15話:夜に流れるご飯を食べる系のドラマを見るとお夜食を食べたくなってお腹のお肉に大ダメージだよね?
夜、サテラさんに集めてもらった新人さんたちのデータを精査していく。
俺が入ったころに大魔王城に入った使用人の数は三十人程。あの時はちょうど武闘会があって人手が足りないからと方々からかき集めていた時期だったから、この人数は妥当なのだろう。そして、武闘会が終わってそのまま就職した数はビオラちゃんを入れて五名人ほど。
そう、実のところビオラちゃんもあの時期に新入りとして入って来たメイドさんだったのである。うん、あの頃もとっても初々しくって可愛かったなぁ……。まさか元お姫様だったとはつゆとも思わなかったけれど。ビオラちゃん曰く、魔王である親父さんが勇者に倒されたのはかなり前で、お姫様だったころの記憶はあんまりないのだという。お父さんが倒されてからは勇者であるお母さんと部下の人たちに囲まれてすくすくと育っていたのだけれど、ある日隠れ家に勇者達が踏み込んできて、お母さんがユウシャとして復帰することを条件に見逃されたのだそうだ。
それが、大魔王城に就職することになった理由。
実家……つまるところは親父さんの部下の人たちには大層心配されて、かなり反対もされたのだけど、これからは自分の事は自分でできるようになりたいからと意を決して応募したのだそうだ。うん、本当に頑張り屋さんでいい子だよね!
残り四人の使用人たちは他領の魔王達の部下や嫡子でない子供たちが就職の場としてやってきたようであった。つまるところ、ユウシャではありえない……と言いたいところであるが、そうとも言い切れない。ユウシャって何でもありだからね!だから、まずは疑ってかからなければならないわけだ。面倒くさいなぁ、本当に!
後はアークル城だ。ナナちゃん……は今はいいとして、最近雇ったメイドさんの中で気になる人があと一人だけいた。
雇用時期はナナちゃんと同じくつい最近で、採用された理由というのが以前大魔王城で働いていたことがあるというものだった。面接の時は大魔王城で働いていたのだから身辺は問題ないのだろうとそこで調査を打ち切っていたのだけれど、改めて調べてみると諸々がおかしい。
出身だと言っていた農村はユウシャ達の奴隷狩りに逢って滅んでいたし、それ以前に彼女の名が刻まれた墓標がその滅んだ村の墓地に存在したのだ。
だから彼女は、まず人であるかすら疑わしい。グールか、魔人か、或いは――ユウシャか。
いずれにせよ、何らかの目的をもってうちに入って来ているのは間違いないだろう。
――そして、彼女もまた大魔王城に研修に来ている。
そう、来ちゃっているのだ。どう考えても怪しい。うん、訝しんでくれと言わんばかりに怪しいのだ。
見た目は薄幸なダークブロンズな髪でたわわなモノをお持ちの美人さんなのだけれど、やっぱり怪しい。何か罠のような気もしないでもないけれど、調べないことには始まらない。
俺の分身は満天の星空を空に見上げながら、その件の村で大きくため息をついた。
善は急げと急いできたけれど、本当に何も残っていないよこれ!辺りには崩れ落ちた家々が点在し、畑は荒れ果て人の気配はまるで無く、魔物の気配だらけの廃村。それが彼女――シレーネという女性の生まれ育ったと言う村だった。
彼女から面接の時に聞いていた話を整合させながら、まずはシレーネさんの生家へと足を運ぶ。
気配を消して面倒な魔物をスルーしつつ、たどり着いたのは例に漏れることなくぼろぼろの廃墟となった他の家よりも少し大きな家だった。ううん、美人さんのお宅訪問ってもっとこう、ワクワクするものだと思うのだけど、流石に廃墟じゃねー!と心の中で冗談を言いつつ門をくぐり、家の中へと足を踏み入れる。
天井は崩れ去り、床板からは草やらコケが生えていて、家の中だとは思えないくらいに荒れ果てている。この村は今から三年前に奴隷狩りにあって滅んだことが分かっているから、仕方ない。
そして、その時――シレーネさんは殺されたのだという。村人たちを救うため奔走し、その身を犠牲にして。
奴隷狩りから逃れた村人が、亡くなったあとも凌辱のかぎりを尽くされ、村の広場で遺体を晒されていたシレーネさんを生家の裏手の庭に埋めたのだそうだ。
それが彼女の最後だった――筈なのだ。
庭に刻まれた墓標には確かに彼女の名前があった。だけど、うん。どう見ても掘り起こされているね、これ!
そこに埋められていたはずの骨はかけらしか残っておらず、大きな部位は何者かに持ち去られているようだった。魔物が荒らしたと考えたいところだけど、ここまできっちりと掘り起こしているのは人以外がやったとは思えない。魔物や動物がこんな事するともっと土が散らかる筈なんだよ?
つまり、これは何者かが彼女の遺骨を掘り起こした後。
理由も目的もわからない。だけど、これが今の彼女につながる手がかりなのだろう。
家の中に戻り、ぐるりと中をめぐる。調度品は持ち出され、金目のものはもう何もない。だけど、ボロボロになった彼女が使っていたであろう机の――鍵のかけられた引き出しの中に一枚の羊皮紙が納められていた。
書いてある文はただ、一文。
――私は勇者となった。
ただ、その一言だけだった。
いつも通り遅くなりました。
はい、前々話あたりの誤字とかもなおしてま( ˘ω˘)スヤァ