17話:神社で賽銭は気持ちでいいというけれど勝負所の時はお札を投げ入れたくなるものだよね?
疲れて眠るサクラちゃんを分身の膝枕に任せて、俺は東のお堂へ向かう。
狙われている原因が俺と東のお堂にいる伊代ちゃんなのだとすれば、早く合ってしまって済ませてしまえばいいと考えたわけなんだけれど。
「怪しい奴め!」「処す?ねぇ、処す?」「ぐるるる……ばうわう!」
と、何だか怪しまれて数十人に取り囲まれてしまった。うん、アポイントはとっていないけれど、逢って欲しいと言われてきたのにこれはちょっと悲しいなぁ!
「中にどうにか入らせてもらいたいんだけど……駄目ならシカタナイネ!そういう訳で俺はこれで――」
「帰すと思うか!この変質者め!」
「そうそう、巫女様の心配事はここで消しておかないとね……?」
「わう、ばうわう!」
しかし回り込まれてしまった!うーん、犬耳のおっちゃんが犬語しか話してくれないんだけど、離せないのかな?
「いえ、威嚇してるだけで候」
「なるほど」
キリっとした顔で返され、思わず手を打ってしまう。うん、ふざけてるのかと思ってしまってごめんよ、おっちゃん。
「さぁ、尋常にお縄に――」
「いやいや一日二度もお縄につくのはどうかと思うんだ。そういう訳で?うん、然らばごめん」
ボフンっと煙玉を弾けさせ、風と共に消え去る。
「アイエエ!?ニンジャ!ニンジャナぁぽぅ!?」
ワンコのおっちゃんが何やら言ってはいけないセリフを吐きかけたところでそっと当身で気絶してもらう。うん、俺悪くない!
さて、表門から正々堂々と入りたかったところだけど、どうやらそういう訳にもいかなくなってしまったらしい。それにしても何で話が行ってないかなぁと、石垣と白壁をトンタンと駆け上がり東のお堂の敷地内へと降り立つ。
山際に立てられたこの東のお堂は、つまるところ山の社のようなもの。長い長い石畳の階段が敷き詰められ、その上に幾つもの鳥居が敷き詰められていた。――あ、これこのまま上がっても駄目な奴だ。
この鳥居は言ってしまえば結界。鳥居をまっすぐに通り抜けて上がらなければ目的のお堂にたどり着けないようになっているのだ。
だからすたこらサッサと入り口まで走り戻って、さっきのおっちゃん達が正門を開いた瞬間を見計らってそろっと中に入りなおす。面倒くさいけれど、こうしなければ上にはたどり着くことができないからしかたない。
「きゅうん……。まさか不意を突かれるとは……。うぬ?今何か通らなかったか?」
「何言ってんだ、おっさん」
「処す?ねぇ、処す?」
後ろに聞こえる声を後に、俺は今度こそ鳥居に囲まれた石段を駆け上がっていく。先ほども述べた通り、鳥居とは結界の一種だ。それを通ることにより、異界へ異界へと進んでいくのだ。神域へ至る道と言っても過言ではないのだけれど、俺の元居た世界では見立てとして設置されていたことがほとんどだったりする。うん、流石に本当の意味の鳥居を千本も通ったらやばいところに出そうだしね!
そして、ココは異世界。このいくつも並んだ鳥居は――どうやら本来の意味に近い結界だったらしい。
「神域、か。いやはや転生してまでこんなところに来る羽目になるなんて思いもしなかったんだけどなぁ」
ため息を吐き捨てて、思わず独り言ちる。
何度も言う通り、俺は巫子だった。
神に仕え、神に奉仕し、神にいずれその全てを供物として捧げられる存在だった。
だからこそ識っている。理解できる。
ここは神聖な場所なのだと。この中にあるナニカは神に等しきナニカなのだと。
……うん、帰っちゃダメかな?そう思った瞬間にギィと正面の扉が開く。神に隠し事なんて不可能。つまるとろ、ここに来た時点でただで帰ることはできないと言う事だ。ふふ、いやんなっちゃうね!
もう一度大きなため息を付き、お堂の中に足を進める。
木造でできた古いお堂。しかしながら、中はホコリ一つ無く綺麗に保たれているようだった。誰かが掃除を頑張っているのだろうか。
「ええ、私が一生懸命に――掃除をさせていただいております。基本的に、ここに住んでいるのは――私一人だけ――ですので」
待ち構えていたかのように、奥の拝殿で巫女装束姿の少女――伊代ちゃんがいた。
「うん、朝ぶりだね。色々と話を聞きに来たのだけれど――」
「はい。お待ちして――おりました。まずは――どうしてここに呼んだのか――御知りになりたいのですよね」
こちらの考えを見透かしたかのように柔らかに微笑む。く、嫁さんに負けず劣らずの美少女!……うん、違う。違うぞ!浮気じゃないぞ!何でサクラちゃん俺の分身の足をつねってるのかな!痛いな!
「コホン、それで、理由っていうのは……え、なんで?」
心臓の音が鼓膜を突き破るように高く、大きくなっていく。混乱で、思わずあとずさり、胸の奥から胃が飛び出そうになる。
何で、何でこの人がここにいる。
「――彼こそが、この修羅の国の建国の父であるから――です。彼は――今から五百年も昔にこの地に降り立ちました。そして、争いの絶えなかった――この地を御身のみで平定したのです」
あまりの奇天烈ぶりに、乾いた笑いしか出ない。けれども、それが彼なら――我が師であればその言葉も信じられてしまう。
それが無限流先代継承者。俺の師であり、忍者であり、俳句の好きの変わり者の――
「そして、ご存じ――なのですよね?彼――ハセヲ様の事を」
俺の見上げるその先。納められているのは小さな箱のようなものだった。
――即身仏。
俺の師匠だった人は――物言わぬ……正しく仏となっていた。
一応念のために。
この作品は実在の人物や団体などと関係はありません。
そういう訳で今日も今日とて遅くなりま( ˘ω˘)スヤァ