月間生き延びたその()()に沸き立ったそうだ。


「だけど、その時に巫子をやっていた義母さんが俺を引き取ってくれて周りを鎮静化させていったんだ。義母さんが俺に修行をつけるって言ってね」


 義母さんは綺麗で可愛い人だった。料理上手な家事上手。とても優しいけれど厳しい時は厳しい、そんな理想的な母親だった。


「義母さんはいつも口癖のように言っていた。いずれ、私は死ななければならない。だから、妹――真理だけは護るようにとずっと言い聞かせられていたんだ。 まぁ、そうすれば真理が俺か真理かの二択になった時に義母さんがそうしてくれたように、妹にもそうしてくれると信じてくれていたんだろうね」


 尤も、俺は義母さんに言われなくてもそうするつもりだった。

 義母さんは、俺を見殺しにして自分が助かり、真理を護りぬくこともできたはずなんだ。けれど、そうしなかったのだから。


「選別の時、水無瀬家は常人であれば死ぬ目に逢わせるんだ。あの時は富士の樹海に……つまりは人里離れた森の中に取り残されたんだ。それも、崖から目隠しバンジーさせられてね。いやはや眠っているところを連れ去られるとは俺も義母さんも思っていなかったんだよ」


 二人が何とも言えないような目でこちらを見ている。うん、普通そんな目にもなるよね


「義母さんは俺を庇ってケガをして、樹海を抜ける数日間俺と二人きりで過ごしてくれた。生きる術と、あの時は知りもしなかった巫術を教えてくれながら」


 そして――ようやっと樹海を抜けたと思った先であいつ等は銃火器を構えて待ち構えていた。


「義母さんは、その銃弾から俺を護って死んだ。――俺に「生きて」と言って」


 だから、どんなに真理に嫌われても、無視されるようになっても俺は彼女を護り続けた。どんなに死にそうになっても死ぬ目にあっても、死んだとしてもあの子を護りぬいた。


――護りぬけたと思っていた。


「だけど、駄目だったんだよ。うん、分かっていたんだ。籠の鳥のままじゃあの子を護り切れないって。俺が死んでも護れるように色々と遺して来たはずだったんだけど、それも駄目だったみたいで……」

「真人、泣いてる」


 フレアの心配そうな声にハタと俺は自分の顔を撫でる。涙なんて流すつもりは無かったのに、気付けば泣いていたらしい。


「うん、ごめんな。なんか湿っぽい話になっちゃって。まぁ俺と家族の記憶なんてそんなものさ。最後には冬山に妹と一緒に落とされて、人のいる山小屋にたどり着いたところで俺は死んだ。すこし血を流し過ぎたみたいでね。安心したところでコロっとね」


 逝ったという感覚すらも無く、次に目を開いた瞬間に大魔王の間だっからあんまりあの時に死んだって実感は無いんだけど。


「と、まぁ俺の話はここまでにして、伊代ちゃん。俺にも君の事を教えてくれないかな」

「私の――こと、ですか?」


 フレアの隣に座る伊代ちゃんが可愛らしく首をかしげる。


「そう、君が今日――どんな獣に喰われるかを」


 俺の言葉に伊代ちゃんの瞳が驚きに見開かれ、すぐに小さくため息を付いた。


「兄さまからお聞きになられたのですね」

「ああ、聞いた」


 ギュウと、震える自分の手を握り彼女の目は雄大にそびえる芙蓉山を捕らえた。


「――予言の巫女金色の獣に喰われ狂いし獣は修羅の鬼に滅され――その地に豊穣と安寧をもたらす」

「……君はその獣に喰われるつもりなんだね?」


 コクリと、伊代ちゃんは小さくうなずく。


「私が贄となり――この地に安寧がもたらされるのであれば。それで、構いません。――最後に良き思いでもできました――ので」


 可愛らしく微笑む伊代ちゃんの顔に悲壮感などひと欠片も無く、ただ純粋に自分はそうすべきなのだと思っているかのようだった。


「うん、だけど俺はそうなって欲しくない。君にはちゃんと生きて、君の家族とその安寧とやらを満喫して欲しい」

「けれどもそれは――もう、叶わない」


 瞬間。ザラリと、伊代ちゃんのその姿が砂となり、崩れた。


「な、分身!?」

「ごめんなさい、真人様――ごめんなさい……」


 崩れ落ちた彼女の姿に俺もフレアも思わず固まってしまう。

 いつから?一体、いつから入れ替わっていた?何故誰も気づけなかった?そんな焦燥を考える間もなく、あたりに怒号と爆音が轟いたのだった。

今日も今日とて遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ

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