挿話:ドキ!女の子だらけのパジャマパーティー!~ポロリは無いよ~7
部屋一面に敷き詰められたふかふかのお布団にボクはおもむろに体を預けた。
陽の香りがふわりと広がり、柔らかな眠気をひそやかに誘い込んでくる。
うん、そろそろ寝たいのだけれど、もりもりにてんこ盛りなパンケーキを見るに、彼女らはまだまだ寝るつもりは無いらしい。く、夜食に夜更かしだなんて美容の敵だぞ、敵!
「確かのその通りなんだけど、一番それを意識してるのが元男って……」
「言うな。ボクはもう――諦めているんだ」
ライガの言葉にボクは思わず窓の外を見上げる。――空には三つの月。月はいつまでも変わらず輝き続けるのに、ああ――どうして人は変わらずにいられないのだろうか?
「いや、シルヴィアさんのように性別まで変わるのは極々稀だと思うよ?」
「知っているさ!知っているけれども言いたくなるんだよ!はぁぁ、もう何度だって言ってやる!どれもこれも姉さんのせいなんだ!昔から女の子はこうすべき、シルヴィが女の子だったらなぁっていったい何度女装させられて……いや、うん、忘れて、忘れてくれ……ボクは、忘れたい……」
顔を覆い、また深くため息をつく。真人に聞くと、幼少期の可愛い時期に母親に女装させられる男子は意外と少なくないらしい。まぁ、俺はしたことないけど!と言っていたので思い切りつねってやったけれども!ともあれ、ボクは姉さんたちにされた犠牲者。そのあとも事あるごとに姉さんのしていたことを同じくしていた。……そういえば美容パックって普通は男子はしないんだよね。うん、真人に聞いて初めて知ったんだけど!
「女所帯で男を育てるとこんな風になるって言う事例ですね。なるほど興味深い……」
「ええ、素晴らしい参考になりそうですね、サテラさん。今度、菜乃花さんに詳しく話を聞いておかないと!」
何だか真人の部下の勇者林檎と大魔王四天王グルンガストの中身、サテラさんが意気投合しながら何やらメモを取っている。ああ、この二人何だか姉さんたちと同じ匂いがするぞ!絶対に腐ってやがる!
「何というか本当に申し訳ない……。こっちに来てからこういう話題で盛り上がれる友人がそばに居なかったせいか、こう、何というか鬱憤が溜まっていたらしくって」
眉の間を抑えた夏凛が大きくため息をつく。元の世界からの友人とは聞いていたが彼女はそちら側ではないらしい。うん、苦労してるな……この子。
「いやいや、溜まるどころじゃなくって噴出しそうだったよ!艶本コーナーなんてまともな本は無いし!というか紙の価値が高すぎてイラストすらめったに見かけないし!こっちの領でようやっとデジタル移行されたけど、ネットはまだ黎明期過ぎてそういうサイトすらないし……。これはもう、布教するしかないと思うの!ね、サテラさん!」
「ええ、そうですね。ついでに無機物×無機物の良さも……」
うん、何を言っているのかさっぱりわからない!姉さん、ボクにはあっちの世界の会話には全くついていけないよ。無機物と無機物をどう掛け合わせるっていうんだ!訳がわからないよ!
「はいはい、それはまたの機会にな?」
「はーい」
ぶーと唇を尖らせて林檎は夏凛に返事を返す。
良かった、これ以上の被害は受けずに済みそうだ……。
「けれど、私は思うんです。漫画やアニメ……ううん、特撮の普及は急務だと!」
ぐっと握りこぶしを掲げてサクラが語気を強める。と、とくさつ?とくさつってなんだ?
「私たちの世界の……劇のようなもの、です。特殊な技術を使って、実際とはスケールが違うものを描いていて、身の丈が大魔王城ほどもある化け物と人間が戦う作品なんかもあったりするんですよ?」
「何それ怖い」
うん、ボクも元の龍の姿になればそれなりの大きさになるけれど、流石にそこまでは大きくはなることができない。ヴォルガイアドラゴンのフレイア様ですら無理なんじゃあないだろうか?い、一体どんな世界だよ、真人の故郷って!
「うん、あくまで物語の中だけですからね?実際にそんな生き物なんていませんし……」
「な、なんだ、そうだよな……」
思わずホッと息を吐く。そりゃあそうだ。菜乃花姉さんも言っていたじゃあないか。私の元居た世界は争いもない平和な世界だったって。
「そこの所どうなんです、皆さん?」
『我らの本来の姿は山ほどである』『牛を一飲みにしていたからのう……』『勢い任せだったしね。うん、若かったなぁ……』『あの後お腹下したし……』『お酒は美味しかったんだけどねぇ』『山ほどの猿にトカゲに……そう、空飛ぶ亀もいたと真人が言っていたわね』
うん、やっぱりそうだったんだ。ずっとおかしいと思っていたんだ。だって、平和な世界からこっちの世界にやって来て、ひと月もたたないただの人間があれ程に強いわけが無い。あの時のボクは魔王の中でもかなりの実力だったとは自負していたし、周りからの評価もそれに違いなかった。
――なのに負けた。紙一重とはいえ、聖剣を使われたとはいえ、ボクは間違いなく真人に負けたのだ。
「んふふ、あの時のまーくん格好良かったですよね……」
「ええと、サクラ?その時倒されたのはボクだけどね?」
にこにこ笑顔のサクラにボクは頭を抱える。うん、確かにもの至極格好良かったと思う。本当に彼は勇者なんだって思えたし……。
「そ、それよりも、色々と違うと思うんです。本当に私たちの世界は……少なくとも私たちの国は平和だったんです」
「そうそう、真人さんがおかしいんだよ。同じ世界から来たはずなのに忍者だし」
「忍者もほとんど創作の域だったしねー」
苺に夏凛、林檎、勇者三人娘が互いに見合って苦笑いを浮かべながら首をかしげている。
かしげる三人を見て、ボクも首をかしげる。うん、一体全体どういう事なんだろうか?
「これは仮説ではありますが……。あちらの世界の魔法や魔獣などは一般には秘匿されていたのではないでしょうか?」
「秘匿……?」
はい、と頷いてサテラさんが言葉を続ける。
「私が見知る中でも真人様のおっしゃられている妖怪や精霊、神霊の類は創作物の範疇でした。しかし、それが本当は私たちのあずかり知らぬ所にいたのだとするならば、それを秘匿する者たちがいたと考えられ、真人様はそちら側の人間だったと推察されます。……もっとも推察に推察を重ねるという暴論でしかありませんが」
しかし、それが一番説得力のある答えだろう。うん、一瞬でつながる通信機器や世界の裏側まで映像を飛ばすことのできる機械なんてある世界でそれほどに秘匿できるのが不思議でならないけれども!
……うん?待って、私が見知る中で……?
「ああ、シルヴィア様はご存じではなかったのでしたね。私は――元勇者です。尤も今はその軛から解き放たれておりますが」
そう言って、にっこりとサテラさんがほほ笑む。
え、何それボク聞いてない!みんなは知って――
「うん、知ってる」「私はもちろん知ってますよ」「もうご存じかと」「にゃ、前にお世話になった時に……」「ん、聞いてた」「まぁ、話してるうちに……ねぇ?」「私は真人さんに聞きました」「ごめんなさい、わ、私も……」「ってことはつまりは知らなかったのは……」「シルヴィアさんだけって事だな」
な、なんてことだ……。思わずボクは枕に突っ伏す。うう、これじゃまるで仲間外れじゃあないか!いいよ!なんだか悔しいからもう寝るし!
「ふふ、まだまだお子様ですね」
不敵な笑顔を浮かべるサテラさんがボクにはとっても綺麗で、とっても怖く見えてしまった。うん、だってこの人ボクの生まれる前から四天王やってたはずだからね!一体何歳――深く考えないでおこう。
いつも通り遅くなりまs( ˘ω˘)スヤァ