2話:大船に乗ったつもりでいてくれると言われると何だか氷山にぶつかりそうな気がして怖いよね?
そもそも、新婚旅行にに行こうという話になったのはつい最近の話だった。
うん、いつか修羅の国には行ってみたいなーと思っていたところだったんだけれども、なんと椿さん経由で招待状が届いたのだ。
こちらとしても、修羅の国との交易を増やしたいと考えていたところだったので渡りに船。
――そう船だ。
ちょうどいい事に、今乗っているこの船――グランシップ・ブレイブティアーズが完成したこともあって、予備運航のついでに修羅の国へ行ってしまおうということになったのだ。
幸いなことに、船内は高級ホテル並みに宿泊・食事・レジャーが楽しめる複合施設を完備しており、なんと船上プールまであったりする。
「ふ、ふぅう、あともう少し、もう少しで出るの、だからあと、あともういっかいだけ……」
「ダメダメ、絶対やめた方がええって!」
「でるの!絶対に出るのぉ!」
いやんいやんと首をふり、お財布片手にカジノに突っ込んでいこうとしているのは姫騎士でありルナエルフのサラさんだった。必死に止めているのは同じく姫騎士でドワーフなマネちゃんである。うん、どうしたのかな?
「ああ、真人さん丁度良かった。サラさんを止めてくれんか?うちが言うても全然聞いてくれんのや」
「止めるって……え、一体いくら使ったの?」
俺の言葉にサラさんがフイと視線を天井に向ける。
「……半分」
「え、きゅ、給料の?」
「ぜんざいさんの」
うん、止めよう。しめやかに止めよう。たしかサラさんは将来のためにとかなりの額を貯金していたはず。それの半分というと、前の世界で言えば軽く車が買える金額。いやいや、どれだけつぎ込んでるのさ!
「取り戻さないといけないの!だから、おーねーがーいぃぃぁあああ!」
涙目のサラさんを無理やりに船室に押し込めて、ふぅと息を吐く。
今回の旅では姫騎士のみんなと、勇者三人娘、一部のメイドさんたちにも慰安をこめてついて来てもらっている。まぁ、うん、まさかこんなことになってるとは思いもしなかったんだけどね!
「いや、まぁあそこまでのめりこんでるんはサラさんだけだからな?」
「それにしてもつぎ込みすぎじゃあないのかな?誰か止めたりとか……」
「……気づいたらこんなことになってたらしくってなぁ。もう少し、今度こそ勝てるとつぎ込んで……」
話を聞くだけでわかる。これっていわゆるギャンブル依存のソレだよね?最初は少額で満足していたけれど、やっているうちにスリルを求めて高額になっていって、最後には給料も貯金も家も財産も、親兄弟に友人すらも売り払って、気付けば手元には自分すら残っていないって言う……。
「何それ怖い!?」
「はぁ……。流石に止めておかないとなぁ……。サラさんが身売りすることになったら目も当てられないし?同じような被害者が出ないとは言いきれないからね」
そう言って財布の中身を確認する。……中には林檎を買えるくらいの金額。うん、行けるな!
「いやいや、行けるやあらへん!全然あかんやん!無いやんお金!というか何でそんなに少ないん!?」
溢れんばかりの突っ込みをマネちゃんが浴びせてくれる。ふふ、流石マネちゃんだね!え、お金がない理由?ケコーンして、お給料がお小遣い制になったせいでね……気づいたら使えるお金がぐぐーんと減っちゃったんだよ……。ぐーんじゃないんだ。ぐぐーんとなんだ!……侘しい……。
「あ、あーうん、なんやすまんかったなぁ……。せやのーて!そない少ない金額で何する気なん!」
「んー、多分コイン一枚分?だし、まずはスロットかな?」
いやいやいやと、あぜんとした顔でマネちゃんが首を振る。
「一枚って一瞬やん!それで何ができるって――」
「まぁまぁ、ここは俺に任せておいて」
そう言って、俺とマネちゃんは船内カジノ・ミリオンコロッセオへとやって来たのだった。
カウンターのウサギ族のお姉さんにクスリと笑われながらチップ一枚と交換し、スロットに座る。うん、この台でいいかな?
「せ、せやからな、真人さん?それだけじゃ――」
止めるマネちゃんの声を後ろにコインを入れてスロットを回す。押すタイミングは適当に。運に任せてタタターンと押してしまう。
――瞬間、スロットの画面が光り輝き、ジャラジャラジャララと大量で莫大なコインが降り注いできたのだった。うん、まぁ最初はこんなものかな?
「じゃ……ジャックポット……?」
あぜんとした様子でアングリとマネちゃんが口を開けている。だから言ったでしょ?大丈夫だって。なぜなら俺はものすごく運がいいから……ね?
ポーカーをやっても手元には必ずロイヤルストレートフラッシュ。ブラックジャックも負ける事は無く、ルーレットを回せば必ず当たり、クラップスと言われるサイコロを二つ振って出目を当てるゲームに行ったところで支配人に土下座されてしまった。
「も、申し訳ございませんお客様。お客様にこれ以上されてしまいますとほ、他のお客様が楽しめないと言いますか、その、資金が……」
「無いならこの店を賭けてもらうしかないねぇ。うん、どうする?」
にっこりと、俺は笑顔で支配人の顔を覗き込む。顔面蒼白、汗もひどい。うん、とっても申し訳無いけれど、船内の風紀と安全のためにもここはいち早くどうにかするべきだからね!どう考えても裏には――
「良いでしょう、その勝負――私がお受けします!」
「オーナー!」
ちょび髭な支配人の視線の先にはメイド服姿の綺麗な女性――そう、サテラさんである。
「うん、さらりと登場したねサテラさん」
「登場したね、じゃあありませんよ。せっかく誘致したカジノなのに、どうして潰そうとするんです!」
プンスカと腰に手を当ててご立腹な顔のサテラさんであるけれど、うん。この船って商船だからね?確かに豪華客船としても運用できるようになってるけれど、流石にカジノは……ねぇ?
「そうは言われましても運営費というものもありますし……何より資金が少しでもごにょごにょ……」
「え、何だって?そこの所詳しく聞きたいなぁ!」
「え、ええ!ともあれこれ以上はまかり通りません!真人様は出禁としま「本当にいいのかな?」……へ?」
俺の言葉にサテラさんの目が点になっている。
「この規模の店なら資金は大体把握できる。うん、俺の手元に来てる金はこの店の金の支払えるぎりぎりの額まで貰っているんだ」
「つまり、真人様を出禁にしても……」
「そう、どちらにせよ支払える金は微々たるものって事。当然倍率も絞らなければならなくなる」
つまるところは、カジノとしてはこの航海のうちは営業ができなくなるという訳だ。
「く、謀りましたね!」
「最初からそのつもりだったしね。うん、いいお小遣い稼ぎに……待った。何のために資金が必要だったのか詳しく、そう詳しくききたいんだけど?」
「あ、海賊船ですね!ちょっと対応してきます!」
「オーナー!?」
すたこらサッサとサテラさんは操舵室へと走って行ってしまった。
「え、ええと……」
「……うん、カジノじゃなくてカジノ風ゲームコーナーって事で再運営しようか」
そうしてカジノ・ミリオンコロッセオは見事、割と?健全なゲームコーナーへと姿を変えたのだった。
「これでええんかなぁ……」
「ギャンブルは身を亡ぼす。うん、いい教訓だね」
ゲームコーナーとなり果てたミリオンコロッセオの前では、貯金の半分を取り戻せなくなったサラさんが燃え尽きてしまっていた……。自業自得だから仕方ないね!
……まぁ、うん。なにかのお仕事の時に報酬として返してあげるとしよう。
今日は早めn( ˘ω˘)スヤァ