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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第六章:消えたメイドと勇者な執事。脳細胞がトップギアだぜ!
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閑話

 俺はついている。


 この世界にやって来てそう思わなかった日は無い。

 人も、精霊も、魔族も、勇者ですらも須らく、狙いを定めた女は俺のモノにできたからだ。


「ぐす、こんな、なんで……」

「いひひ、騙されるお前が悪いんだよ」


 今日も又、俺の椅子にされた女が涙をボロボロと流しながら声を震わせる。こいつは昨日近くの村の酒場で酔いつぶして手に入れた奴隷だ。見た目はそれなり、まぁ色々と使い勝手はあるだろう。

 それよりも。ああ、そんなことなんてどうでもいい!なんて気分がいいんだろうか!いや、ここまで気分がいい日も中々にない!


 俺が大魔王城に潜入して数日。送り込んでいたモルモット(AZ・M)と変身女から連絡があり、すべてが丸っと上手くいったと連絡があったのだ。


 つまり聖剣を手に入れ、所有者――つまり()()()()()()()()()()()()()()()()と言う事。


 あとはこれを勇者教に納めれば終わり。


 そう、本来ならばそれで終わりだ。だが、あいつらは既に俺の手に堕ちている。心も体も魂すらも俺のチート、ロブ・ドミネイターに犯されて今ではすでに従順な手駒。つまり、あいつらが聖剣を手に入れたと言う事は、聖剣が俺のモノになったという事!


 すべてを圧倒し、()()()()()()の聖なる剣。

 この世界の古い伝説では、その圧倒的な力で逆らう国々を制圧し、覇王となった者までいるらしい。ならば、この剣は俺の手にふさわしい!そう、俺こそがこの世界の覇者となるのだ!


 ほどなくして、古びれた小屋にモルモットと変身女がやって来た。

 手紙を受け取って数時間と経たないが、まぁ酒場で聖剣を出されるよりはましだろう。


「ふん、なんだ変身女。まだその姿なのか」

「ええ、元の私よりも得体ですし、何より使い勝手がいいですから」


 変身女はニコリと妖艶な笑みを浮かべる。ふん、確かに元の姿はアイドル並みに可愛くはあったが、そこまで胸のサイズも無かった。今の爆乳でありながら深窓の令嬢を思わせる雰囲気はもちたくても持てないモノだったのだろう。いひひ、まぁ後で聖剣を眺めながらまた楽しませてもらうとしよう。こいつは一度死なせた女の姿にもなれるから便利なんだよなぁ。


「って、なんだ。お前はあのエルフを乗っ取ったままじゃないんだな」

「あのまま連れてくれば騒ぎになる。だから捨ててきた」


 吐き捨てるように、モルモットはそういう。こいつは見栄えはいいが小さすぎてこう、ムラムラこねーんだよなぁ。まぁ、吐き捨てる分にはいいか。


「ともあれ、その聖剣とやらを見せてみろ。ほら、早く!」

「ええ、もちろんです。――こちらが勇者真人の秘石とその聖剣です」


 そう言って変身女が俺に赤色の宝石と布に包まれた剣を手渡す。なるほど、これがその剣か!……にしては、妙に軽い。いや、聖剣は所有者が持てば羽のように軽いという。この秘石が俺の手にあるのだから、それも当然なのだろう。はやる気持ちを抑えながら剣の包みを解くそこには――はずれ、残念でしたの文字が書かれた木刀が納められていた。


「ふ――ふざけるな何だこれ、がぁ!?」


 文句を言おうと立ち上がった瞬間に、巨大な何かが突如俺を掴んだ。何が、一体――!?


「ふふふ。いえ、ここまで警戒無く棒立ちしてくださっていたおかげで上手くことを運ぶことができました。いやはや、本当に貴方様は戦闘センスもなく、ただただ女を騙し支配する能力のみで生きてこられていたのだというのが嫌というほどにわかります。本当に判断が遅いですから」

「なんだ、これは、何でお前の背中から鬼の腕が生えている!!」


 そう、俺を掴んでいる鬼の腕は変身女の大きく開いたドレスの背中から生えていたのだ。こいつのチートがそんな使い方できるだなんて聞いたことが無いぞ!


「ええ、私も知りませんでした。知りようもありませんでした。だって、自分の人格が一度無くならなければ使えないモノなんですから」

「……は?」


 こいつの言っている意味がよく、わからない。元の人格が無くなった?それなら、ここにいるこいつはいったい……誰だ?


「ええ、ですから改めてご挨拶を。私の名はシレーネ。貴方のせいで滅んだ村のあの屋敷の女です。ふふ、おかげさまでこうして黄泉帰ることができました」


 ニコリと、その女は俺を見て嬉しそうに微笑んだ。


「ふ、ふざけるな!そんなわけがあるか!いや、体は変身女のモノなんだろう!それなら、俺のチートが効いているはず!……あ、れ……?」


 おかしい。おかしいおかしい。それならばまず俺に攻撃ができるはずがない。俺に歯向かう事すらできず、最適の行動をこいつ自身にさせてしまう。ならば、俺に、なんで――


「まだお分かりになられていないようですね。貴方が私の胎に植え付けたものは綺麗さっぱりともうありません」

「ああ、ちなみに私も無い。いやはや、あんな風に思考を弄られていたとはぜーんぜん気が付かなかったわ。ええ、ふふふ、どんなふうにこのお礼をしてあげましょうか?」


 楽しそうにモルモット女がクスクスと無邪気に笑う。ふざけるな、ふざけるな!そんなことあってたまるか!い、いや、あり得てしまったのならば、ここから、こいつらから逃げなければ!奥歯をガリリと噛みしめ、毒のカプセルをかみ砕く。これで、俺は死んで逃げることができる。ここの家具にしている勇者たちは惜しいが、また集めてしまえばいい。いひひ、そうだ!俺はこんなところで、終わる、わけが……な、なぜ()()()()()()

 このカプセルは噛みしめれば最後、数秒で死に至る猛毒だ。なのに、一分は経とうというのに未だ死ぬ気配がなかった。


「ああ、毒で死のうとしても、死のうとしても無駄です。外からここには状態異常無効と再生の魔法が常にかけられ続けている状態になっていますから」

「そ、そんなチートな事が……」


 ――できる。できる奴がいるのだ。俺の知らないその誰かが。ここはそういう世界だ。


「ま、まて、何が望みだ!か、金か?名声か?そ、それとも――」

「そうですね――私は貴方が欲しいです。いえ、顔も体ももちろんいりません。貴方の魂さえあればそれで事足ります」

「余計なものはそぎ落としてあげるわ。ああでも、痛みも何も感じないだろうから安心して」


 そう言ってモルモットが取り出したのはナイフほどの小さな剣。宝石化のチート呪詛の込められた勇者教の技術の粋を集めて作られた逸品だ。


 なんで、それがまだそこにある……!


「予備の最後の一本だよ。ああ、ちなみに――」

「俺はぴんぴんしてるから!うん、色々とやらかしてくれてるって聞いてどんな奴かなって思ったら普通?というか、ホストっぽいお兄さんって感じでびっくりだよ!女の子引っ掛けるにはその姿の方がモテるのかな?異世界でもホスト最強説!チャラく無ければ持てないのが世の常なのか……!」


 仮面をつけたタキシード男がぬるりとどこからか姿を現す。こいつ、いつの間に!?


「やだなぁ、()()()()()()に決まってるじゃない。まさか昨日今日で被害者増やしてくれてるとは思いもしなかったけどね!最悪だね、おたくさん」

「ま、まさか貴様が――」

「初めまして?うん、なんだか有名人になっててびっくりな勇者だよ。つまるところは君にも勇者教にもあの剣はあげれないからね。だからここで君を始末させてもらうことにした」


 カチカチと奥歯がなるのが響く。体は変身女の鬼の腕に掴まれて身じろぎすらできない。毒を飲んで死ぬこともできない。舌をかみ切ることもできない。もう、どうすることも、い、いや、なにか、なにかあるはずだ!何故ならば、俺は――!


「無いよ。もうお前が消えるしか道は無い」

「あ――」


 腹にはナイフ。呪詛の込められた宝石化の剣。


「し、死にたくない!た、助けて!助けろお前ら!なんで、あ、ががが!」

「無駄だよ。この子たちには眠ってもらってる。うん、薬でもなんでもなく気絶してもらってるだけだしね。状態異常でも再生の効果も関係ないって事。だからお前は一人寂しくここで消えるんだ。まぁ、もしかすると一人くらいは助けを求めてきた子を気まぐれに助けたことがあるかもしれないけれど」

「あ、ああ、ある!そのくらいは――」

「だけど、その倍の倍は苦しめた子が多いんだろう?だから、お前は消えるんだ。うん、さよなら?」


 パキパキと音を立てて、俺が石になっていく。俺は、俺のためにこの世界に来たはずなのに、おれは、ゆうしゃで、この、せ、かい、を!


 バキン!と音を立てて俺が砕けた。


――ああ。もう、なに、も……。

とってもとっても遅くなりまし( ˘ω˘)スヤァ

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