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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
挿話:ペタン娘エルフメイドと伝説の黒包丁~伝説は伝説に~
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挿話:ペタン娘エルフメイドと伝説の黒包丁~伝説は伝説に~ 8

「白包丁?」

「ああ、そうだ」


 私たちの馬車を止めたマネッチアさんのお爺さんが懐から取り出した包み、そこには確かに一振りの出刃包丁が納められていました。けれどもこれは……。


「こいつはな、黒包丁の対よ。アレが料理人の魂を継ぐものならば、これは料理に魂を吹き込む包丁だ。どんな料理も斬られたことすら気づくことは無いだろう」

「それってただの切れる包丁なんじゃ……」


 ニナちゃんが何だかジト目でお爺さんを見つめています。確かに、それってただの切れる包丁ですね!


「儂なりに考えたのだ。あの黒包丁を継ぐものを見極めんとあの場に赴いたものの、儂は一杯食わされてしまっただけであったのではないか、とな」

「もしもーし?」

「そこで、だ!こいつを真人の坊主に託してはくれんだろうか?儂は審査をする身、直接には渡せん。だが、黒包丁を持つあの魔人との戦いは明らかに不利!だから、こいつを頼んだぞい!」

「頼む、と言われても、その、あっ!」


 何とかお断りしようと考えていたら、荷台に颯爽と包丁の包みを放り投げられてしまった。いや、流石に危ないですよ!って、あ、あれ?


「たのんだぞーい!」


 気づけばお爺さんは遠く離れて行ってしまっていました。……どうしましょう、これ?


「捨てて行きましょう」

「流石にそれは……」





 できませんでした。うう、どうしましょう?


「うん、流石にいい仕事してますねぇ……。でもただの切れる包丁だなこれ!」


 真人さんに渡しては見たけれど、何だかやっぱり微妙そうです。なんだかすごい包丁だという話なのですけれど。


「すごいのかもしれないけれど、出刃包丁じゃあね……。サイズ的にも中途半端だしなぁ。うん、これ使うんなら普段使ってる包丁でいいかな!」


 そう言ってそっと、包丁をつつみにしまいなおしたのでした。え、いいんですか?


「お料理初心者の主婦さんにはお勧めの包丁なんだけれどねー。俺にはちょっと使いづらいかな。うん、そう言う訳で神棚にでも飾って置いて欲しいなって!」

「まぁ、そうなりますよね」


 ニナちゃんが足場を持ってきて、調理場を見渡せる神棚に包丁を納めてしまいました。……スパッツ?


「なるほど、スパッツか。うんうん、健康的でいいよね!でも女の子だからスパッツでも見えないようにした方が……はい、じっと見ちゃってすみません!ありがとうございます!」


 ニナちゃんが顔を真っ赤にしてジトっと真人さんを睨みます。けれど、ニナちゃん。恥ずかしがるのなら、ちゃんと下着もつけた方が私はいいと思いますよ。まぁ、今は真人様もいますし流石に言えませんけれど……。


「そういえば、お魚ってどうされたんですか?」

「ああ、もう下ごしらえも終わったし後は時を待つだけ……かな。うん、もう包丁も使わないな!」


 そう言って、タントンタンと自分の包丁でお客様の朝食を用意していく真人様。マネッチアさんのお爺さん、ごめんなさい。どうやら白包丁は受け取る前に役目が終わってたみたいです……。



 決戦の時。旅館の客間にはマネッチアさんのお爺さん、そしてフレア様にフレイア様まで審査員の席に座られていた。う、うん?なんだか大変なことになってはいませんか?


「うむ、真人のご飯が食べれると言ったらついてきた」

「フレア、母に向かってついてきたとは何だ。別に楽しそうだからという理由でついてきたわけではないぞ!この旅館の出資者は私だからな。その暖簾を持っていくと言うのだ、そ奴がそれにふさわしいか確かめる必要があると思うてだな」


 どうやら楽しそうだからついて来たのだそうです。……お、お仕事大丈夫なのでしょうか?


「そこのペタンこエルフ娘、失礼なことを考える出ないぞ!」

「か、考えてません!」


 思わず目を逸らしてそう答えてしまいました。ええ、失礼なことは決して考えていません!ただ、ちょっと後でイグニアさんのお説教が待ってないかなと心配しただけですし。


「その点は抜かりない。たまたま来ておったお主の父親を身代わりに置いて来たからの!いやぁ、背格好が似ておって大助かりだったわ!」


 何をしているんです、お父様っ!


「――さて、お待たせいたしました。これが私のご用意できる最上の魚料理となります」


 そう言う魔人キートスさんが並べるのは生け作りに尾頭付きの焼き物、そして豪華な天ぷらでした。どれもこれも見ているだけでよだれが出てきそうなくらい美味しそうです!


「ほう、これはなるほど……」

「確かに言うだけの事はある」

「んーうん」


 三人の審査員はもぐもぐとキートスさんの料理を一口ずつと食べて行きます。ううん、いいなぁ……。


「さぁ、次だぞ坊主。はは、碌な魚もないお前に何ができるか見モノではあるがな!」


 ケラケラとキートスさんが笑って一緒にいる取り巻きの人たちまで笑い出します。うう、確かに市場では何も買えませんでしたけれど、真人さんはきっちりと準備をされていたのですから!


「まぁ、出来ることなんて限られてたしね!はいどうぞ?」


 出されたのは焼き魚とご飯、そしてお漬物に御吸物でした。


「え、これだけか?こんなもので俺に勝てるとでも?ははは!笑わせてくれる!」


 キートスさんと取り巻きの人たちが勝利を確信してニヤニヤと笑っています。けれども、確かにこれじゃあ……。


「まぁ、食べればわかるんじゃあないかな?」

「……ふむ、真人がそう言うのだ。食べてみればわかるのだろう」


 そう言って最初に真人様の料理に口を付けたのはフレイア様でした。焼きたての半分に開かれた魚を箸でサクリと一つまみして醤油で垂らした大根と一緒に口に運びます。


「ほう、成程……。くふ、箸が止まらぬ!ああ、ご飯をもう一善もらえるか?これだけで何杯もご飯が行けてしまいそうだ!」


 パクパクもぐもぐと、先ほどのキートスさんの料理と変ってガッツリと食べ進めて行きます。そ、そんなに美味しいのでしょうか?


「ん、お吸い物もおいし……。んふ、お麩ー♪」


 透明でまるでお湯にしか見えないお吸い物を、美味しそうにフレア様が一息に飲み干します。


「な、何でだ?!俺の料理は黒包丁を使った料理だぞ!なのに一口だけだったのに!何でだ!」

「分からんのか、この深い風味を。ああ、一口食べ進めていく度に幸せが口の中に広がっていくかのようだ。そう!まるでこの街に吹き抜ける感じるかのようだ!それに比べてお前の料理は――豚の餌あああああああ!!」


 マネッチアさんのお爺さんがそう叫ぶと、キートスさんはガクリとその場に崩れ落ちました。

 でも、いったいどうして……。


「簡単な話さ。ここの街にはいい風が吹く。うん、つまるところは釣ったお魚を朝から日干ししておいたんだよ。そうするだけで美味しさがギュっと広がるからね。他の料理はまぁ、普通に作っただけだけど!」


 つまり、真人様のいつもの料理を出しただけだという事。けれど、それだけであの黒包丁にどうやって……。


「確かに技術を受け継いだのかもしれない、食材も最高のモノを使ったのかもしれない。けれど、おかずのメインばかり出されても食べづらいし?何よりうん、全体的に見栄えが悪いなって。和食として出すんなら大皿ドーンばかりじゃダメだよねって。天ぷらだって山盛りにしてるせいで色々とひどいし」

「ふ、ふざけるな!こんなのインチキに決まってる!この、クソガキがああああ、あべら!?」


 叫びながら真人様に飛び掛かって来たキートスさんは、傍にいたコーリーちゃんのパンチで吹っ飛んでいきました。……え、コーリーちゃん!?


「真人さんのこと悪く言うの、め~です!」


 ぷっくりと頬を膨らませて、コーリーちゃんへ次々と襲い掛かって来る取り巻きの人たちをポンポンと放り投げて行きます。強い。強くないです?


「コーリーは元々は遊牧民の長の娘だから強い。小さいころから鍛えられていたんだって」


 もぐもぐとご飯を頬張りながらフレア様がうんうんと頷いています。


 わ、私、聞いてないです!


「これでまぁ、面倒ごとは終わりかな。うんうん、伝説は伝説に。黒包丁なんて言うモノはどこの世界でも伝説でしかないモノなんだよ」


 うんうんと、何だか納得顔の真人様が、そっと黒包丁を元の神棚に収めていました。


 神棚には二対の包丁。白と黒の伝説の包丁が人知れず、そろった瞬間なのでした。



 あれ?ここ、れで終わり?終わりなんですか!?

という事でこれにて挿話2つ目は終わりになります。


ご覧いただきありがとうございます。


次話より第6章へと突入してまいります。

是非読んでいただければ幸いで( ˘ω˘)スヤァ

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