20話:夜に一人で出歩いていてお巡りさんに声をかけられると何もしてなくてもドキッとするよね?
エルゥシーちゃんの手を引いてぶらぶらと歩いて回る。途中警備のオークのおっちゃん達に止められたけれど、誘拐じゃなくてお仕事と気付いてやっと解放してくれた。うん、いつも話してるんだから誘拐じゃないってわかるよね!
『私あまり、外出ない。だから、姫騎士としてあまり顔も知られてない』
つまりはそういう事。俺の事を見知っていても知らない可愛い冥界系幼女を連れまわしていたらそりゃあ怪しまれると言うわけだ。非常に納得がいかないけれど!
「そういえば、こうしてエルゥシーちゃんと普通に話す機会ってあんまりなかったけど、ほかの事は色々話したりするの?」
『ん、普通に話す。ロベリアや苺とはよく遊ぶ。最近はすももとも』
可愛らしく首をかしげてエルゥシーちゃんがそう答えた。どうやらあんまり仲良くなれていないのは俺くらいらしい。おかしい、割といろんなところで一緒に行ったりした気がするんだけどなぁ……。
『……勇者真人との接触はあまりしないように、そう言われていたから』
「へ?言われてたって、クリュメノスさんに?」
俺の問いにんーん、と首を振る。四天王のクリュメノスさんじゃないとなすれば大魔王?と聞いても首を横に振られてしまう。ううん、出逢ったばかりの頃はまだアコナイトさんとは出逢っていないとして、アリステラさんでもどうやら無いらしい。
『冥界の王から直々に。もしもの事を考えて、付かず離れず警戒するようにと』
なるほどと納得がいって大きくため息をつく。
うん、確かに大魔王の間に突然現れた勇者が、バトラーになって数日で武闘会に殴り込んで大魔王の姫の婚約者になっちゃうって、よくよく考えなくても怪しさ満点だよね!普通に考えて勇者教が送り込んできた刺客とか考えれるし。だから、あれだけ一緒に色んな所について来てくれていたのにあんまり仲良くなれなかったのにも頷ける。仕方ないよね!
『けれど、アコナイト様からその命令も解除された。これで晴れて真人様とお話しできる』
ふんすふんす、と何だか鼻息荒くきらきらとした黒い目の白い瞳を輝かせている。そんなにお話したかったのかな?
『もちろん。真人様、異世界から来た勇者。林檎や夏凛、苺と同じ勇者なのに全然違う。最初から強いの不思議。とってもお話聞きたい』
確かにその三人と比べられてしまうと俺は元の世界では異質と言えただろう。うん、忍者で巫子さんだったしね!
『忍者……。本物……ニンニン……』
何かものすごく期待した目がなんだか痛い。そういえばサクラちゃんとニンニンな戦隊を見てたっけ?うん、あっちは忍なのに忍んでないからね!ド派手に行っちゃう奴だから!俺普通の忍者だし、そんなに派手じゃないからね!……とは、口が裂けても言えない。小さい子の夢を壊しちゃ駄目だからね!
「真人様?独り言をぶつぶつ言われていますが……どうされたのですか?それも、そんなに小さい子を……」
「ああ、お久しぶりです――シレーネさん。うん、いろいろと誤解があるけれど、お仕事で姫騎士のエルゥシーちゃんとめぐってるだけだからね!」
大魔王城の中庭。巨木から桜の舞い散るこの場所で、花の手入れをしていたシレーネさんに偶然出会ったのだけれど、すごく怪しまれてしまった。うん、俺不審者じゃないし、変質者でもないからね!勇者な執事で巫子で忍者なんだけど……うん、何だかまだ長くなりそうだな!
そうですか、よかった……とほっと、大きくてたわわに実ったスイカクラスの果実を手元で押さえつつ、ホッとシレーネさんが息をつく。なんて大きさ……うん、エルゥシーちゃん?どうして俺の足を踏むのかな!痛いよ?!
『真人様、エッチなこと考えたらこうすればいいって、ロベリアが』
なるほどね!一緒にいられないからとエルゥシーちゃんに突っ込みをお願いしてくれていたんだね!うん、でも無言で踏まれるのはちょっと辛いかな!
「?どうかなされたのですか?」
「いえ、何でもないです」
そうですか?と綺麗な眉をひそめながらシレーネさんは首をかしげている。
ちなみに、エルゥシーちゃんは俺と手をつなぎながらテレパシーで話してくれている。普通に話すこともできるらしいのだけれど、この方が色々と便利なのだそうだ。
「そういえばシレーネさんは大魔王城の使用人を退職されたあとは元の村に戻られていたんでしたっけ?」
「いえ、村から出稼ぎで出てきておりましたので、別の町に行って雇われで働いていました。もっとも、お給金が見合わなくてやめてしまいましたけれど」
まぁ、大魔王城のお給料ってすごくいいからね!他のところと大魔王城のお給金比べてしまえば戻ってきたくなるのもうなずける。まぁ、俺はそんなにもらえないうちにアークルに行っちゃったんだけどね!
「出稼ぎ、ね。うん、村はもう無くなっていたのは知ってるかな?」
この言葉に一瞬、彼女の表情が固まる。うん、知られてしまったって顔をしているかな?
「……ご存じになられたのですね。はい、私の村は以前勇者によって滅ぼされました」
「シレーネさんのお墓もあったんだけど、あれは?」
それは、と言って彼女は言葉を詰まらせる。うん、何か言いづらいのかな?
「実は……私は死んだ方が都合がとても宜しいんです。私のご先祖さまには勇者の方がいらっしゃいまして、その事を勇者たちが奴隷狩りをしているときに村人の皆さんに知られてしまいまして。伝手を使いまして、燃えるあの村から逃げ落ちたんです。もっとも、そのお陰で持っていたお金もスッカラカンになってしまいましたけれど」
そう言って彼女はいつもの調子で柔和にほほ笑む。
なるほど、確かにその伝手とやらを頼って大魔王城に雇われたのだと考えれば納得ができなくもない。
けれども、その伝手というのが何なのかが分からない。それについて調べる必要があるのだけれど、たぶん、探している間に彼女はどこかへと消えてしまうだろう。そうなってしまえば今度こそ何の手掛かりも得られなくなってしまう。
「そういうわけだったのね。うん、ごめんね?ちょっとあそこの村を通りかかったときにシレーネさんの事思い出しちゃって、いろいろと見て回っちゃったのよね」
「ふふ、そうだったんですね。すみません、誤解させてしまいまして」
つややかな腰まである長い黒髪をなびかせてシレーネさんはふわりと頭を下げる。メイド服を着ていなければ深窓の令嬢と言っても差し支えないだろう。うん、こんなに大ボリュームな深窓の令嬢がいたらひっきりなしにお見合いの申し込みがありそうだけ、あいったぁ!うん、エルゃん踏むのはいいけどぐりぐりしないで!割と!痛い!
「ふふ、仲がよろしいんですね」
「いえ、ついさっきやっと打ち解けられたみたいで……」
数か月たってようやくである。アコナイトさんには感謝してもし足りないんだよ!
「それでは私はこれで。次の仕事がありますので」
「うん、引き留めちゃってごめんね?」
フリフリと手を振って軽く手を振ってシレーネさんを見送ったのだった。
……うん、それでどうだったかな?
『魂は、ひとつだけ。死んでない、ちゃんと生きてる』
どうやらシレーネさんは、グールやその類ではないらしい。うん、グールの人たちって割と魂は実出たりしてるから動いてるけど死人なんだよね?割と腐ってるし……。
『けれど、形が歪。アレは人では、ありえない。普通魂の形、肉の器に依存する。けれど、彼女は違った』
ふぅ、と息を吐いてエルゥシーちゃんは俺の顔を見上げる
『だから、間違いない。彼女は人間じゃない。魔人でも、無い。アレは――勇者』
それがエルゥシーちゃんの出した結論だった。
はい、いつも通り遅くなりま( ˘ω˘)スヤァ