28話:合体変形ロボってどうしても余剰パーツが生まれるけどそのパーツで遊ぶのも乙なものだよね?
ぱちゃぱちゃと水辺でロベリアちゃんとお魚さんを追いかける。ううん、意外と大きいのが多いけど、すばしっこい……!
「よし、お昼ご飯ゲット!なんか鮭っぽい!鮭っぽいですよ!」
「マスマスというお魚ですね。青臭さが少なくて美味しいと評判だそうですよ?」
「いや、それって、普通にマスじゃ……」
ないらしい。うん、どう考えてもマスだけれど違うそうだった。勇者真人の話によると、なんでもここは彼の御師匠さんの作った国なのだそうだ。しかも、勇者ではなく人の身で。いやいやそんなわけないでしょう!と思ったのだけれど、チートをまったくもっていないと言う先日の大魔王城での騒ぎを見て考えが変わった。
あの人、存在自体がチートだよう!
何でチートが無いのに空を飛べるのかが分からない!え、なにあの人って魔術とか習ってるの?と林檎さんに聞いてみたけれど、ほとんどは元の世界でも使えていたのだそうだ。まったくもって意味が分からない!そもそもな話、私たちの元の世界も割とファンタジーだったって事なの!?
――うん。忘れよう。
潜入任務なんて私には荷が勝ちすぎてたんだよ。一応周りで見聞きしたことを適当にまとめて勇者教手紙で送ったら、褒章とか言って今嵌めてる指輪をもらった。けれど、正直あんまり嬉しくない。小物よりお金がよかったなぁ……。というか、メイドのお仕事が普通に稼げるのがいけない。ちゃんとお休みもあって、ご飯もおいしい。町のみんなは親切だし、先輩メイドさんたちはみんな優しいし……。そして今度は慰安旅行だと。
――最高か!大切なことだからもう一回言うけど最高か!!
何、この待遇?元の世界でもあり得ないくらいに待遇がいいんだけど!ああもう、駄目だ私。潜入任務なんてやめてそのままアークルで働きたい……。
「――で、何で潜入任務なんてしてるんです」
「うん、ロベリアちゃん?ドストレートすぎる質問に私脳みそがふっとーしそうなんですけど!」
獲れた大きなマスマスを縄にくくるロベリアちゃんがそうです?と小首をかしげている。うん、どう考えても唐突だよう!
「と、というか、な、な、何で私が潜入してるって……」
「え?最初から?ナナさんが勇者だってことも皆さんご存じですよ?」
「知ってるんかーい!うわん!私潜入頑張ってる感ましましで日々働いてましたよ!?最近はお仕事楽しくなってたけれど!」
思わずがガボゴボと湖に沈む。
は、恥ずかしすぎる。え、じゃあ何かな?オウカ様も知ってるって事?勇者真人も?林檎さんに夏凛さん、苺さんも?え、街の人も?ホワイ!?なんで、どうしてぇ!?
「だって、バレバレでしたし?だけど、真人様が可哀そうだしそっとしておいてあげてって……」
「優しさが痛いっ!」
頭を抱え思わず天を仰ぐ。というかー!何で誰も教えてくれなかったんですかぁー!
「いい子そうだしそのまま放置でって皆さんおっしゃられていますね」
「良い子そうて……。はぁ、みんなお人よしすぎるよう……」
プカプカと湖にあおむけに浮かぶ。波も無く、穏やかな湖は少しひんやりとしていてとても気持ちがいい。でも、何で唐突に話してくれたのかな?タイミング的に今じゃなくてもよかったと思うのだけど。
「オウカ様と仲良くなられていましたので、そろそろ自分の立場を決めて欲しいと真人様が」
「それで少し離れたところでタイミングを見計らってたわけですか」
そういえばロベリアちゃんも元々は偵察任務なんかを請け負う影のお仕事をしていたのだそうだ。だからこの小ささと可愛らしさで、勇者真人の信頼はかなりのモノ。というか、多分私よりいいお給料をもらってる気がする!
「私のお給料は据え置きなので置いておくとしまして。それで、どうなされますか?」
「ここで選択しろと?」
「はい」
選べと言われてもすごく困る。確かにアークルでの生活は楽しい。ご飯もおいしい。対して勇者側は、なんだか色々ときな臭いし、勇者は大体モノ扱い。魔物に犯されたり苗床にされたり、魔王側についたと知られて捕まったが最後。勇者教、本山の地下深くで魔石製造工場の一部にされてしまう。最近だと勇者を石にして持っているチートが使えるようにもなっているらしい。
……あれ?どう考えても勇者側にいる理由って無くない?
そもそもな話、聞いていた話からして違う。魔王とは人の心を持たず、残虐で悪逆非道。すべての人間の敵であり、与する亜人も同じく人が管理すべき種族であると向こうでは聞いていた。
でも結局のところ、魔王も亜人も人だった。私たちと何ら変わりがなかった。まぁ、どう考えても奴隷制敷いてる人の国も個人的にはヤバイところだなーと思ってるのはここだけの話だ。
「これと言って心残りが無いのが困りものですね……。はぁ、勇者側に戻ったところで擦り切れる未来しか見えないし……」
勇者教に裏切り者と指名手配をされてしまいそうだけれど、もう未練も無い。というか、教会で市に戻りして、いつの間にか入れられていた組織に未練も愛着もありようがないんだけどね!
「それでは!これからもうちで働いてくれるって事でいいんですよね!」
「ほぁ!お、オウカ様!?」
「突撃!隣の魔王です!」
夕ご飯かな?と突っ込みはさて置くとして、水も滴る美人で巨乳なオウカ様がにっこにことこちらを見ている。美しい銀色の髪の毛が水面の反射光で煌めき、その白い肌に相まって女の私でもうっとりとするほどに美しい。ぐぬぬ、綺麗だなぁ!
「それで、どうします?」
オウカ様は浮き輪に肘をついてこちらをじっと見つめる。首を小さくかしげているところも可愛いのがズルイ!
「はぁ……。オウカ様の元でこれからも働かせてください。というか、このタイミングだとお断りしたらここに置き去りになっちゃうじゃないですか!」
「ああ、そこは大丈夫です。そこも聞きましたが、普通にそのままでいいんじゃない?と真人様が」
ロベリアちゃんの言葉を聞いて振り向くと、いつの間にかもう一匹マスマスを捕まえて縄に縛っていた。魚とりが上達してる!?
「……ま、真人様って優しすぎない?」
「そりゃあ、まーくんですから!」
自慢の旦那様です!とにっこりとオウカ様がほほ笑む。ああもう、私この人には勝てないや。
「あと一つだけ、気になる話を聞いたのですがよろしいですか?」
「ん、何かなロベリアちゃん」
「アークルの警備をしてるマシンゴーレムを何だか怪しい目で見てるところを多く見受けられたとお聞きしたのですが、そこの所どうなのでしょう?」
――見られていた。くぅぅ、女の子なのにロボ好きって変な趣味だからバレないように気を付けていたのに何でかな!?
「だからバレバレです」
「なーんーでぇー」
よよよ、と私は顔を覆う。ああ、駄目だ。せっかくオウカ様と仲良くなってきていたのに……。
「良いですよね、ロボ!ええ、特に合体変形はロマンです!」
「うんうん、すごくいいです。どう考えても抱えてるだけな合体で、どこから出てるかわからないビームな攻撃もとっても好き――はっ!?」
思わず反応してしまった。けど、え?オウカ様?
「ナナちゃん、私たちきっといい友人になれると思うんです」
「まさか、オウカ様も……!」
思わぬ展開に私たちは思わず手を取り合います。ああ、まさか!まさか異世界で友を見つける事ができるだなんて!
「……なんでしょう、これ」
呆れ顔で何だかジトのロベリアちゃんをはた目に私とオウカ様は固く友情を結んだのでした。
いつも通り今日も今日とて遅くなりm( ˘ω˘)スヤァ