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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第六章:消えたメイドと勇者な執事。脳細胞がトップギアだぜ!
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19話:ケミカルプリンって美味しいけど名前だけ聞くとなんだかとっても禍々しいよね?

 空は晴天。

 目が痛くなるほどの蒼の中、風に舞いあげられてひらひらと桜の花びらが巨木から舞い落ちてきます。


 大樹の空中楼閣。


 帰らずの箱庭。 


 悪夢の魔眼の座敷牢檻。


 私がここに来た頃、そんな名前で呼ばれたこの場所は、今となっては笑顔であふれていました。


「紅茶のお変わりは大丈夫ですか?先ほど焼いたパイもスコーンもケーキもまだまだありますから!」


 オウカ様が何だか張り切った様子で、るんるんと先ほどお作りになられていたケーキやハーブティーを並べてくださいます。お姫様、というか魔王様なのにケーキと紅茶でもてなしてくれるなんて何というか摩訶不思議と言いますか……。


「いつものことながら、なぁ。そういえばどうしてこんなに料理が上手くなったんや?引きこもって趣味でやってたーというだけじゃ理由がつかんと思うんやけど?」


 モグモグとおいしそうにアップルパイを頬張りながら、椿さんが至福を噛みしめながら目を細めています。一緒にいるサンスベリアさんにエルゥシーちゃんも何だか幸せそうです。うんうん、オウカ様のアップルパイ、本当においしいですよね!もぐもぐ。


「その、元々はお母様のお手伝いで色々と作っていたと言うのもあるのですが、ここにずっといるようになってからする事が本当になくって、なくって……」


 なんだかどこか遠くを見つめながら、オウカ様がため息をつく。確かにこんな場所で何年も閉じ込められていたら私だったら気が狂いそうになるかもしれません。それも、たまにやってくるアリステラ様やグルンガスト様――サテラさん、そして大魔王様としかお話も、顔を合わせる事すらできなかったのですから。


「昔、お母様のお友達の菜乃花さんに教わっていた魔紋を応用して、魔導家電なんかも開発するようになっても、やっぱり暇で。うん、思い立って作り始めたのはプリン……からでしたね」

「ぷりん……?」


 二切れ目のアップルパイに手を伸ばしているサンスベリアさんがモグモグとしながら首をかしげています。


「卵とミルクとお砂糖を混ぜて蒸したり、ゼラチンを入れたりして固めて、お砂糖を煮詰めて作るカラメルをかけて食べる料理なんです。私的には蒸して作る方が好きなんですが、ゼラチンで固めたほうがプルプルとしてなめらかな食感になるんです。お父様はこちらの方が好きだーというんですけど、ここは好みの問題かなと」

「焼きプリンと言うのもおいしいですよね。焼いた分、香りが高くなると言うか……」

「焼き、ぷりん……?」


 ますます訳が分からないとサンスベリアさんが首をかしげている。うん、エルゥシーちゃんはまだ一切れも食べきってないのに四切れ目は食べすぎですよ!


「大丈夫大丈夫、この後動くしエネルギーをチャージしておかないといけないからね!それにしてもこっちのスコーンも中々……」

「さ、サンスベリアさん、そういう事じゃなくてですね……?」

「いいんですよ、ビオラちゃん。まだまだありますしね?」


 思わず作りすぎてしまったので、とオウカ様は言うけれど、きっとこのパイも紅茶も本当は私たちではなく真人様に食べて欲しいと思って作ったはずで……。


「大丈夫です。まーくんの分は別に作ってありますから!ふふ、まーくんは冷やしたアップルパイが好きなんです。だから、これは皆さんと私の分ですから」


 そう言ってオウカ様も追加で一切れ口に運んでいます。そ、それなら私ももう一切れ……。


「それにしても、ビオラはんも異世界の料理に詳しいんやなぁ。うちのいた修羅の領はユウシャ達との交流が多い国やさかいに、プリンと言われてピンと来るんやけど」

「はい、その、母がユウシャ……でしたから」


 スカートのポッケにいれた茜色の宝石のはめ込まれたブローチをそっと押さえます。


 母は小さいころからよく美味しいご飯を作ってくれました。

 あの人(お父様)が好きだったから、と笑いながら甘いお菓子や故郷の料理に似せたものを私に教えてくれて、きっと素敵な旦那様ができたら食べさせてあげなさい、だなんて言ってくれて。


「そういえば、まーくんに聞きましたけど、ビオラちゃんってお姫様だったんですね」

「一応、というか元、というか……。お父様がなくなったのが私が物心が着いたころでしたから、お姫様だった頃よりも、田舎町で農作業をしていた時期の方が長かったですから、あんまりお姫様と言われてもあんまりピンと来ないんですけどね」


 お母様と私がお父様に逃がされて、流れ着いた田舎町。そこで、お父様の部下の皆さんに守られながら過ごしていました。だから、私の記憶が色濃く残っているのはお母様と、その部下の皆さんとの記憶。

 お父様との思い出は朧気で、ただ優しかった人だったとしかもう思い出すことができません。


「だけど、それなら大魔王様ももう少しましな職に就かせてあげればよかったのにな。使用人じゃなくて読み書きができるんなら事務員とかさ」

「いえ、その、私が望んだことなんです」


 魔王とユウシャの娘であることが分からないように。お母様が私を逃がしてくれたのですから、私はどんなところでも生き延びなければ中らなかったのですから。ええ、目立つのは絶対にダメだったんです。


「まぁ、こうして死にかけて半精霊になってしまったのですが、生きていればなんとやら、です」


 けれども、もう私は人とは言えません。

 真人様には話していませんが、いずれ肉体も完全に精霊化してしまうだろうとアコナイトさんに言われいるのです。精霊としての力を振るわなければ人としての期間もそれだけ伸ばせるかもしれないが、とも。

 うん、これってお母様のよく言ってるフラグってやつですよね?精霊の力って使わざるを得ない気がするんですけれど!なんというか、すごく便利ですし……。


「ともかく、ビオラちゃんは魔王のしかもユウシャの娘なんです。言ってみれば私と同じなんです!」

「い、いえ、その大魔王様と聖勇者様とうちの両親を比べられると霞む気がするのですけど!?」

「関係ありません!つ、つまりはですね、え、ええと……」

「ああ、なるほどなぁ。オウカ様はな、ビオラちゃんと対等なお友達になりたいんよ」


 ふぇ?と思わず変な声が出てしまいました。


 だって、オウカ様はお城の中にずっといたお姫様で、


「農作業、やってました!」


 メイドさんや姫騎士の方々が仕える偉い方で、


「偉い方と言われてもその、困るんですよね……」


 綺麗で、美人さんで、


「???ビオラちゃんも可愛くて美人さんだと思いますけれど」

「と、ともかく、その、私なんかがお友達になっても……」

「いいんです。だって、ビオラちゃん、もう私の目を見て話してくれるじゃないですか」


 それはと言いかけて、眼鏡をかけたオウカ様の嬉しそうな金色の瞳を見て、何も言えなくなってしまいました。私は、この瞳が怖かったはずでした。だけど、いつの間にかその目を見ても何とも思わなくなってしまっていたのですから。


「もちろん、この眼鏡――強いてはまーくんのおかげだってことは重々にわかっています。だけど、それでも目を合わせて話してくれるのって、とっても嬉しいんです。だから、私は貴女とお友達になりたい。……ダメですか?」

「……私でいいんですか?

「はい!」


 まるで大樹の満開の桜のような笑顔でオウカ様はそう仰ってくださいました。あ、あうあう、本当にいいのでしょうか?私、本当に血筋以外は普通のメイドさんなんですけれど!


「それではまずはサクラ、もしくはサクラちゃんと呼んでくださる所からですね!」

「それはいきなりハードルが高いと思います!」


 みんなの笑顔が咲き乱れる庭の中、私は何だか顔を真っ赤に染めてしまいました。

 うう、まだ流石に難しいですよ!

今日は早めに( ˘ω˘)スヤァ

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