23話:綺麗な花にはトゲがあると言うけどありすぎるのは困りものだよね?
うっそうと茂る森の中。汗ばむ陽気の中、一人涼やかな木陰をがさがさと突き進む。
エルゥシーちゃんはお眠になっていたので部屋に送り届けて、助手さんなしで一人寂しく捜査に行っているわけである。
今度の目的地は昨日降りて行った井戸。
つまるところは現場百辺。何度も行くことで新しい事が見つかることもあるかもしれない。うん、もしかするともしかするかもしれないし?
とはいえ、たどり着いて見回してみてもあの日に振っていた割と強めの雨のせいか、痕跡らしきものはやはり見当たらない。うん、それはそうだろうね!犯人は立ち去る前に綺麗にしていったのだろうし?
「そうですよね、ダリアさん?」
瞬間、俺の腹に痛みが走る。刺され、た……?
「ええ……ええ。貴方は優秀でした。何しろ勇者ですからね。それも、単独で魔王すら倒しえるほどの」
「ぐ、ふ、ダリアさん、な、なんで……こんな……」
膝をつき、傷口から漏れる血を抑える。思ったより、傷が、深い……!
「簡単な話です。貴方は知りすぎた――いえ、違いますね」
ふふふ、とダリアさんは見たこともない邪悪な笑みを浮かべた。
「貴方が今代の聖剣の所持者だからですよ。こうして、私一人をおびき出し――油断してくれるこの一瞬を待っていました」
「何を、言って――」
「ええ、おやすみなさい」
ダリアさんがパチンと指を鳴らした瞬間、腹に突き刺さった何かがバキンと音を立て突き出でた。これは――水晶!?腹から突き出た水晶は瞬く間に増殖し体を覆いつくしていく。逃れようと藻掻いても、ビキビキと迫る水晶のスピードにあらがう事が出来ず――俺は水晶の彫刻となり果て――砕けた。
残ったのはひと欠片の宝石。
大きさは十円玉ほどだろうか?丁度、ビオラちゃんの持っていたブローチに嵌められていた石に似ているようであった。うん、色は違うんだけどね!
「ああ、ああ!これで私は勇者になれる!ニセモノなんかじゃない!勇者に!完璧で、完全な勇者に!!ふふ、ふはは、あははははは!!」
「うんうん、なるほどなー。つまり、聖剣を手に入れる事が目的で、俺をこんな風に宝石に閉じ込めたかったわけだ。うーん。でも、いくら俺でも宝石にされるのはちょっとなぁ……」
「……は?」
「あ、ども?」『どーも』
よっす、と俺とエルゥシーちゃんが手を挙げて挨拶をすると、ダリアさんの表情が固まってしまった。
うん、今手に持っている宝石にしたはずの人間が、目の前に現れたら誰だってそんな顔をするよね!
まぁ、種を明かせば簡単な話。
エルゥシーちゃんを部屋に送ると見せかけて、部屋に入った瞬間に分身と入れ替わったわけである。うん、感知は苦手だけど後をつけられているくらいは大体わかるからね!だから分身を追いかけるダリアさんをエルゥシーちゃんと一緒に追いかけていたわけだ。
「なぜ、一体いつから気付いて……!」
「うん、尾行には部屋を出てすぐ気付いたんだけど、君が聞きたいのはそこじゃあないよね?君がダリアさんに憑いているのは大体わかっている。うん、エルゥシーちゃんが視てくれたから間違いないんだよ?ただ、乗り移っていると言うわけじゃないらしい」
そう、恐らくこいつがいるのは――
「そうさ、私はこの女の胎の中にいる!ふふ、貴様らに私が攻撃できるか?お前らの知る――」
――瞬間、ダリアさんの腹から俺の手が生え、何かが弾き飛ばされる。
「――は、あ?」
驚きの声を上げる間もなく。ガクリ、と糸を切った操り人形のようにその場にダリアさんが崩れ落ちる。
――無限流/無手/閃
閃光の如き抜き手にて肉体を傷つけることなく貫く一撃。
本来であれば相手に気付かせることなく頸椎や内臓の一部を弾き出して暗殺する技なのだけど、ダリアさんの体だし、傷つけるわけにはいかないしね!ちょうどいい技が逢ってよかったよかった。
「ぎぃ、ぎ、そん、な、めちゃくちゃ、な……!?」
びちびちと小さい肉の塊が声にならない声を上げる。
「そんな体のお前にはどうも言われたくないんだけど。お前は……何だ?魔物じゃあないのはわかる。だが、本当に――」
「わたしは、勇者に、成るモノ、だ!」
ボコボコと肉が泡立ち、その本来の姿へと、変えていく。
「幾度も、幾度も代を重ねさせられた。私は、その終着点」
――ソレは黒髪の背の低い少女だった。
体には幾つもの宝石が埋め込まれ、恐らく、その一つ一つが――
「特殊技能複合継承型生成勇者AZ・M。それが、私。私は、勇者になるためにこの世界に生まれ出でたのよ!」
少女の叫びに応えるように、薄い胸に埋め込まれた宝石が光を放つ。これは、まさか埋め込まれた宝石の数だけチートを使えると言うわけなのかな!?
「宝石には勇者たちが眠っているの。ええ、私の全部ご先祖様。その十全は扱う事はできないけれど」
光が収まる頃に見上げると――そこには巨大な竜へと至った少女の姿があった。
「これで、貴方くらいならば十分でしょう?」
竜の頭から生える少女はそう言って、不敵な笑みを浮かべたのだった。うん、色々と見えてるから隠してほしいんだけどな!目のやり場に困るよ!そして、エルゥシーちゃん?このタイミングで足を踏まないで欲しいな!ロベリアちゃんの言ってたことなのはわかるけど……。うん、痛いな!
遅くなりましt( ˘ω˘)スヤァ