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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
挿話:ペタン娘エルフメイドと伝説の黒包丁~伝説は伝説に~
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挿話:ペタン娘エルフメイドと伝説の黒包丁~伝説は伝説に~

 あの時、私は死を覚悟していました。


 ううん、違う。あの時私は間違いなく人として死んでいたのです。


 それは拷問ですらない、一方的な凌辱でした。


 私は答えるべき答えなど持つわけも無く、ただ、ただ、ただ、ありとあらゆる暴力に耐えるしかありませんでした。


 目を抉られ、耳と鼻を削がれ、歯をすべて抜かれ、健を切られ、生皮を剥がされ、舌を抜かれ、肉を削がれ、四肢を奪われ、喉を焼かれ、最後には女としての()()をも奪われました。


 痛みと恐怖と絶望の怨嗟をあの男(ボーマン卿)に向けて声なき声で私は叫び続けたのです。


――いつ来るとも分からない死に怯えながら。


 だから、私はずっと、叫んでいました。


殺して(助けて)


殺して(助けて)



ころして(たすけて)




ころして(たすけて)





ころして(たすけて)








ころして(たすけて)









「しなせて」






 声にならぬ声に応えるモノは無く。私は闇の中で、ズキンズキンと全身から響き続ける激痛だけが生きている証と感じながら、永遠とも思える時をさまよい続けていたのです。



 ふと、何かが私の唇に触れ、何か液体が喉に流し込まれました。

 柔らかで、暖かで、それが誰かの唇なのだとその時の私には気づくことすらできず、久々に感じる痛み以外の感触に喜びすら見出していた――その瞬間でした。

 唐突に快感ともとれる感触が全身を包み込み、驚きの声を上げる間もなく、今までずっと続いていた痛みが消え失せ、消えたはずの目に光が差し、音も、匂いも、感触すらも戻ってきたのです。


「う、動く。え?何で?これって――」


 思わず、私はそんな声を上げてしまいました。だって、もう取り戻すことなんて不可能だと思っていたのです。だのに、何の脈絡もなく、気づけば戻っていただなんて夢みたいなことある訳が無いのですから。


 ええ、その代償として私は真人様に私の全部を見られてしまったのですけれども!うう、今思い出すだけでも頬が熱くなってしまいます。


 そうして私は……ううん、私たちの国もシルヴ様も同じく三賢龍たちに捨てられそうになっていた羊族のコーリーも耳の小さい兎族である黒兎族のニナも、そして、今回の事件の首謀者とも言えるお父様すら救ってくださいました。

 後で聞いた話で、私に使ってくださったのはエリクシールと言う下手をすれば国一つ買えるともいえる奇跡の秘薬だったそうで。ええ、つまるところ私は真人様には返しても返しきれない大恩を受けている訳なのです。


 けれども、どうしても納得が出来ていないことが一つだけありました。


「まぁ、その、救ってくださる手段としてキスをされたのは分かるのです。分かるのですけど、その、もっとこう逢っていいと思うんです。確かに、あの時の私は目も当てられない状態だったのは分かるんです。けど、うううう……」

「エリス、手、止まってる。お仕事終わらないと、ご飯、食べれないよ?」


 慣れた様子でてきぱきと、黒くて小さな耳をピコピコさせながらニナは洗濯物を片付けて行きます。ええ、分かってます。分かっていますとも。けれども私は趣味でやっていたお料理以外はお家でお母様のお手伝いでやっていたくらい。本格的にメイドさんをやっていたニナにかなうはずもありません。


「ふぇぇ、ニナ。まって。わたしもまだ、おわってないー。はわ、あわわぁ~」

 

 パタパタと風にはためくシーツに巻かれてコロンと転んだのは羊族の少女、コーリー。相も変わらずドジというか、あわてんぼう過ぎます。もう少し、落ち着いて……あぶゅ!?


「えへー、エリスちゃんもいっしょだー」


 ミノムシのようにシーツに丸められてしまった私を見て、コーリーが何だか嬉しそうに笑います。うう、恥ずかしい……。


「はいはい、早く取り込んで、ください。落ちてしまった分は後で洗い直しです」

「メェェ!?」「きゃうん!?」


 くるんと、見事にシーツをニナちゃんに剥ぎ取られ、私とコーリーは柔らかな中庭の芝生に転がります。

 空にはモクモクと源泉から立ち上る蒸気。白い靄は風に穏やかに揺らめき、心地よい香りがふわりと辺りに広がります。


 そう、ここはヴァルカス領、魔王フレイア様のお城なんです。


 私とニナ、そしてコーリーはあの事件の後も引き続いてフレア様のメイドとしてお仕えすることにしたのです。フレイア様曰く、真人様に御恩があるのならうちで返せばいいとの事。フレア様は真人様の婚約者であらせられるから、一緒についていけばそのうちに真人様のお役に立てるとの寸法らしい。

 うん、上手いこと言い含められて信頼できるメイドさんとして雇い入れられた感じなのですけれど、真人様のおそばにいれるかもしれないというお言葉にそそのかされて、思わず、つい、ついて着てしまった私であります。うう、シルヴェスが大変な時なのにわがままな娘をお許しください、お父様。


「三人とも早くご飯。(オレ)、お腹空いた」


 ふんす、と腰に手を据えて現れたのは私たちの主、フレア様でした。どうやら中々戻ってこない私たちを心配して見に来てくださったみたいです。


「フレア様、もう少しお待ちください。ほら、二人とも早く済ます」

「「はーい」」

「仕方ない、己も手伝う。ほら、早くする」


 そう言ってフレア様まで私たちの手伝いをしてくださいます。


「ふふ、こういうのも中々に楽しい」

「みんなでやるからですよ」


 ニコニコとフレア様楽しそうに微笑みます。聞くところによると、このお城には同年代の子がおらず、こんな風にお話できる人がいなかったらしいのです。ううん、一応私たちってお仕えする立場なのですけれども?


「真人が言っていた。主人も従僕も、仲が良ければ良いだけいいんだと。うん、立場が違えどゆうじょうは育めるんだって」


 そう言うフレア様の表情は暖かい。ああ、本当にこの出会いも真人様に出逢えたからこそです。なんて言ったらフレア様にほっぺたをつねられてしまった。うん、何でですか!?


「くぬぬ、エリスは可愛い。だから真人もいちころになってしまう。また嫁が増えたら……うん?エリスならいいか」

「いいんですか?!」


 コクリとフレア様は頷きます。


「だって、エリスは良い奴だもの。己はエリスの事、大好きだし」


 どうやらフレア様は本気らしい。うう、確かに真人様にはき、キスをしていただいていますし、やぶさかではないと申しますが……あれ?フレア様?


「き、キス……?!ま、まさか、いつの間に、己でさえ、つ、ついこの前したばかりなのに……」


 なんだかものすごい事を言ってしまったらしい。うん、キスと言いましてもね?緊急措置といいますか、死に水的にお薬を飲まされた時なんですけれど……。


「ぐすん、それでも羨ましい。うう、今度逢った時に絶対してもらう。いや、今すぐにでも――」

「ダメですからね!?」


 そう、昼食の後はフレイア様の側近、イグニア様のお勉強の時間が控えていて……あ、まさか。


「バレたか」


 ペロリと舌を出してフレア様が悪戯っぽい顔を見せます。真人様に逢いに召喚されたと言う体でさぼろうとしていましたね!もう、この人は……。

 ふふ、と私とニナは思わず笑い声をあげてしまったのでした。うん、コーリー?ちょっと笑い過ぎじゃないかしら?何で爆笑しているの?!

とってもとっても遅くなりましたOTL

ええ、連勤は強敵ですn( ˘ω˘)スヤァ


ヴォルガイア領→ヴァルカス領

ミスってました、申し訳ございません!OTL

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