25話:緑茶にお砂糖は微妙なのに甘い抹茶のお菓子はとっても美味しく感じるのって不思議だよね?
男二人でショッピングを楽しむ女性陣をはた目に見ながらお茶をしばく。
女性陣の長い長いお買い物に我慢できずに、スタコラと羅刹さんと逃げ出してきたのはここだけの話。
うん、いい茶葉使ってるなぁ!
こちらの地方でも茶葉の生産は積極的に行われており、今回の輸入リストに入っていたりする。しかし、普通の茶葉ではない。シルヴィアの所の領では作られていない碾茶……つまりは抹茶の生産が行われているのだ。
「茶はこっちの地方の名産なのだよ。抹茶の甘味は勇者たちには特に人気があるからな!」
生産量も多いが消費量も多いため、価格は一般市民でも手の出せる価格に落ち着いている。しかし、この碾茶を生産している国は俺の知る限りでは修羅の国のみ。つまり、丸儲けなのである!
「抹茶はいい……味も香りも、渋みや苦みすら魅力だ。飲むだけでなく混ぜて良し、調味料にすらできる。何より健康にもいいしな!まぁ、その良さを知っているのはうちの国と勇者たちだけなのだが」
ふふふ、とため息交じりに羅刹さんが遠くを見る。
この異世界で流行っているお茶は紅茶。どうやら抹茶独特の苦みがまだこっちの世界の人々に受け入れられていないらしい。
「それでもまぁ、利益が出る程度には輸出できているんだがな。勇者の国がバンバン買ってくれるし」
どうやらユウシャたちは故郷の味に飢えているらしい。だがら、醤油やみそなんかの調味料も売れる。その感覚で商人たちがやって来たので、値段交渉と言う名の根切交渉で適正価格へ落とし込んだのはここだけの話。うん、街で売っている価格の十倍とか吹っ掛けてきたからね!どう考えてもぼったくりだよ!
「ま、まぁ、うちの領の連中は商魂たくましいからな……」
「流石は関西弁風の方言使ってる地方だなって思いました」
あの町は観光都市と言う名の商人の町だった。あの町で生活すること自体が仕事と捉えているかのような雰囲気なのだ。その生活様式そのものを見せる事が観光となる。
だからこそ、この国に来ること自体をユウシャ達は楽しみにしているのだ。民草みんなでOMOTENASIの精神満載だからね!その代わりとして少なくないお金を落とす必要はあるのだけれど。
「物事には対価が必要だから仕方ないな。それが商売というものなのだから」
「ごもっともな話で」
アンコがたっぷりと乗った草団子を口に頬張りつつ、茶をすする。ああ、こうのんびりした時間ってすごくいい……。
「はぁ、ここまでのんびりできたのはいつ以来か……。最近は鬼族の首魁が俺を斃そうと躍起になっていてなぁ……」
「首魁って、羅刹さんがそうなんじゃなかったんですか?」
てっきり羅刹さんがこの国の魔王なのだから、鬼族の長なのだとすっかり思っていたのだけれど、違うらしい。
「ああ、俺は流れ者でな。各地に修行の旅に出たのちに魔王決定の儀を受けて魔王となったのさ」
そして、その魔王決定の儀にて最後に戦った男こそ鬼族の長――朱纏という男だった。
「強い男だった。尤も、俺の方がもっと強かったのだが……どうやらあの戦いに納得がいかなかったらしくってな。幾度も再戦を申し込まれたが――すべて返り討ちにしてやった」
どうやらそのせいでその男に相当な恨みを買ってしまったらしい。
「――恐らくはあいつはアラガミと通じている。うちの影連中に探らせたところ、最近怪しい動きをしていると掴んでいたのだが、如何せんアラガミの連中の動きが予想以上に早くてな」
「いや、あれは想定できないと思いますよ」
そう、どう考えても想定できるわけが無い。普通の一般人に扮し他誰かが唐突に爆弾抱えて突っ込んでくるのだ。狙いは俺だったけれど!
「恐らく、伊代が今日死ぬと言う事もアラガミは知っているのだろう」
「朱纏とやら」
しかし、その化け物というのがいまいち何なのかが分からない。犬なのか蛇なのか熊なのか、はたまたドラゴン的な奴なのか。うん、虫という線も捨てきれないんだよ!
「それが何なのか迄は俺にもわからん。だが、喰われるという所までは確実に起きる。あの子が確定と断言した予言はまず外れる事が無い。それが予言の巫女というモノだからな」
はは、と乾いた笑い羅刹さんは額を手で抑える。
「……救えるものなら救ってやりたい。だが、恐らくはその化け物は俺を殺すために朱纏が用意する化物だ。巻き込まれて喰われるのか、狙って食わせられるのかはわからん。だが……俺では救えない」
恐らくは、その予言を知って羅刹さんも伊代ちゃんを救おうとしてきたのだ。
――しかし、その確定された未来を変えるまでに終ぞ至ることができなかった。
「だから、今日一日だけは楽しんでもらうつもりなのだ。あの子は有事の際以外は東堂から出る事は今までなかったからな。せめて、最後のこの日だけは……」
だからこそ、俺たちと一緒に連れてきたのだそうだ。
たとえ、都に遺してきたとしてもその未来は変えられないのならば、と。
「最後にはさせませんよ。その為に俺も俺の嫁さんもいるんですから」
猶予ならまだある。それに、その予言には隙もある……気もしないでもないし?
「そう……か。うむ、決めた。もしお主が伊代を救う事ができたならば嫁にくれてやろう!」
「うん、うん?いや、意味が分からないんですけど!?俺ってば奥さん沢山いますよ!?」
「はは、何を言う。今更一人や二人増えたところで変わりはせんだろう」
いやいやいやと手を横に振るもどうやら取り合ってはくれないらしい。う、うん。それはさておき伊代ちゃんを助ける事だけ考えるとしよう!
今日も今日とて遅くなりm( ˘ω˘)スヤァ




