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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第六章:消えたメイドと勇者な執事。脳細胞がトップギアだぜ!
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26話:ロボモノの新しい機体乗り換えシーンって物悲しいけどワクワクする不思議な気分になってくるよね?

 荒れ狂う嵐の如き乱撃を流して躱して、逃げて、にげて、にげて!待って待って!あうぁ!?と、屋根をダッシュで逃げていたら排水溝につまずいで私は見事にこけてしまいました。こんな時にもこけるだなんて!


 シレーネさんが目を伏せるのが見え、それと同時に巨大な鬼の両の手を組んで、思い切り私に振り下ろされたのです。

 が、シレーネさんの拳は私に届くことなく、ドンっと音がしてシレーネさんが後ろ数メートル吹き飛ばれました。い、今のは――


「ああもう、おちおち寝てらんねぇなぁ!まったく、やってくれるなぁメイドさん!」


 私の目の前にいたのはサンスベリアさんでした。頭からは血を流し、左腕は折れているのかプラプラと揺れています。


「ごめんなさいサンスベリアさん。私だけじゃ抑えきれませんでした」

「いいってことよ。ただ、姫様は真人さん家へのゲートで押し込んで来たからしばらくは戻ってこねーからそのつもりで。うん、後が怖いけど、これもアタシの仕事だからな!」


 あはは、とサンスベリアさんが笑い、風を切って巨大な化け物となったシレーネさんへと身を躍らせます。


「ああ、どうしてなんで逃げてくれないのでしょう。私を止めれないのなら、殺せないのなら逃げてくれればいいのに――」

「逃げたら姫騎士の名折れだってーの!お前こそ、殺す気ないなら自分のチートくらい制御して見せろや!」


 鬼の巨大な拳にサンスベリアさんの拳が突き刺さります。が、あまりにもある体格差せいでそのまま押し飛ばされてしまいました。


「この、馬鹿でかいだけのクソが!」


 くるりくるりと縦に回って勢いを殺し、見事庭に着地しました。流石虎族。猫系だけあって高いところから落ちても大丈夫なようです。っと、ここは隙、隙ですよね!完全に意識が私じゃなくてサンスベリアさんに向いていますし!


 パンと手を叩き、洗濯物に使っていた水を集めて水の刃をシレーネさんに向けて突き立てます。


「もう、その攻撃も効きません。……だから、逃げてください」


 ギロリと巨大な化け物がこちらを見下ろします。あ、はい。ごめんなさい?ふふ、駄目ですよね?


「ビオラ、逃げろ!椿、いつまでのびてやがる!さっさと起きろ莫迦!」

「く、ぅ、莫迦言う人が莫迦なんやで?――式符、爆雷!」


 椿さんの声が聞こえた瞬間、ドン!と爆音が響き化け物の体制が崩れます。


「ここだっ――!」


 まるで射られた矢のようにしなやかにサンスベリアさんが跳躍し、その拳を化け物の腹に向けて突き立てます。これなら――


「私は……悲しい」

「あっ」


 唐突に生えた巨大な鉤爪にサンスベリアさんは腹を貫かれ、同時に生えた黒い腕によって、屋根を突き破り、塔の下の階層へと叩き落されて行ってしまいました。


「サンスベリアさん!」


 私の叫びに応える声は無く、パラパラと落ちていく瓦礫の音だけが静寂を掻き立てます。


「もう……動かないでください。そうすれば、私は貴女に危害を加えずに済みます。お願いです、どうか、どうか」

「そうは問屋がおろさへん」


 音もなく、椿さんが化け物の真後ろに現れます。手には薙刀。ふぅ、と深く吐き、その刃をギラリと瞬時に煌めかせます。


「――()()()/薙/巴」


 ぽつりと椿さんがそうつぶやいた瞬間に、化け物の巨躯は音を立て、屋根に倒れ伏しました。


「や、やっぱりあかんな。兄さんに教わった技やけど、使うだけでえらいキツイわ」

「椿さん、い、今のは真人さんの……?」

「あはは。説明したいところやけど、それはまだあとでな?まだ終わって無いみたいやしなぁ」


 慌ててシレーネさんを見やると、いつの間にか化け物から分離して人の姿にもどったシレーネさんがてくてくと、大樹に向かって歩いて行っていました。いやいや、何でそんな普通に歩いて行ってるんですか!?だ、ダメージとか……。


「無いんやろうなぁ。けれども、絶対に限界はある。チートいうもんはどんなもんにでも制約があるもんなんや。せやから――あんさんが動けへんようなるまで叩き切ったる」


 薙刀をクルクルと回してその刃をシレーネさんへと突き立てようとした瞬間でした。


「か、げ……?」


 シレーネさんの影が幾重もの刃となり、椿さんの体を刺し貫いたのです。そんな、チートは一つの筈じゃ……!

 かふ、と口から多量の血を吐いて、椿さんがその場に崩れ落ち、そのまま屋根の下へと落ちて行ってしまいます。駄目、このままじゃ!私は辺りにあった水を操り、意識なく落ちていく椿さんを包んで地面へ落ちる衝撃を少しでも和らげました。けれど傷がひどい。このまま放置すれば、確実に命を落としかねません。だから水の精霊さんにお願いして、椿さんの傷の治癒をしてもらいます。


 今の私ではこれが限界。もっと精霊に近づければ、もっと素早く治せるのに……。


「……私だった彼女(勇者)のチートは、吸収変身。その変身するだれかの一部を吸収すればするほど、ソノモノに成っていくんです。そしてこれは、私だった彼女(勇者)に残った残滓」


 私の方を見ずにシレーネさんは歩みを止めることなく、ぽつりぽつりとつぶやくように言葉を零します。向かう先は変わらず、桜の大樹。その上に鎮座する聖剣を持ち去るつもりなのでしょう。


「このチートは、吸収して別の者に変身したあと別の誰かになるときにその一部を吐き出さなければなりません。けれど、彼女はその制約を破ってため込まさせられてしまったのです。……私を支配するあの男に」


 あの男とは、いったい誰の事を言っているのでしょう?なんで、そんな話を私に……。


「ああ、そうです。私を私にしたのもあの男でした。髪の毛程度で、骨のひと欠片で良かったのに――私は(シレーネ)の全てを吸収してしまった。だから私が……シレーネという人格が私の中に生まれてしまった。たとえシレーネの全てを吐き出したとしても、もう私に戻ることはできないんです。なぜなら――私だった(勇者の少女)はもう、消えてしまったのですから」」


 シレーネさんは顔だけこちらを振り向けると、悲しそうに微笑みます。


「だけど、私はこの歩みを止めることはできません。殺したくなくても、傷つけたくなくても、あの勇者の男の支配を逃れない限り私にはどうすることもできません。……ごめんなさい、ビオラさん。どんなに謝っても許してもらえないかもしれません。だけど、どうかもう私に立ち向かわないで。戦おうとしないで。そうすれば、私は貴女を傷つけずに済みます。だから――」

「嫌です」

「え?」


 がくがくと震える膝に手を置いて、私は何とか足を前に進めます。まだ慣れない力を思い切り使ったせいで体がだるくて鉛のような重さを感じます。それでも私はこの人を止めたい。ううん、違う。


「私は、貴女を助けたい。助けます。私が私じゃなくなっても構わない。もうなりふりなんて構わない」


 ざわり、と私の中の人だった部分が光を帯びていきます。……真人さんに怒られてしまうでしょうか?折角、助けてくれたのに今時分から人として死のうとしてるのですから。

 けれども、私は決めたんです。


 この人を救うと。助けるのだと!


「やめてください!それは――」

「嫌です!私は!」


 水の塊を幾つも生み出し、シレーネさんに向けて射出します。けれども容易く弾かれて彼女の歩みを止める事すらかないません。


「こ、の!」


 だから私は落ちていた椿さんの薙刀を拾い上げ、水を纏わせ、彼女に向けて振り下ろしたのです。


「ビオラさんのわからずや――!」


 振るわれたのは再び生えた鬼の腕。激しい痛みとともに私は薙刀ごと、空へと打ち上げられたのです。


「ああ、駄目。止められない!ごめんなさいビオラさん。ごめんなさい」


 そんな言葉が、聞こえ、落ち行く眼下に、巨大な拳が私に照準を合わせているのが、見えました。



 まるで、走馬灯のように、すべてが、ゆっくりと、流れていきます。



 これが力が無いのに、理想の人(勇者)になろうとした末路なのでしょう。



――ごめんなさい、真人さん。貴方に救ってもらったのに、私はここで死ぬみたいです。



――ごめんなさい、サクラさん。せっかくお友達になれたのに、私はもう駄目みたいです。



 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――お母様……。







『まったく、なにをあやまってるの?貴女があやまることなんて何もないんだから』


「……え?」


 私に誰かがそう、言葉を返した気がしました。

 その瞬間、私のエプロンに入っていた茜色のブローチがおびただしい光を放ちます。え、え?いったい何が!?


『貴女が自分で選んだの。だったら謝ったりなんてしちゃダメ』


 光が私を包み込み、私を溶かしていきます。これは、これは……!


()()()。いい?貴女はやっと貴女の道を選んだの。だから、どうか立ち止まらないで。私が貴女の――』


「お母様!!」


 光の先、私は手を伸ばします。一瞬、ほんの一瞬だけ、そこにかつての母の顔を見た気がしました。



 涙を振り払い、光を振り払い私は拳を握ります。


 溢れる力を思い切り振りかぶられた鬼の拳へとぶつけ、己の落ちる勢いを殺し、屋根へとクルクルと回りながら着地しました。


「ビオラ、さん……」

「……違います。今の私は母の二つ名を継いだのです」


 けれどもこの姿は母の赤ではなく、これは私の青。ならば私が名乗る名は――


「デュミナス・アクア!ここに――推参です!」


 そう言って私はギュウといつの間にか手袋に包まれた拳を握りしめます。

 何でこの姿に変身できたかはわかりません。だけど、今この時だけは私は勇者なんです!


 だけど、ちょっと恥ずかしいんですけれど!

 そ、その、スカート短くないです?フリフリで可愛いんですけど!背中とかガラ空きじゃないですか!何だか全体的にスースーするんですけど!いったいどこの誰の趣味なのか、問い詰めたいんですけれど!




 ……そのどこかの()かとってもいい笑顔でサムズアップしたような気がしました。せめてスカートの下はスパッツにして欲しかったのですけれど!今から変更とか……だ、ダメなんでしょうか?

今日は普通?の時間に( ˘ω˘)スヤァ

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