閑話
「――師よ、刻が参りました」
ロウソクの火の揺らめくほの暗い堂の中、私は師に座して頭を下げる。
「かの者は師の弟子――予言に刻まれしもので違いありませぬ。各地にて、幾多の魔王、そして神々の降ろした勇者を倒し、滅し、その力はまごう事無き真なる勇者と言えるでしょう。ですが、すでにかの者は聖なる剣を手にしております。いえ、それ以前に本来であれば人の国にて召喚されるはずが、大魔王城へ召喚が成され……大魔王の娘と婚姻を結んだとの知らせがありました」
師の言葉は無く、私は話をさらに紡ぐ。
「そして、かの者は炎の大精霊ヴォルガイアドラゴンの娘、大精霊ウインディア、そして魔王と勇者の娘が成った水の精霊――いえ、アレはもう大精霊と言って過言は無いでしょう。彼女らとの契約をも結んでおります。こちらも……予言には記されてはおりませぬ」
そう、何かがおかしい。
かの勇者は、人の国に召喚されたのちに魔王達を単独にて滅ぼし、勇者教をも滅ぼし、大魔王城にて聖剣と契約し、怨敵を討ち果たし、最後にはその身を聖なる刃にて貫き――輪廻へと還る。……それが本来あるべき未来。
だが、そうはならなかった。最初からすべてが違ったのだからそうなる筈もないのだろうが……。
「何者かが筋書きを書き換えた。そう考えると全てのつじつまがあいまする。それができるのは神の域――我らには手出しすることすらできませぬ」
神々が手を出したのか、怨敵が手を出したかまでは我らに判断のつけようもない。そして、変える術もあるはずもない。
だから、我らにできる事は我らのすべき役割を果たすのみ。
「――師より授かりし我が無限と、かの者の無限を合わせ、終局へと至りまする」
微動たりともしない師に今一度、頭を下げて私はスクリと立ち上がる。
この世界の終焉を止めることができるのは真なる勇者のみ。
――先代の勇者にはそれができなかった。
――先々代はその闇に喰われた。
この国に古より伝わる予言にはその事すら刻まれていた。
いたからこそ、刻まれたことは変えることができなかった。
――世界は終焉を迎える。世界の怨敵がその全てを喰らいつくし、新たなる世界へと旅立つ為に。
だから、こそ我らはこの予言の筋書きを守らなければならない。たとえ――この身を捧げようとも。
もう、動くことのない師を見上げ、私はぽつりと言葉を零す。
「師よ、どうか我らをお導きください」
望む返答を得られるはずもなく、私は――師の眠る堂を後にしたのだった。
短めなので今回は少し早めに……。
そしてこれにて六章は完結となります。
ご覧いただきありがとうございましたOTL
いつも通り挿話をいくつか挟んだのち、七章へ入りま( ˘ω˘)スヤァ