10話:温泉旅館に行ったら朝・朝・昼・昼・晩のあと寝る前にももう一度入るのって普通だよね?
ライガー一緒にお風呂に入ろうぜ!とライガーの部屋に顔を覗かせたら、理不尽に飛んできた湯飲に入った熱いお茶。
まぁ、お茶を零すことなく受け止めたのだけれど、何でか顔真っ赤の涙目で今度は急須を投げつけられたのでこれまたうまく受け止めた後、すごすごと一人で大風呂に向かっている次第である。
ううん、一体どうして駄目なんだろう?今まで大魔王城の温泉に何回か一緒に入っているのになぁ……。
うんうんと唸りながら別邸にある温泉への渡り廊下を歩き、男湯を確認して大浴場へと入る。
室内風呂に幾つかの露天風呂。ジャグジーにサウナまでついていて、まるで温泉施設のようである。うん、ゆず風呂には入ろう!
中に入ると伽藍洞で誰もいない。そういえばついてきた男らは食事までの間、軽くこの辺りを散策してくると言っていたっけ?つまり貸し切りだから俺一人でこの広いお風呂を独占できるという訳だ!
体と髪をサクッと洗い、まずは室内の大浴場に浸かる。程よい温度に満足しつつ、魔石を使った電気風呂にほおを緩ませる。うんうん、向こうの世界でもこんなのあったよ!次に、ピンポイントに落ちてくる滝風呂を体験し、最近死んでも取れない肩こりをほぐしていく。そしてサウナに入り、温まったところで水風呂へダイブ!
ああ、気持ちええ――この施設、うちの領にも作りたいなぁ――と考えて、頭を振る。残念ながらうちにはこれほどの湯量を賄える温泉は湧いていない。うん、諦めて近場のヴァルカスへ行って入ることにしよう。尤も、あちらはここまでバリエーションが豊かではいのだけれど。
それではラストは露天に浸かりつつ雄大な山々を臨む景色を楽しむことにする。位置的に階段を上ったところに設置された露天風呂は先に話した偽富士山をまさに独り占めという豪華さであった――が、どうやら先約がいたようだ。うん、おかしいな?男どもはみんな出かけてて、ライガーも来てくれなかったはずなんだけど――
「お待ちしておりました――真人様」
そこにいたのはおかっぱボブで艶やかな黒髪に赤い牡丹の髪飾りを付けた色白の和風な雰囲気の美少女であった。
……女風呂!ゾワリと顔が青くなり、くるりと反転。高速で隣に行こうと逡巡する前に――
「ふふ、ここは――男風呂ですのでご安心ください」
と、少女に俺の勘違いを訂正してくれた。
なんだ、俺の間違いじゃあなかったのかと思うのと同時に、何でこの子ったら堂々と男風呂に入ってるんだろうと頭の中で駆け巡る。
まさかとは思うけれど、この美少女っぷりで男の子だったりするのだろうか?いや、確かにそういう事もありえなくもない。男であっても線が細ければ女性に見えなくもない事も無いからだ。うん、ライガーだってその一人だしね!
「ああ、ちなみに――私は女ですので――ご安心ください」
陶磁器のような肌をポッと上気させて少女がたおやかに微笑む。
うん、それは安心するところなのだろうか?俺もそうだけど、男が入って来たらどうするつもりだったのかな?
「問題ございません――真人様だけがくると――わかっておりました故」
そういう問題なのかなぁと思うけれど、体が冷えてきたのでいい加減お湯に浸りたくなってくる。
「ああ、申し訳ございません――このままでは風邪をひかれてしまわれますので――どうぞ、湯船に」
微笑みながらとんでもない事を言ってくる美少女である。うん、知らない女の子と混浴だなんて新婚さんにはハードルが高いのですけれど!
「ふふふ、奥様たちを――大切にされていらっしゃられるのですね」
「当然。愛してますから。それで、君は誰なんだい?」
せめて足だけは湯船につけて、当然の質問を彼女へぶつける。
「はい――私は伊代と申します。この地で古くより続く――今代の予言の巫女です」
予言――。この世界にもあって然るべきとは思っていたけれど、どうやらその実例らしい。
「でも、その予言で男風呂に一人で入りに来るのはどうかと思うなぁ、ぼかぁ!」
「ふふ、でも――そうでもしなければ――貸し切りのお風呂を――楽しめませんでしたので」
この伊代ちゃん、おっとりとした見た目に反して、かなりのちゃっかりもののようだ。
「それで、どうして俺の事を待っていてくれたのかな?」
「明日、お逢いするには――ここでお逢いする必要がありましたので」
どうやらそれも又予言だったらしい。でも、お風呂で逢う必要なかったと思うんだけどな!と言ったら伊代ちゃんは目を泳がせてああ、いい景色ですねぇなんて言いだした。この子、お風呂を独り占めしたかっただけだよこれ!
「明日、ねぇ。どうして明日俺に逢う必要があるんだい?用事があるならいまここで言ってくれればいいのに」
「真人様に初めて逢う私の話を信じていただくに、相応しい場があるからです」
言って伊代ちゃんが、風呂からからだを上げる。うん、待って、待とう!見えるから――と焦ったのも一瞬。どうやら彼女、水着を着ていたらしい。ひらがなで「いよ」なんて可愛らしく書いてあるスクミズなのは突っ込みどころなのか迷う所なのだけれど。
「明日、東堂で――お待ちしております。私の――運命のお方」
桃色に染まる頬でそんなことを言って、伊代ちゃんは去って言った。うん、あんなに可愛い子にそんなことを言われたら男であれば、誰もが勘違いしてしまうだろう。だけど俺は既に既婚者。嫁さんが四人もいる。そう、だからこれはただの生理現象。うん、俺のリボルゲインさんがタオルでぎりぎり隠せていたと思いたい。きっと隠せていたよね!だ、だよね?冷や汗を感じつつ、今度こそ露天風呂につかる。
――ああやっぱりいいお湯だ。
けれど、彼女が本物の予言者なのだとすれば一体何を俺に伝えると言うのだろうか?
俺の行く末か、それともうちの領の行く末か。どちらにせよ、俺に行かないという選択肢は残されていないようだった。
今日も今日とて遅くなりましたOTL
まさか寝落ちするとは……うん、二度寝しま( ˘ω˘)スヤァ