31話:魔法少女と聞いて戦う女の子を思い浮かべるのって今更ながらに間違ってる気がしないでもないよね?
村の外れ、少し小高い丘の上に私の家はありました。
お母様と、私と、お父様の部下だったと言うキャンディさんとミントさん。お手伝いさんとして今は働いてくれているお二人は私のかけがえのない家族でした。
いつもの茜色に染まる夕日の中、私はお母様と一緒に夕食の支度をします。
今日は私の好きなミートパイを作ってくれる約束で、さんが食器をそろえてくれて、さんが畑から採って来てくれました。
賑やかで、楽しくて、幸せで、こんな毎日がいつまでも、いつまでも続くのだとこの時の私は信じて疑わなかったのです。
「勇者アカネ!勇者の面汚しが!貴様が魔王と契りを結んだことはもはや公然の事実だ!」
突然押し入って来た鉄仮面の男たちが刃をこちらに向け、訳の分からないことを叫びます。
怖い、怖い、私は訳も分からないまま、さんに抱きしめられながら唯々震えている事しかできません。
「すみれ、すまないね。お母さん、このおじさんたちとちょっと遠出しなきゃあいけなくなっちゃったみたい」
その時のお母様の悲しそうな、寂しそうな顔を今でも忘れることができません。あの時、声をかけられたら
。行かないでと言えたなら。何も変わらなかったかもしれない。けれど、けれど、お母様に私の気持ちを伝えることができたはずだったのです。
だけど、私は声を出すことすらできなかったのです。手を、伸ばすことすら。
まだ子供だったからと、いくらでも言い訳をする事ができるでしょう。けれども、それは私にとってやり直したくてもやり直すことのできない――後悔でした。
「だから、それは違うっていっているではないか!」
「くどい!何度言えばわかるのだ!」
だれか、女の人と男の人が怒鳴りあっている声が聞こえます。
「いいや、納得のいく説明をしてもらわんと引くことはできぬ!」
「何を言う!あれ以上どうせよと言うのだ!」
どちらの声もとても荘厳で、澄んだ声。
私なんかでは到底話すことすらできない人たち――恐らくは神と呼ばれる者たちなのでしょう。一体、何の話を――
「だから!スカートをもう少し短くする代わりに、スパッツにすべきだと言っておる」
「何を言う、あれ以上短くするのは下品ではないか!そしてスパッツなど言語道断!そして、下に見えてるものはレオタード!そう、レオタードである!決して、パンツではない!何、完全にパンツにしか見えない?はは、ガラがついておるだけだ!」
……ええと、何のお話をされているのでしょうか?
見知らぬ純白の神殿の中、私は体を起こします。
「む、起きたかビオラ。待ったく、おぬしも言ってやれ。スカートはもう少し短め。そしてスパッツを吐いた方が可愛いとな!」
「だから、何度言えばわかる!あれ以上は短くできん!」
何だか金髪のイケメンな人と長い黒髪を緩くまとめた着物の綺麗なお姉さんがギギギ、とにらみ合っています。一体どういう事なのか、全く把握できないのですが!
「はぁ、弐乃はこだわりが強いからね……。ああ、見た目じゃ判断がつき辛いかもしれないけど、私が陸乃ね」
いつの間にやら同じく着物な黒髪の女の人が私のそばに居ました。髪型はポニテ。ううん?着物の人が周りに沢山……全部で八人……。もしかして、見た目は全然違うけれど――
「先ほど力を貸ししが私たちなり。尤も、魂は一つなればいづれも我と言ひにて過言ならぬされど」
「うん、壱乃姉のしゃべり方はわかり辛いから代わりに説明すると「わかり辛!?」、さっきの変なのを倒したときに力を貸したのが今ショックで固まってる壱乃姉だよ。ふふん、ちなみに私は捌乃だよ!この姿じゃわかり辛いかもだけど、改めてよろしくねビオラちゃん!」
ツインテールの捌乃さんが可愛らしくポーズをキメてにっこりと笑われます。よくよく見てみれば皆さんお顔は同じですが、着物の着こなしや、髪型で差異を見せているようでした。
「はぁ……。まったく、緊急だから仕方なかったとはいえ、異世界の荒神と契約しちゃうんだもんなぁ。いや、うん。それはそれとして展開は美味しいからありなのかもしれないけれど」
腕組みをして金髪でイケメンなお兄さんがうんうんと唸っています。この人も神様……なんですよね?
「しかし、パワーアップの展開としては早急すぎやしないか、コンテンツの流れを鑑みるならばもっと物語が大詰めに差し掛かった辺りで……」
「コンテンツの流れより、勢いでいいと思うぞ?追加戦士なんてそれでいいと思うし」
いやいや、まぁまぁと弐乃さんと金髪な神様がまだ言い合っています。ええと、その、置いてけぼりなのですが!
「ああ、すまないね。そう、私は神だ」
「「「「「「「「それがどうした」」」」」」」」
「そうなんだけど、ちょっとだけ話をさせて欲しいなぁ!」
八岐大蛇の皆さんの突っ込みに金髪な神様が苦笑いを浮かべています。うん、悪い方ではなさそう……です。
「改めて、勇者の力の継承……おめでとう。君は母である異世界の勇者――秋崎茜から、勇者の力を正式に受け継いだ。この世界で初めての継承勇者だ」
受け継いだと言われ、私は胸元のブローチをそっと握りしめます。けれど、私にはまだお母様の封じられたこの石が無ければ……。
「そう、まだ彼女のブローチが無ければ無理だ。しかし、それもいずれ必要が無くなる時がくるだろう。尤も、その時は君はもう人でもなく精霊でもなく、完全に勇者として覚醒した時になるだろうがね」
うんうんとなんだか嬉しそうに金髪な神様が頷いています。
「そうなると、まだ私は完全に勇者ではないんですね」
「ああ、君はまだ人から半精霊になったところだ。まだ不死性は無いし、殺されれば普通に死ぬから気を付けておきたまえ。もっとも、死んだ時点で君と契約した神霊が黙って見過ごさなさそうだがね」
何だかジト目で壱乃さんたちを神様が見つめます。
「まぁ、あっちの変態な神様よりは私たちの方が幾分かましだろうしねー」
と、捌乃さんが私をギュッと抱きしめてくれます。そういえば、皆さん身長は私と同じくらいなんですね。なんだか親近感が……。
「変態とは失礼な。そういう君らこそ変態ではないかね!」
「君らとは失礼千万」「そうそう、みんな同じ顔だからって」「ええ、一緒にされてしまうと迷惑です」「あらあら大変ねぇ。ところでここどこかしら」「い、伍乃?今更過ぎるわよ?」「でも、戦う女の子のスパッツ姿っていいよね?」
「「「「「「「わかる」」」」」」」」
わかるんですね!私にはいまいちどういうことなのかはわかりませんが……。
「さて、目覚めの時間だ。君はこれから幾つもの困難が立ちふさがるだろう。しかし、勇者という肩書を持ったからといって、魔王を倒す必要は一切ない」
「な、無いんです?」
「そう、無い。なぜならば、君たちが倒すべき真なる敵はすでに封じられているのだからね」
ううん、神様の言っている事がどういうことなのかサッパリわかりません。倒すべき敵とは一体誰の事を言っているのでしょう……?
「終わった話もう気にしなくていいさ。それじゃあ、新たなる勇者すみれよ。君の活躍を心から祈っている。まぁ、気張らず頑張りたまえ」
神様がひらひらと手を振ると、私の意識はまた深い深い闇の中へと落ちていったのでした。
とってもとってもとーっても遅くなりました!
皆さんも飲み会は飲み過ぎにご注意くd( ˘ω˘)スヤァ