14話:映画で逃走しながら建物をぶち壊していくシーンがあるけど賠償費用を考えるととてもリアルじゃあやれないよね?
新緑に色づいた山々は美しく、空には高い声で鳴く鳥が舞う。何とも清々しい朝の小川沿いの小道を私とまーくんは手をつないで歩きます。
「ううん、川の整備が綺麗にされてるなぁ。河川の増水を想定して掘り下げもされてるし、貯水池へのバイパスも通ってる。上下水道整備してあるって聞いてびっくりしたけれど、俺のいた国じゃあ下水の整備はされてなかったんだよね」
「まーくん、お仕事の話になってますよ?」
ぎゅっとまーくんの腕に抱き着くと、なんだか照れくさそうにまーくんは鼻先を掻いて「あちゃぁ」と苦笑いをします。今もまだ旅館でまーくんの本体はお仕事中。今私といてくれている分身の中身はその働いているまーくんなんです。つまり、働きながら、他のみんなとデートしながら私と一緒にいてくれてるわけで。
「……はぁ、またまーくんに無理してもらってますね……」
「気にすること無いよ。これが俺の役目だし、俺の頑張りが領のみんなの幸せ、強いてはサクラちゃんのフレアの、シルヴィアの、ビオラちゃんの幸せになるんだ。だから手は抜けないんだよ」
そう言ってにっこりとほほ笑んでくれます。ああ、もう、なんて私は幸せ者なんでしょう。こんなにも素敵な人に旦那様になっていただけたのですから!うん、私も何かの形でお返ししならないのですが……。
はぁ、昨日は初めてをまーくんに捧げようとして失敗しました。ううん、今までより一歩進んだ関係になれたという点では良かったのですが、まーくんに居たいのなら準備をしっかりとしよう!と言われて――気付いたら朝になっていました。なにか、ものすごい事をしてもらったような気がするのですが……うん、きっと旅の疲れが出てしまったのでしょう!きっと思い出すだけでまーくんのお顔をまともに見れなくなってしまいそうですし!
「どうしたのサクラちゃん?なんだか顔が赤いけれど?」
「にゃ、にゃんでもないです!」
けれども、それだけで私の顔は赤く染まっていたそうで、まーくんに心配されてしまいました。うう、恥ずかしい……。
「こ、コホン。それにしても平和な街ですね」
「ん、だね。他の領も見て回ったけれど、ここまで整備されてる国は珍しいよ。あと、うん。しょ、商魂逞しいのも珍しいかな!はんなり京言葉風の方言で詰め寄って来るし、普通にマネちゃんっぽい関西弁のおっちゃんも多かったなぁ。というか、和風国というより関西系国というのが正しい気がするんだ。たこ焼きあったし!お好み焼きは関西風だし!」
まーくんがなんだかとっても大きなため息をついています。詳しく聞くとまーくんの故郷の国のカンサイという所に色々なものが似通っているのだそうなんです。
「たぶん、こっちに根を下ろした勇者が関西系で色々と広めたか、都なら京言葉だろう!とかそんなノリで広めたんじゃないかな!うん、関西人気質までマネしないで欲しかったな!くぅ、本当に銭勘定の上手い……!」
どうやらまーくん本体の商談が難航しているみたいです。だ、大丈夫なんです?
「ん、基本的にはこっちに利益があるから大丈夫。それでも尚と乗っかって来るのが修羅の国のおっちゃんたちでね……。うん、又お仕事の話になってるね。お茶屋で休憩しよう!」
そう言って私の手を引いて手近にあった茶屋に入ります。
私が注文したのはお茶とお団子三本。三色団子という可愛らしいお菓子でした。
「ピンクと緑と白……ふふ、なんだかカラフルで美味しそうです」
「お団子は茶屋の定番だからね!三色団子はシンプルだけど可愛くて美味しいんだよ」
そう言いながらもまーくんが頼んでいるのは私のとは違うもの。何だかカラメル色の綺麗なアンが上にかけられていました。うん、それは何というのでしょう?
「ああ、これはみたらし団子だよ。葛でとろみをつけたお醤油とお砂糖のあんを焼いて絡めた逸品だね。醤油を使った古くからあるスイーツなんだけど……うん、一ついる?」
「はい!ぜひ食べてみたいです!」
「ん、それじゃあはい。あーん」
と、付き出されるみたらし団子。こ、こんな往来であーん!うう、とっても嬉しいけれどみんなに見られてそうで恥ずかしいです!けれど、こんなシチュエーション中々ありませんし……。え、ええいままよ!お母様も言っていました。女は度胸です!あ、あーん……、と髪を耳辺りで押さえてまーくんの串にかぶりつこうとした、瞬間でした。
突如障子ガラスを突き破って何か黒いものが投げ込まれたのです。え、一体何が――
「はぁ、こっちもか」
まーくんの大きなため息が聞こえたと思うと、その黒い何かはまーくんの放ったお団子串に弾かれて、投げ込まれた外へと戻っていき……ポンという音と「ひぎぁ!?」という声が辺りに響いたのでした。
え、え?いったい何が起きたんです?
「襲撃だね。うん、どうやら何でか俺が狙われているらしい。はぁ、全くもうどうしてこう旅行にトラブルがつきものなのかな!それより、俺とサクラちゃんの楽しい思い出に味噌をつけてくれたのはどこのどいつなのか、うん。キリキリ吐いてくれるかな?」
いつの間にかもう一人増えたまーくんに犯人らしき黒装束の人が捕まっていました。なんだかコゲコゲで血まみれになっていますけれど……どうやらまだ死んではいないみたいでした。
「ぐ、ぅ、我が、神、よ――」
「うん、もう奥歯の起爆スイッチは抜いたからその神様について教えてくれないかな?」
黒装束の男は目を見開き、驚いた顔を見せます。奥歯にスイッチってご飯を食べるときに押しちゃったりしないのでしょうか……。
「ふ、ふふ、流石は勇者真人、だ。だが、貴様は滅びなければ、ならぬ。我が……神の為、我ら……アラガミは貴様をかならず、や……」
言って、カクリと男は動かなくなってしまいました。どうやら気絶してしまったようです。
「はぁ、まったくもってはた迷惑な……」
ポイと男を放り投げ、もう一人のまーくんは煙と消えます。周りの人はそれを見て、ああなんだいつもの興行かと興味をなくした様子で普段の生活に戻っていきました。
「ともあれ、もう少しのんびり観光するかな」
「え、え?いいんですか?」
唐突に命を狙われたのですし、もう旅館でおとなしくするべきだと思ったのですが……。
「うん、旅館にいても狙ってくるからね!それならもう気にせず普通に観光デートしちゃった方がいいかなって。というか!こんな訳の分からん奴のせいで俺とサクラちゃんとの新婚旅行デートを潰されてたまるかってね!うん、次は見晴塔を眺めに行こう!」
どうやらまーくんの決意は固いらしく、このままデートは続行のようでした。
「……で、店の修繕費、払ってくれんのかい?」
「いや、あれは俺のせいじゃ……」
「払ってくれるんだよな?」
「あっはい」
強面の茶屋の主人さんに、まーくんは泣く泣く修繕費を渡したのでした。だ、大丈夫でしょうか……?
とってもとっても遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ