9話:温泉の源泉かけ流しって聞くだけでなんだか贅沢な感じがしてとても良いよね?
ようのやっとで宿について息をつく。
この紅葉という高級旅館は羅刹さんの息のかかっているお宿と言う事で巷ではかなりの高級旅館として有名なのだそうだ。
部屋も一流なら料理も一流。窓の外から見える景色は美しく、夏の終わりには風物詩の太文字焼きというものが行われるらしい。……どう考えても大文字のパクリだよね?うん、何で太にしたのかな?とても不思議でならないんだけど!
「異世界の文化を根付かせるときに間違って伝わったのか、はたまた伝えた人がわざとそんな風にしたのか今となっては謎でしかないね」
ううん、確かにシルヴィアの言う通りなんだけど、俺にはどうにも伝えた人間の悪意を感じるんだよね。この文化遺した奴って相当に性格悪いよ?絶対にわかっててやってるね!
「それにしても、ボクはこういう宿に泊まるのは初めてだな。リョカンっていうんだっけ?」
「あれ?シルヴィアってヴァルカスに行ったことなかったっけ?」
「立ち寄ったことはあるけれど、宿泊はしなかったからね。自慢の温泉宿には泊る機会が無かったのさ」
そうなの?とフレアを見上げると、うんうんと頷いていた。どうやら本当に立ち寄ったことしかないらしい。
「それはまた勿体ない。ヴァルカスの宿はどこも料理が美味いし、温泉もすこぶるいい湯なのに」
「うん、銀の料理は世界一だと己は思う」
「って、急に戻らない!バランス!」
頭の上で急に人型に戻るモノだからあわててお姫様抱っこで受け止める。うん、なんだかフレアは嬉しそうだけど危ないからね!
「んふふ、真人なら受け止めてくれるって知ってるから」
そう言って俺の首に手をまわしてスリスリとほおずりしてくる。ああも可愛いなぁうちの嫁さんは!
「ああ!フレアちゃんズルイです!お風呂を覗きに行ってる間に!」
「お先にお風呂いただきました」
ホカホカと血行の良い顔になって林檎のほっぺなサクラちゃんとビオラちゃんが温泉から戻って来たようだ。淡い色の浴衣を羽織っていて妙に色っぽくて可愛い。うん、最高に可愛いよ二人とも!
「えへへー♪とってもいい湯で思わず長湯してしまうところでした」
「まさか旅館丸ごと貸し切りにしていただけているとはビックリでしたけれど」
そう、この超高級旅館はなんと俺たちの滞在する間、完全貸し切りなのだ。実際にお金払ったら幾らになるのかな?うん、あんまり深く考えないでおこう……。
「家族風呂なんてものもありましたよ?大浴場は皆さんと一緒に入りますが、家族風呂は個室風呂みたいでしたね。なんと、ヒノキの湯だそうです!」
「ヒノキか。確か香りのいい木材だったね」
「うん、己も好きな香りだ。真人、一緒に入ろう」
「「「!!!?」」」
フレアの言葉に一斉に三人の視線がこちらに突き刺さる。
家族風呂――つまり、家族であれば混浴が許されるという空間である。もちろん中で何かしらやらかしたらとっても怒られるのは必至ではあるが、家族団らんの為の空間であることは言うまでもない。
だけど!新婚で、奥さん四人で入るのはちょーっとハードルが高くありませんかね!
「大丈夫。真人とは何度も入ってるし」
「「「!!???」」」
た、確かに入ってるけどね!主にモフモフ形態で。だから、何だかジト目でズルイオーラが出てる三人をなんとかなだめて欲しいな!うん!無理かな?無理だな!はい、ごめんなさい!!
「ま、まぁ、まだ日にちもあるし、家族風呂は後日にでも。二人はもう入って来たところだしね?」
「うう、そういう事なら大浴場の誘惑に負けるのではありませんでした……」
「でも、お風呂上がりの抹茶牛乳はとっても美味しかったですよね?」
確かに美味しかったけどーと頬を軽く膨らませているサクラちゃんをビオラちゃんがなだめてくれる。
しかし、抹茶牛乳か……。お茶ならうちの――シルヴェスでも作っているからできなくもないけれど、お風呂上りに飲むものとしてはちょっと気にならないでもない。うん、楽しみにしておこう!
「晩御飯の会食まではまだ時間があるんだっけ?」
「ああ、十九の刻限を過ぎたあたりだからまだまだ時間があるね」
なるほど、それなら俺もひとっ風呂浴びてのんびりしてくるとしよう。各部屋に突撃して遊びたいしね!
「はいはい、やり過ぎないようにな?」
「とりあえず、隣のロベリアちゃんに一言いってから入りに行くとするよ」
なんだかんだと言って、俺がいないと不安がっちゃうみたいだしね。うん、今日も一緒に寝てあげたいけど、残念ながら今日は奥さん孝行をしなければならんのです。
そう、今日こそ俺の童貞を捨てる時――!
けれども、どう考えても初めてで四人を相手にするのはレベルが高すぎるんだけどね!い、行けるのか?やれるのか、俺!
うん、考えても仕方ない。下手の考え休むに似たり。脳細胞がトップギアでも、考えるのを辞めているようなものだからね!お風呂に入ってこのモヤモヤを振り払ってくるとしよう。
「そういう訳で行ってくるねー」「ねー」
と、行こうとしたら何でかシルヴィアに止められてしまった。うん、一緒に入るの?
「それは明日だろう?……な、フレア?」
「……バレた」
ダメかーと言う顔でいつの間にやらモフモフモードで再び俺の頭に収まっていたフレアが、シルヴィアに抱きかかえられる。ふふ、いつもの事でそのままスルーいしていくところだったぜ……。
「早く戻ってきてくださいねー」
「フルーツ牛乳もおいしそうでしたよー」
そうして嫁さん四人に見送られて俺は大浴場へと向かうのであった。うーん、一人で入るのもアレだしライガーでも誘ってみるかな?そうしよう!
親知らずが痛いと思って歯医者に行ったら、親知らずが手前の歯にえぐりこんで虫歯にしていた恐怖でした。はい、遅れて申し訳ありまs( ˘ω˘)スヤァ